その贈り物は蔵の中に置かれたままで、さくらはまだ一度も手を触れていなかった。夕食を済ませた後、さくらは一人で灯籠を手に蔵へと足を向けた。玄武が付き添おうとしたが、さくらは断った。紫乃までもが同行を申し出たが、これも遠慮された。贈り物は一人で開けたいのだと。不安に思った玄武は、板張りの縁側に腰を下ろし、扉越しにさくらの気配を感じながら待つことにした。その頃、拓磨が戻って来て報告があった。北條守は知らせを聞くなり、壁に頭を打ち付け、大量の血を流したという。「まさか、あそこまでやるとは……」拓磨は震える声で語った。目の前で起きた出来事とは思えない。その激しさは、まるで死のうとしているかのようだった。「足が僅かにもつれたのが幸いでした。あの勢いのまま突っ込んでいれば……」拓磨は言葉を飲み込んだ。「どうして今になって……」拓磨は有田先生に問いかけた。「なぜ、こんな事を……葉月琴音への想いが本物なら、捕らえられた時に一緒に死のうとすればよかったはずです。それこそが真の愛情というものではないでしょうか。なのに、どうして今になって……処刑された後になって、柱に頭を打ちつけるなどと」有田先生は黙考したが、北條守の心情を理解することは難しかった。「命は取り留めましたか?」「分かりません。私が出る時には部屋に運び込まれた所でした。奥方は悲鳴を上げ続け、屋敷中が大騒ぎになっていました。あ、それと……」拓磨は苦笑を浮かべた。「守様の妹君が私に掴みかかってきましたが、何とか逃げ出せました」「まるで狂犬のようでした」拓磨は身震いしながら続けた。「あの女は……口を大きく開けて牙をむき出し、爪を立てて……私を食い千切ろうとするかのような勢いでした」有田先生は彼の肩に手を置いた。「あの家の者たちには、常識は通用しませんな。これからは関わらないのが賢明かと存じます」「この私が直接知らせて本当に良かった」拓磨は冷や汗を拭いながら言った。「もし彼が親王邸まで来て問い詰め、ここで同じことをしでかしていたら……どんなに言い訳をしても、取り返しがつかなかったでしょう」「そうですね」有田先生は頷いた。「もう休まれたらいかがですか。考え込みすぎるのもよくありません」拓磨は「はい」と答えたものの、沢村お嬢様と村上教官にこの一件を話さずにはいられなかった。これまでの
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