植物人間だった夫がなんと新婚の夜に目を開けた のすべてのチャプター: チャプター 581 - チャプター 590

597 チャプター

第581話

「今日は彼がとても忙しいので、電話に出る暇もない」 スタッフは少し困った表情を浮かべた。 「わかりました。お嬢様、少々お待ちください。担当者を呼んできます」 約2分後、スタッフが直美を連れて戻ってきた。 直美は瞳を見ると驚いた顔をした。「何の用で奏に会いに来たの?今日は彼、本当に時間がないわよ」 「たかがイベントでしょ?彼がいなくても進行できるはずじゃないの?」瞳は皮肉を込めて笑った。「彼、水を飲む時間もトイレに行く時間もないの?」 直美はその挑発的な態度に負けじときっぱり言い返した。「瞳、あなたは一体何の用なの?あなたの旦那さんと奏が仲がいいから、伝言くらいなら聞いてあげるわ」 「伝言なんていらない!私を中に入れなさい!少し話したらすぐに出るから!」瞳は怒りをあらわにした。「普通の場なら入れてもいいけど、今日は重要なお客が多いの。私の判断では勝手にあなたを通せないわ」直美は冷静に言い放つと続けた。「あなたが伝言を頼まないのなら、私はこれ以上ここにいられないわ。私も忙しいの」 直美は瞳がとわこの件で奏を訪ねてきたのだと察していたため、絶対に中に入れるつもりはなかった。 「直美、あなたも知ってる通り、私の旦那と奏は親しい関係よ。それなのに、どうして私を通さないの?あなたが奏の代わりになると思ってるの?子遠でさえ私をこんな風に扱わないのよ!あなたなんて、奏の側にいるただの犬よ!」瞳は直美が自分をわざと敵視していると感じていたため、特に容赦のない口調で話した。その言葉に直美の顔が一気に赤くなり、目に涙が浮かんだ。「瞳、私が彼の犬だと言うなら、なおさらここは通せないわ。犬には犬の役目がある。それは主の門を守ることよ!」怒りに駆られた瞳は、直美の綺麗な顔を勢いよく平手打ちした。 「パチン!」と大きな音が響いた。 周りの警備員やスタッフがその光景に目を見開いた。 1人のスタッフが直美のそばに駆け寄り、小声で尋ねた。 「直美さん、大丈夫ですか?この方を退場させましょうか?」 直美は痛みをこらえ、冷ややかに笑った。「このお嬢様に逆らえる人なんていないでしょう。社長を呼んできて」スタッフは急いで会場に入り、奏を呼びに行った。 しばらくして、奏が現れた。 その目はまず直美の頬
last update最終更新日 : 2024-12-10
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第582話

瞳は痛む頬を押さえ、完全に呆然としていた。 さらに驚いたのは、奏から次の瞬間に発せられたたった一言だった。 「出ていけ!」瞳は20年以上誰からも顔を叩かれたこともなければ、そんな乱暴な言葉を浴びせられたこともなかった。 彼女は短気な性格だが、それが心が強いわけではない。 頬を押さえたまま、瞳は涙を流しながら走り去った。 奏はその後ろ姿をじっと見つめ、手をきつく握りしめた。 彼にはわかっていた。この出来事を瞳がとわこに伝えれば、とわこがどれほど怒るかは明白だった。 しかし、すでに起きたことは取り返しがつかない。たとえやり直せたとしても、彼は同じように瞳を叱りつけただろう。 この女は言葉だけでなく行動でも一線を超えすぎている。 直美はただの広報担当ではなく、三木家の令嬢でもある。 瞳がどんな立場であれ、みんなの前で彼女を侮辱するべきではなかった。 瞳は泣きながらホテルを飛び出し、自分の車に乗り込んだ。 車を幹線道路まで運転して停車すると、彼女は夫である裕之に電話をかけた。 「ううう......あなた!奏が私を叩いたのよ!」 瞳は涙で視界がぼやけ、完全に感情が荒ぶっていた。運転どころではなく、車を路肩に停め、ハンドルに伏して泣き続けた。裕之は信じられないという声を上げた。「瞳、何だって?奏兄が君を叩いたって?」 「彼を兄付けで呼ばないで!彼は私を叩いたのよ、この最低な男が直美のために私に手を上げたの!」瞳は息も絶え絶えで、今にも気を失いそうだった。 裕之は心が締め付けられるようだった。「君、今どこにいる?迎えに行くよ!」 「うう!ホテルの外にいるわ。ハザードをつけて......ずっと泣いていて、運転なんて無理」 「すぐ行く!だからもう泣かないで。心が痛むから」裕之は優しく慰めながら、急いで車を取りに行った。 彼は奏に電話して事情を確認したい気持ちでいっぱいだったが、瞳との通話を切ることができなかった。 瞳がこんなに泣き崩れる姿を見るのは初めてだったのだ。 30分後、裕之はホテルの外で瞳を見つけた。 「あなた!」瞳は裕之の胸に飛び込むと、泣きすぎて声がかすれていた。「彼と絶交して!もう二度と彼に会いたくないの!」 裕之は片手で彼女
last update最終更新日 : 2024-12-11
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第583話

