医生は、桃が自身も傷を負い、血を流し続けているにもかかわらず、まるで痛みを感じていないかのように、ただひたすら雅彦の容態を問い続ける姿を見て、胸が締めつけられた。どれだけ多くの生死の現場を見てきたとしても、この瞬間はやはり心を揺さぶられた。彼も「大丈夫だ」と言って桃を安心させ、しっかりと傷の手当てを受けさせたかった。しかし、責任ある医者として、確実でないことを安易に口にすることはできなかった。「お嬢さん、とにかく、全力を尽くします」医者の言葉を聞いた桃の目は、わずかに曇った。「先生、お願いします……絶対に彼を助けてください」そう言いながら、桃は雅彦の手を握りしめた。かつて、この手はいつも温かかった。彼の掌に触れるたび、その熱を感じられた。けれど今は、まるで氷のように冷たかった。桃は力強く雅彦の手を握り、自分の体温を伝えようとした。まるでそうすることで、この眠る男に少しでも温もりを届けられるかのように。どれほどの時間が経ったのか分からなかった。気づけば、もう救急車は病院の前に到着していた。重傷患者の到着を知り、すでに医療スタッフが待機していた。雅彦はすぐに手術台に乗せられ、そのまま緊急治療室へと運び込まれた。桃と翔吾は、その後を追って手術室の前まで来た。しかし、冷たい扉が閉ざされたのを見て、ようやく足を止めた。手術室の上に灯る「手術中」の赤いランプを見つめながら、桃の手は無意識に絡み合っていた。翔吾もまた、目を離さずにじっと見つめ、何かを見落とすまいとしていた。手術室の前にある椅子に座り、背中を冷たい壁に預けた。その感触が、ますます彼女の心を冷えさせた。無意識に腕を抱きしめたくなったが、少しでも動くと肩の傷が激しく痛み、頭がくらくらと揺れた。おそらく、失血がひどいせいだろう。意識が遠のきそうになるのを、桃は必死に抑えた。今は取り乱している場合ではなかった。まだやるべきことがった。少なくとも、意識を失う前に済ませておかなければならないことがあった。桃は深く息を吸い、スマホを取り出して海に連絡を入れた。まずは、宗太のことを伝え、すぐに捕まえて逃げられないように手を打ってほしいと頼んだ。次に、翔吾の世話をお願いした。海は、今日は雅彦が桃のためにサプライズを準備して
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