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第0409話

Author: 龍之介
M基地。

綿は再び柏花草を検査していた。

問題がないことを確認した後、綿は柏花草を再び包装し、その資料と画像をM基地のデータベースに登録した。

雅彦は綿が一歩一歩操作する様子を見ていた。

綾乃は顔を手で支えながら見ており、口から質問が漏れた。「ボス、この柏花草、何に使うんですか?」

「おじいちゃんが、おばあちゃんにプレゼントするんだ」綿は答えた。

「わあ、おじいちゃんって本当にロマンチストなんですね。柏花草って本当に綺麗!」綾乃は首をかしげて言った。

綿は笑った。「ロマンチスト?あなた、これが柏花草だからって理由でそう思うの?どんなに美しい柏花草でも、おばあちゃんの手にかかれば、ただの薬の材料に過ぎないのよ!」

おじいちゃんはただ、おばあちゃんが必要だからと考え、どんな手を使ってでも手に入れようとしただけなのだ。

桜井家の人々は皆そうで、妻を大事にすることが伝統のようだった。

青いスマートスクリーンに「インポート成功」の四文字が表示された。

綿は指を鳴らし、「完了だ」

「この柏花草、持って行くから」綿は雅彦に向かって言い、「あの子にお金を送るのを忘れないでね」と淡々と言った。

「あの子?」雅彦は送金の手続きをしている最中で、綿の言葉に少し興味を抱いた。

綿はうなずき、あの少年はせいぜい十七、十八歳に見え、成年しているかどうかも怪しい。

「そんな若い子が、どうして柏花草を手に入れたんだ?」雅彦はキーボードを叩きながら尋ねた。

綿は柏花草を持って出ようとしていたが、雅彦の質問に少し考え込んだ。

そうだ、この柏花草、あの子は一体どうやって手に入れたのだろう?

綿は肩をすくめ、「まあ、いいわ。とにかく今は私のものだから」

綿は柏花草を持って家に帰った。

綿が玄関を開けると、リビングからおじいちゃんとおばあちゃんの口論が聞こえてきた。

「だから、邪魔しないでくれって言ったじゃないか、どうしても家に帰れって……帰ってきたって、あなたとただ睨み合うだけじゃないか?」

「私の研究室がどれだけ忙しいか、分からないの?私はめちゃくちゃ忙しいのよ。私がいなければ、研究室は回らないんだから!」

千惠子は強い調子で山助を叱っていた。

綿は靴を履き替えながら、口元に笑みを浮かべた。

この世の中で、誰がいなくても生きていけない人なんていない。おば
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    綿が輝明に自分を邪魔されたくないと思って、彼を外に閉め出したのだろう。 「これはこれは、高杉社長じゃないですか」天河は背筋を伸ばし、穏やかで丁重な声で言った。 「伯父様」輝明は深く頭を下げ、さりげなく目元の涙を拭った。 天河は二人の微妙な空気を察した。特に輝明の赤くなった目元が気になったが、あえて何も聞かず、その場の話題だけに集中した。 「こんな夜遅くにわざわざ来てくれるとは、恐縮です。どうぞ、中でおくつろぎください」天河は室内を指さしながら、丁寧にそう言った。 その言葉は輝明と綿、どちらにとっても予想外だった。 二人は顔を見合わせ、次に天河を見た。 「パパ?」綿が戸惑った声を上げた。 天河は娘に向かって言った。「結婚生活は続かなかったが、それでも友人だろう?ましてや、高杉グループの社長でいらっしゃる。礼儀を欠くわけにはいかないだろう?」 その言葉には、何か含みがあった。 輝明も、それを感じ取った。 彼の言う「高杉グループの社長」という言葉は、暗に輝明が桜井家の婿ではないことを示している。 この招待は、表向きには礼儀正しいものだが、実際には社会的な距離を保つためのものだった。 もし彼がこの言葉を真に受けて室内に入れば、それこそ「礼儀を知らない」男として映ってしまうだろう。 輝明は軽く苦笑を浮かべ、低い声で答えた。「ありがとうございます、伯父様。お目にかかれただけで十分です。これをお持ちしました。ささやかながら、伯父様の誕生日をお祝いする品です。どうぞお受け取りください」 彼は手に持っていた贈り物を差し出した。その中には、美香が用意した特別なプレゼントも含まれている。 中身は見ていなかったが、祖母が用意したものなら間違いないはずだった。 「いやはや、かたじけないね。本当に感謝しますよ」天河はそう言いながら贈り物を受け取り、続けた。「ただ、ここまで来てくれたことが何よりの心遣いですよ。お帰りになるのであれば、無理には引き止めません」 その言葉は、はっきりとした「帰れ」の合図だった。 輝明は切なげな笑みを浮かべた。 よかった、ここで無理に上がらずに済んだ。 「ありがとうございます、伯父様」彼は深く頷いた。 綿は輝明を見て、次に自分の父を見た。