奏は少し黙って、低い声で尋ねた。「彼女はこのことをとわこに話したのか?」 裕之は答えた。「いや、まだ話していない。少なくとも今のところは彼女から話すことはないだろう」「なぜだ?」奏は、瞳が今日自分を訪ねてきた理由を知りたかった。 裕之は少しの間ためらい、正直に話した。「今日、瞳があなたを訪ねたのは、とわことあなたの子どもに問題があるかもしれないと知らせるためだった。彼女は今日、とわこと一緒に病院に行ったんだ」奏の喉仏が上下し、瞳の光が次第に暗く沈んでいった。 裕之はさらに続けた。「この件があったから、瞳の気持ちが不安定になって、焦って訪ねたんだと思う。彼女は悪い子じゃない」 奏は嗄れた声で応えた。「わかった」 電話を切ると、彼の胸には重い痛みが広がっていた。 子どもに問題がある。 子どもに、やはり問題があったのだ。しかし、とわこは自分に何も告げていなかった。 もし瞳が今日訪ねてこなければ、とわこは何も言わずに黙っていただろうか? 奏の心は鋭い刃でえぐられるような痛みを感じ、ぼっとして宴会場の入り口へ向かって歩き出した。「奏、もうすぐディナーが始まるわ。どこに行くの?」直美が急ぎ足で追いかけ、彼の腕を掴んだ。 彼はその手を振り払うと、低い声で叱責した。「俺に構うな!」 そう言い残し、大股でその場を去っていった。 直美は彼の冷たく孤独な背中を見つめながら胸を痛めた。言うまでもなく、彼が向かった先はとわこの元だということは明らかだった。瞳が午後に訪ねてきた理由も、とわこのことに違いない。 館山エリアの別荘。 夕食時、結菜から蓮に電話がかかってきた。 結菜はこう話した。「今、運転の練習をしてるの。運転できるようになったら、蓮とレラを連れて遊びに行きたいな」「結菜、すごいな!運転までできるようになるなんて!」マイクが感嘆の声を上げた。 結菜は笑いながら答えた。「真がね、私がやりたいことは何でも挑戦していいって言ってくれたの」 「真の言う通りだよ!君には無限の可能性があるんだから。運転ができるようになったら、君の兄さんに高級車を買ってもらいなよ!」マイクは冗談を交えて言った。 結菜は笑顔で返した。「うちにはたくさん車があるから、その中から好きなものを選ん
last update最終更新日 : 2024-12-11
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第584話

