All Chapters of 植物人間の社長がパパになった: Chapter 671 - Chapter 680

宗太という名の男性は孤児だった。幼い頃に重病を患い、カイロス医師に命を救われた。その後、病が治った際に彼の天才的な才能が明らかになったが、恩人への感謝から外の世界に出て活躍する道を選ばず、ドリスのボディーガードとなった。それからの長い年月、二人の関係は非常に良好だった。ドリスにとって、宗太はまるで実の兄のような存在だった。一方で、宗太は心に秘められた感情があったが、ドリスには想いを寄せる男性がいたことを知っており、自分の気持ちを抑え続けていた。もし、その男性が本当にドリスを愛し、彼女を幸せにしてくれるのなら、宗太は一生「兄」としてドリスを守り続ける覚悟だった。だが、どうやらその男は、この大切な存在を尊重していないようだった。宗太の目が暗く沈んだ。彼は腕の中のドリスをぎゅっと抱きしめた。「心配しなくていい。君がやりたいことなら、必ず俺が叶えてみせる」その言葉にドリスは力強くうなずいた。宗太は車を運転して彼女を家まで送り届けると、すぐさま部下に桃の調査を命じた。一体、ドリスをここまで思い詰めさせた女性とはどんな人物なのか、確かめる必要があった。しかし、異国の地でこうした出来事が起きているとは、桃はまったく知らなかった。家に戻った桃は、翔吾の世話を終えると、佐和のことを母の香蘭に伝えた。香蘭は佐和が事故に遭ったと聞き、大きな悲しみに襲われた。長年、彼女は佐和を自分の息子のように可愛がってきたからだ。桃は泣き続ける香蘭を必死に慰めた。香蘭は体調が優れなかったため、本当は伝えたくなかったが、隠し通せるようなことでもなかった。香蘭は悲しみを抑えながらも、憔悴しきった娘を見て気丈に振る舞った。「私は大丈夫だから、あなたは早く佐和の遺品を整理して、葬式に間に合うようにしてちょうだい」桃はうなずき、介護人を呼んで母を任せると、すぐに佐和のアパートへ向かった。部屋に入ると、見慣れた家具の配置が目に飛び込んできて、桃は少し胸が詰まった。この空間だけは何も変わっていないように見えたが、もうこの部屋の主人が帰ることはないのだ。それでも桃は涙をこらえ、黙々と佐和の遺品整理を始めた。佐和はシンプルな生活を好む人だった。仕事以外の時間は桃と翔吾と過ごしていたため、整理にはそれほど時間がかからなかった。医学関連の資料は桃には分からなかっ

カイロス家は代々医療を生業とする名家だった。宗太はこの家に留まった後、名目上はドリスのボディーガードとして働いていたが、その実力からして、ただそれだけにとどまるはずがなかった。彼はこの数年でさまざまな特殊な毒薬を研究し、その効果も多岐にわたるものだった。その制毒の技術を駆使し、宗太はヤクザでも広い人間関係を築いていた。「俺が新しく開発した慢性毒を、あの女の薬に混ぜろ」宗太は少し考えた後、そう決断した。それは無色無味で、毒性も即効性はないが、長期間摂取すると体の器官が徐々に衰えていくという恐ろしい毒だった。しかも、トップクラスの医療機関で精密検査をしない限り、原因を突き止めるのはほぼ不可能だった。この毒は、本来は宗太が厄介な敵を排除するために準備したものだったが、まだ試験段階にあり、ちょうどいい機会だから、あの女を実験台に使って効果を確かめてみることにしたのだ。指示を受けた部下たちはすぐに動き出し、派遣医師を装って病院に潜り込み、実行のタイミングをうかがった。数日後。菊池家の雅彦の元に、海外から大きな荷物が届いた。彼は使用人に開けさせると、中には佐和の遺品が細かくリストアップされた明細書が添えられていた。それらはすべて丁寧に整理され、送られてきたものだった。雅彦の目つきが暗くなり、彼はそれらを自室に運ばせると、ひとつひとつ自分で確認し始めた。しかし、最後まで見ても、それ以外の何か特別なものは見つからなかった。もしかしたら桃が何か一言でも書き残しているかもしれないと期待していたが、結局、それもただの思い過ごしに終わった。時折、雅彦は桃の潔さが羨ましくなることがあった。一度去ると決めたら、振り返ることなく、微塵の希望さえも残さずに彼の前から去っていく。雅彦の唇は苦い笑みを浮かべた。彼はポケットから携帯電話を取り出し、ふとした私心から、桃に電話をかけ、「荷物は無事届いた」と伝えたい気持ちに駆られた。ここ数日間、雅彦はほとんど休むことなく働き詰めだった。休むことができなかったのではなく、あえて休まなかったのだ。少しでも時間が空けば、桃のことを考えてしまいそうだった。彼は彼女の声を聞きたくなった。今彼女の状況を知りたくなった。携帯電話の画面には桃の番号が表示されたまま。長い間そのまま動かず、最終的に彼は電話をかけるのを諦めた。