「俺には知る権利がある!」奏の目元は赤く染まり、感情を抑えきれずに声を上げた。 「たとえお前が望まなくても、俺が子どもの父親である事実は消えない!」 とわこは冷ややかに答えた。「今、あなたはもう知ったじゃない」 「確かに知った。でも、お前から聞いたわけじゃない!」奏は要求を突きつけた。「子どもの検査結果を見せろ!」 「検査結果なんてないわ」彼に手首を掴まれ、痛みに顔をしかめたとわこは彼の指を引き剥がそうとした。「手を放して!」 「なぜ検査結果がないんだ?!」 奏は一旦手を緩めたものの、完全には放さず、彼女の手首から腕へと位置を変えて再びしっかり掴んだ。 「アメリカで検査したの。結果はメッセージで送られてきただけ」彼の追及に嘘をつけず、とわこは正直に答えた。 「そのメッセージを見せろ!」奏の声には譲歩の余地がなかった。 今日、彼にメッセージを見せなければこの場を収めることはできなかいだろう。そのとき、別の部屋からマイクと子どもたちが出てきた。 「彼、何しに来たの?」レラが小声で囁いた。 「お前のママ、今日の午前中泣いてたぞ。理由はわからないけど......」マイクが答えた。 「ママが泣いたの?」蓮は眉をひそめた。 マイクは肩をすくめて言った。「知らないよ!俺も聞いたけど教えてくれなかった。でもさっきの夕食の時は普通だったし、大したことじゃないかもな」三人が小声で話している間、とわこは奏を家の中へ招き入れた。 マイクは子どもたちを連れて再びダイニングルームへ戻り、奏がとわこの後ろについて別荘に入った。彼女はテーブルの上に置いてあったスマホを手に取り、メッセージを開いて彼に見せた。奏は読んだ後、とわこの腹部へと視線を落とした。「今日、病院では何をした?」 彼が低い声で尋ねた。 「羊水検査よ」 「それをして何の意味がある?」 「子どもに本当に問題があるかを確認するため」とわこはこの話題をこれ以上続けたくなかったので、早口で付け加えた。「結果が出るのは二週間後。その時にまた聞きに来て」 奏は視線を遠くのダイニングルームに移した。そこには、三人の目がこちらをじっと見ていた。 彼はとわこの手を掴むと、彼女を階段へ引っ張った。 「何するの?!」とわこ
last update最終更新日 : 2024-12-12
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第585話

「たった数十日で、400億円稼いだ?どうやって稼いだのか、教えてもらおうか」彼は彼女の言葉を全く信じておらず、彼女が退けば追い詰めた。 ついに、彼女をベッドの端まで追い込む。 「どうやって稼いだかなんて、あなたには関係ないでしょ!子供のことだけ気にしてればいいの。私に口を出す資格なんてないわ!」彼女は彼の胸を押しのけた。 「君を気にすることが、子供を気にすることだ!」彼はびくともしないまま、目の奥にはさらに深く光を帯びた。「お腹に子供がいる限り、君に口を出す資格は十分ある!」 とわこは呆れたように笑ったが、反論するもっともな理由が思い浮かばない。 「病気を治してあげて、その報酬をもらったの」彼女も嘘をついたわけではない。 この400億円は奏がはるかに支払った報酬だった。 ただし、その病気ははるかが結菜のために治したわけではないため、彼女がはるかから受け取っただけのこと。 このお金を受け取ることに、後ろめたさはなかった。 「誰だ?」彼は彼女の言葉を疑いながら聞いていた。「誰がそんな大金を報酬として支払ったんだ?」 「あなたがはるかにそれだけの報酬を払うのは良くて、私が同じ額をもらうのはダメなの?それとも、自分以外にお金を持っている人間がいるのが許せないだけ?」とわこは彼を冷たく皮肉した。「思い上がりね!」 「とわこ、お前は一日でも俺を怒らせないと気が済まないのか?」彼は片手で彼女の首の後ろを掴み、顔が彼女の顔にほぼ触れそうなほど近づいた。 彼の熱く独特な吐息を感じ、とわこの心は燃え上がるように乱れた。 「何をするつもり?」彼女の長い睫毛が震え、呼吸が少し重くなった。「もし変なことをしたら、叫ぶわよ!」 彼女が声を上げて脅したその瞬間、彼の薄い唇が彼女の唇を塞いだ! 反抗しようとしたが、彼の長い腕が彼女の身体をしっかりと抱き締め、動けなくしてしまう! ...... どれだけの時間が経ったのか分からなかった。彼はやっと満足したようで、彼女を解放した。 とわこの目は赤く、瞳に浮かぶ怒りと悔しさが隠せなくなっていた。 「自分が何をしているのか分かっているの?!」彼女は彼を突き飛ばした。 思わず突き飛ばしただけだったが、彼を後ろへよろけさせた。 彼は背後の
last update最終更新日 : 2024-12-12
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第586話

彼の悲しみと怒りが入り混じった顔を見て、とわこは突然何も言えなくなった。 彼は既に彼女と涼太の間に男女の関係があると決めつけていた。もし自分が彼の立場だったら、きっと同じように誤解していただろう。 どんな状況で女性が男性のカードを受け取るのか? それは、関係が非常に親密で境界がない時に限られるに違いない。 かつて彼女が奏と付き合っていて、一番甘い関係にあった時でも、彼のカードを受け取ったことはなかった。 そこまで考えたところで彼女の思考は止まった。 彼の目に揺れる涙の光を見たからだ。 まるで首を絞められたように息が詰まり、必死に自分を救おうとするかのように彼女は声を振り絞った。「奏......彼はただ、このカードを私に預けただけ......私は彼のお金を使っていない......」 「そうか?」彼はカードを手のひらにしっかりと握りしめた。「それなら、俺が代わりに彼に返しておく」 そう言うと、彼は倒れていたハンガースタンドを起こし、部屋のドアの方へ歩いて行った。 そしてドアを開けると、マイクと二人の子供たちの顔が目の前に現れた。 彼は冷たい表情のまま一言も発さず、彼らの横を通り過ぎて階段を下りて行った。 「ママ!彼にいじめられてない?」レラがすぐに部屋に駆け込んできて、顔を上げて母親を見た。 とわこは薄く微笑みを浮かべ、バッグをハンガースタンドに掛けながら答えた。「いじめられてないわ。あなたたちが家にいるから、彼もそんなことできない」 「とわこ、俺には全部聞こえてたぞ」マイクが部屋に入ってきて、少し重い口調で言った。「子供に何か問題があるのか?」 どうりで彼女が午前中、目を真っ赤にして泣いていたわけだ。 とわこは無理に冷静を装いながら答えた。「まだ確定じゃない。ただ、リスクが高いみたい。詳しくは結果を待つしかない」 「そっか。じゃああまり落ち込むなよ」マイクは彼女を慰めるように言った。「俺が医者に相談したら、胎児は思ったほど脆いじゃないって言ってた。特に最初の3か月を過ぎれば、問題は起きないらしい」「うん」とわこは静かに頷いた。 「それと、今日彼と口論した時、いろいろ言っちゃったんだ」マイクは頭を掻きながら言った。 とわこの眉がぴくりと動いた。「何を
last update最終更新日 : 2024-12-13
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第587話

——この男、見た目はまともそうなのにやることが下劣すぎる! ——冷たくて怖そうな顔してるし、暴力的な性格っぽいわ!どんな命知らずの女が彼と結婚するか見ものだね! ——暴力的なのは大した問題じゃないわよ。仮に彼が殺人犯だとしても、金持ちだから結婚したがる女は山ほどいるでしょ! ——うんざり!私がその殴られた女性だったら、絶望しちゃうかも! ——殴られた女性って誰だろう?知ってる人いる?横顔、結構きれいな感じだけど! ......とわこはシャワーを浴びた後、葉酸のサプリを1錠飲み、ベッドに横になった。 午後に昼寝をしたせいで、まったく眠くなかった。彼女はスマホを開き、通知が来ているのを見つけた。大学時代のグループチャットからのタグ付けメッセージだった。 彼女がグループを開くと、みんなが激しく議論しているのが目に入った。 同級生A「この女性、横顔が瞳に似てない?」 同級生B「確かに瞳に似てるけど、絶対違うでしょ!瞳が殴られるなんてありえない! 」 同級生C「私の記憶が正しければ、瞳の旦那さんは奏と友達だったよね。奏が瞳を殴るわけないじゃん!」 同級生D「瞳!早く出てきてこの話題を見なよ!奏が殴ったって噂の女の人、瞳にそっくりなんだけど!@瞳」とわこはこれらのメッセージを見て混乱した。彼女はさらにチャット履歴をさかのぼり、画像が投稿されているのを見つけた。 その画像を見た瞬間、とわこはそこに映る奏を一目で認識した。 彼女は画像を拡大し、殴られた女性の顔をよく確認した。 もし今日瞳に会っていなかったら、他の同級生たちと同じようにこの女性が瞳に似ているだけだと思っただろう。しかし彼女は今日瞳に会っていた!しかも、画像に映るこの女性が着ている服は、瞳が今日着ていたものとまったく同じだった! この女性は、瞳だった! とわこの目に熱いものが込み上げてきた。彼女はスマホを握りしめる手に力を込めた。 瞳は家族の一人娘として大切に育てられ、これまで一度も理不尽な目に遭ったことがなかった。確かに彼女は少し我がままなところもあるが、自分から他人をいじめるような人間ではない。なのに、どうして奏は彼女を殴ったのか? とわこはすぐにベッドから起き上がり、上着を羽織って足早
last update最終更新日 : 2024-12-13
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第588話