桃が考え事をしていた時、看護師が音を聞いて部屋に入ってきて、彼女の状態を確認した後、声をかけた。「桃さん、気分はどうですか？ どこか具合が悪いところはありますか？」桃は少し眉をひそめて答えた。「体がちょっとだるいし、筋肉も少し痛いんだけど、これって普通のことなのかな？」看護師は少し戸惑った様子で、その症状が予想外だと思った。手術は小さなものだったので、こんなことが起きるはずはなかった。しかし、ちょうどその時、手術を担当した医師が部屋に入ってきた。「この反応は普通です。おそらく、あなたの体質が敏感だから麻酔に影響されたのでしょう。小さな手術でも、体が少し排斥反応を示すことはよくあります」桃は医療のことには詳しくなく、医師の言葉を聞いて、ただうなずいた。佐和はとても責任感のある医師だから、彼女は医療スタッフを信頼していた。桃が疑う様子もないことを見て、医師はほっとした様子で、携帯電話を手渡した。「じゃあ、これで連絡先を交換しましょう。体調に何か不安があれば、私に聞いてください。病院に何度も来る必要はありませんから、時間を無駄にしないように」桃は医師の親切な提案を断る理由もなく、すぐに連絡先を交換した。目の前の女性が、自分に何が起こったのか全く分かっていなかった様子を見て、医師の瞳は一瞬暗くなった。本当に騙されやすい女性だった。残念ながら、彼女は手を出してはいけない相手を選んだようだ。「何か体調が悪ければ、気軽に連絡してください。遠慮しなくていいですよ」その一言を残して、医師は部屋を出て行った。桃は病院で一晩休んだ後、翌日、少し体調が改善されていたが、まだ完全ではなかった。症状は軽くなったので、すぐに帰宅することにした。長期間、家を空けていると、母親と翔吾が心配してしまうだろう。家に帰る時、香蘭は翔吾と一緒に食事をしていた。桃が帰宅すると、小さな翔吾はすぐに手を振った。「ママ、ちょうど帰ってきたね！ 早くご飯食べて！」桃はうなずいて食卓に向かおうとしたが、料理の匂いをかいだ瞬間、急に気持ち悪くなり、吐き気を感じた。「桃、どうしたの？ 大丈夫？」香蘭は彼女の様子を見て驚き、彼女の顔色が悪いことに気づいた。桃はびっくりして後ろに二歩下がり、少し笑顔を作って言った。「大丈夫。昨晩、物を片付けてて