「私が直美を殴ったの」瞳は話を続けた。「ちょっと感情的になったのは分かってる。でも、もしもう一度やり直せるとしても、また彼女を殴るわ!まだ常盤グループの奥様でもないのに、わざと私を困らせるなんて!」 とわこは瞳の話を聞いても、気持ちは重苦しいままだった。 瞳が先に手を出したのは確かに良くない。しかし、それは彼女と直美の個人的な問題であり、奏が第三者としてわざわざ首を突っ込む必要があったのだろうか? 「奏なんて最低よ!絶対に許さない!まあ、向こうも私に許してもらうつもりなんてないでしょうけど!」瞳はそう言いながら、とわこを一瞥した。「とわこ、私と奏の間のことは、あなたには関係ないわ。私が殴られたのは自分の口が悪かったせいもあるの。奏が直美のためだけに手を出したわけじゃないのよ」「瞳、あなたが彼に何を言ったとしても、彼が手を出すのは絶対に間違ってる」とわこは以前の出来事を思い出した。「彼は昔、蓮を殺しかけたことがあるのよ。蓮は今でも彼を憎んでる。私には、彼が蓮が自分の息子だともう気付いているように思える。でも、自分が犯した過ちのせいで、蓮と認め合う勇気がないんだと思う。蓮が絶対に彼を認めないことを分かっているから」瞳は呆然とした。「ってことは、私、彼に平手打ち一発だけで済んだことを感謝すべきかしら?」「彼の気性はひどすぎるわ」とわこはバッグから持参した薬を取り出して瞳に渡した。「瞳、もう彼のところには行かないで」「もちろん行かないわ。彼が私に謝らない限り、絶対に許さない。いや、謝られたとしても許さないけどね!」瞳は怒った口調で続けた。「でも、もしあなたが子供のために彼と仲直りするつもりなら、私は気にしない」「瞳、あなたは私の一番の友達よ。彼があなたを殴るなんて、私を殴るのと同じことよ」とわこは言った。「うぅ!やっぱりあなたは私の味方ね!でもとわこ、今あなたは妊婦なんだから、こんなことで気を揉まないでほしい」瞳は彼女の手を握りしめた。「医者はもっと休むように言ってるでしょ?それなのに、わざわざ私を見舞いに来てくれて、本当に感動してるわ。でも、彼のことで奏と口論するなんてやめてね。体に障ると困るから」 「私は大丈夫よ」...... 翌日、午前。とわこは淡いブルーのマタニティドレスを着て、常盤グループ本社のロビーに姿
last update最終更新日 : 2024-12-14
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第589話

子遠はとわこを奏のオフィスまで案内すると、温かい水を一杯用意した。 「何か食べたいものある?すぐ買ってくるよ」子遠は親切に声をかけた。 「いいえ、大丈夫。あなたは自分の仕事に戻って、私のことは気にしないで」とわこは答えた。 子遠は笑顔を崩さず、「今は特に用事もないから、ここで一緒に待ってるよ」と言った。 とわこは水を飲んだ。 「とわこ、昨日うちの社長が瞳を殴った件、すぐに聞いたよ。先に説明しておくけど、あれは直美のために手を出したわけじゃないんだ。瞳が社長に『クズ男』だの、『とわこに捨てられて当然』だの、不適切なことを言ったから......」 とわこは冷ややかな目で子遠をじっと見つめた。その視線に焦った子遠は、さらに墓穴を掘るように言葉を続けた。「えっと......社長、裕之にはもう説明済みのはずだけど」「あなたが説明すればするほど、彼が嫌いになるわ」とわこは水を置いて言った。 子遠は口をつぐんだ。「外で待ってる」 彼はオフィスを出ると、深く息をついた。 数分後、奏がエレベーターから大股で現れた。 子遠は数歩駆け寄り、小声で忠告した。「社長、彼女はものすごく怒ってます。気をつけてください。それに、彼女のお腹、だいぶ目立ってきましたから、何があっても感情的にならないでくださいよ......」奏は喉仏を上下させながら、無言でオフィスへ入っていった。 とわこは彼が入るとすぐ、持っていた書類袋から契約書を取り出した。 「これは、以前交わした三者間契約書よ」彼女は落ち着いた声で話し始めた。「私の会社と自衛隊の協力に、あなたが慈善を名目に介入する必要はないわ」「慈善を名目に、だって?」奏は眉をひそめた。「あなたが寄付を決めたのは、私を追いかけたかったからでしょ。本心から寄付したかったわけじゃない」とわこは挑戦的な目で彼を見つめ、ゆっくりと言葉を続けた。「この三者間契約を解消するわ。これは交渉じゃない。ただの知らせよ」奏は冷たい目で彼女を見据えた。「瞳のために来たのか」 「そうよ。それがどうしたの?」「俺が瞳を殴ったから、俺を憎んでるんだな」「そうよ。それがどうしたの?」 「たった契約を解消するだけで、気が済むのか?」彼は彼女の前に立つと、彼女の小さな手を掴み、自分の頬
last update最終更新日 : 2024-12-14
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第590話

直美はこの状況でも奏がとわこを庇うとは思いもよらず、胸が締め付けられるような切なさと悔しさを感じた。気づけば涙が頬を伝っていた。子遠が急いでオフィスに入り、ソファに座るとわこを引っ張り立たせた。 「直美が突然来るなんて、僕も知らなかった」子遠は真剣な顔で説明し、「とにかく下まで送るよ」「いらないわ」とわこは子遠の手を振り払い、大股でエレベーターに向かった。 彼女の心は今、複雑な感情でいっぱいだった。 確かに瞳の件で奏を訪ねたのは事実だが、彼を叩くつもりはなかった。 彼に挑発されたとはいえ、叩いてしまったのは事実だ。 彼は短気で口論も多かったが、これまで彼女に手を出したことは一度もなかった。 エレベーターを降りると彼女は駐車場に向かって歩き、車に乗り込んで会社に向かって車を走らせた。 その途中瞳から電話がかかってきた。 「とわこ、あなたが私のために奏を叩いたって聞いたわ......あれほど彼を探さないでって言ったのに!」瞳はこの話を聞いて驚きすぎて、顔の痛みすら感じなくなった。「よくそんな度胸があるわね!彼に叩き返されるのが怖くなかったの?」瞳にとって、女性や子供に手を出す男性は何をしてもおかしくない存在だ。 とわこは嘘をついた。「仕事の件で彼に会いに行っただけよ」 「あなたと彼の間にどんな仕事の話があるの?今、彼を叩いたら、これからどう顔を合わせるつもりなのよ?」瞳は想像するだけで息苦しくなった。 「別に彼に会う必要はないわ」とわこは冷静に言った。「あなたはしっかり休んで、辛いものは控えてね」 「ぷっ!とわこ、もうかなり回復してきたのよ。それに、今日あなたが私の恨みを晴らしてくれたおかげで、全身がスッキリしてる!」瞳は笑って言った。「顔が治ったら、おいしいものをご馳走するわ」「うん」 電話を切ったあと、とわこは会社に到着した。 悪い話は伝わりやすい。 奏を叩いた話は、なんと事が起きてから半時間も経たないうちに会社中に広まっていた。 会社に入ると、受付の視線がどこかおかしいことに気づいた。 オフィスに入ると、マイクがすぐに姿を現した。 「とわこ、手は痛くない?」マイクは机に両手をつき、その明るい碧色の瞳で彼女の顔を見つめた。「子遠によると、君が彼の
last update最終更新日 : 2024-12-15
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