車のドアはしっかりとロックされていて、暗いガラス越しでは何も見えなかった。桃は自分が少し神経質になっているのではないかと思い、頭を振って微笑んだ後、振り返りその場を離れた。車内にいた雅彦は、桃が去っていったのを見届け、ようやく胸を撫で下ろした。この数日、雅彦は国際会議があり、その場所が偶然にも桃の住む街だった。最初、彼は来るつもりはなかった。もし会ってしまったら、お互いに気まずくなるかもしれないと心配していたからだ。しかし、結局心の中の想いを抑えきれず、普通の車を借りて、桃と翔吾を見かけるだけでもいいと思い、桃の家の前に車を停めた。だが、一目見た後、雅彦は予想以上に満足しなかった。桃の微笑みが浮かんだが、彼は遠くからでも、その表情から彼女が以前よりずっと痩せていたことに気づいた。元々桃は細身だったが、今回見ると、さらに痩せたように見えた。特に、彼女が着ているシャツはピタッと体にフィットしており、その曲線がよくわかった。腰が細くなりすぎて、握りこぶし一つで掴めてしまいそうだった。この数週間、桃はあまり良い状況ではなかったのだろう。雅彦の胸が痛むような感じがして、微かな痛みが走った。そんなことを考えているうちに、桃は手を振りながら、タクシーに乗り込んで面接に向かうところだった。雅彦はしばらく迷った後、遠くから追いかけることにした。桃に気づかれたくなかったが、彼女があんなに憔悴して痩せてしまった姿を見て、心がどうしても落ち着かなかった。雅彦は慎重にタクシーを追いかけ、その後、会社の前でタクシーが止まったのを見て、外で待つことにした。桃は履歴書を手に、会社に入って行った。雅彦はその外で待ち続けた。桃は準備を整えて、面接官と少し話した後、面接官は満足そうに頷き、彼女に仕事を与えることに決めた。桃はこの面接はきっと成功したと思っていたが、その時、アシスタントのような女性が面接官の耳元で何かを耳打ちした。面接官の顔色が少し曇り、しばらくしてから桃に向かって言った。「申し訳ありません、桃さん、先ほど適任の方がいらっしゃって、その方が当社の招待を受け入れることになったため、恐らくあなたを採用することはできません」桃は眉をひそめて言った。「この面接のために、私は長い間準備して、他の面接も断ったんですよ。それなのに、

「こんな状態で、自分で病院に行けるのか？」雅彦は桃の腕を引いて、彼女を自分に寄りかからせた。長い間会っていなかったが、この女性の性格は全く変わっていなかった。相変わらず、強がっていた。「私は別に何ともないの。ただ朝ご飯を食べていなくて、少し頭がくらくらするだけ。帰っていいよ」桃はそう説明したが、その言い方では説得力がなかった。雅彦は彼女のこの自己欺瞞的な態度に、怒りと笑いが入り混じった。自分がどれだけ嫌われているのか、桃がこんなにも焦って自分を追い出そうとしているのか。「先に検査を受けろよ。問題がなければ、もちろん帰るよ。でも、こんな状態でどうやって帰るのか？それとも、君のお母さんに連絡して、来てもらって見てもらうか？」雅彦は桃が頑なに拒否するので、香蘭の名前を出した。母親の話になると、桃は少し冷静になった。もし母親がここに来たら、自分がこんな状態でいるのを見て、きっと心配するだろう。この何日間、母親は自分のことをとても気にかけてくれていた。「わかった」桃はとうとう折れた。雅彦はその言葉を聞いて、すぐに腰をかがめて、桃を抱き上げて、大きな歩幅で病院に向かって歩き始めた。実は雅彦はずっと言いたかったことがあったが、タイミングが合わなかった。今回はもう我慢できず、ついに口にした。「どうしてこんなに痩せたんだ？最近、ちゃんと食べていなかったのか？」桃は首を振った。「最近ちょっと疲れていただけ。何でもないよ」雅彦は彼女がそれ以上話したくないことを察して、これ以上追及はしなかった。今は何よりも桃が早く検査を受けることが最優先だった。診察室に彼女を送った後、雅彦は医師に最も揃った健康診断を手配するよう頼んだ。桃の体をしっかりと調べてもらうことにした。桃も病院に来たのだから、検査を受けることにしても問題ないと思い、協力した。雅彦は外で検査結果を待ちながら、午後に急ぎの用事があることを伝えるために、取引先に電話をかけようとした。しかし、ふと気づくと、携帯電話を車に忘れてきたことに気づいた。雅彦は急いで階下に降り、車に向かって探しに行った。携帯電話を取り戻すと、ちらっと目をやると、桃が助手席に置いていた履歴書が目に入った。眉をひそめた雅彦は、その履歴書を手に取って見た。それは最近書かれたばかりのようだ。桃は新しい仕事を探している