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    男の目には数え切れない感情が渦巻いていた。長い睫毛は微かに垂れ、結局彼の口から出たのは沈黙だけだった。 そうだ、彼は愛が何かを理解していない。 ましてや、相手に対する「負い目」など感じたことがない。 彼はいつだって高みから全てを見下ろす神のような存在だ。自分の過ちによって綿を傷つけたことを、本気で「自分の責任」と思ったことはないのだろう。 「ごめん」とか「俺が悪かった」とか、その言葉も、ただ一連の流れで口にしているに過ぎない。 綿は小さく息を吐き、冷たい夜風にその吐息が白く滲んだ。 「あなたは自分の結婚を、まるで会社のように運営してきた」彼女は静かに言った。「すべてを厳しく管理し、正確さを求めた。でも、結婚は『家』よ。『家』は特別な心遣いが必要なの。愛する人が求めるのは『態度』なのよ。でも、会社は戦場。そこに必要なのは駆け引きと結果、そして利益だけ。社員が求めるのは給料だけ」 綿は深い溜息をついた。吐く息が白く滲んだ。 自分でも気づいていなかったが、彼女の目から一粒の涙が零れ落ちた。 ――もう二度と彼のことで泣かないと思っていたのに。こんなにひどい結婚だったのに、もう何も感じないと思っていたのに。 心は正直だ。涙を止めることはできなかった。 彼女は涙に濡れた睫毛を持ち上げ、輝明を見つめた。 その瞬間、彼の胸が強く抉られるような痛みを覚えた。 ――綿の涙が、こんなにも心を抉るものだったなんて。 以前の彼なら、彼女の涙が何を意味するかなど考えたこともなかった。 だが今、彼女の一滴の涙が自分の命を奪うほどの破壊力を持つことを知った。 彼は自分を憎んだ。彼のせいで綿を泣かせたことが許せなかった。 彼女がどれだけ泣いてきたか、彼は知らなかった。 あの結婚生活の中で、彼女は何度涙を流したのか。何度眠れぬ夜を過ごし、腫れた目で朝を迎えたのか。そのすべての時間、彼は彼女のそばにいなかった。 輝明の心臓は張り裂けそうなほど痛み、息苦しさを覚えた。 彼は手を伸ばし、彼女の目に浮かんだ涙を拭こうとした。 だが、綿は顔を背け、自分の手でその涙を拭い去った。 ――もう彼女は、誰かに涙を拭いてもらうような女の子ではない。 彼女は鼻をすすり、肩をすくめて寒そう

  • 高杉社長、今の奥様はあなたには釣り合わないでしょう   第0620話

    輝明の瞳が、一瞬赤く染まった。彼は反射的に手を伸ばして綿の手を掴もうとしたが、その勇気が出なかった。綿は彼の目をじっと見つめ、その体から伝わる微かな温もりを感じていた。彼女の心は揺れ動いたが、輝明の無力そうな視線を見て、さらに乱された。その瞳には、涙の光がうっすらと浮かんでいた。輝明は唇を動かし、かすれた声で問いかけた。「君は、そんなに俺が嫌いなのか?」その声はまるで風に吹き飛ばされそうなほどか細かった。彼の問いがどれだけ哀れであればあるほど、綿の微笑みは優しく、答えは冷酷だった。「ええ」彼は眉をひそめ、その漆黒の瞳に自嘲の色を滲ませながらさらに尋ねた。「俺が完全に消えてしまえばいいと思ってるのか?」綿は顔を上げ、唇を噛みしめたまま頷いた。そうだ、彼には消えて欲しい。彼女の人生にもう二度と関わらないで欲しい。「でも、綿」輝明は彼女の名前を呼び、まるでそよ風のように穏やかに続けた「俺の立場からすれば、俺だって被害者じゃないか?もし陸川嬌が本当に俺を助けてくれたのなら、彼女に報いるのは当然のことだろう?俺には選択肢がなかったんだ」彼は綿に理解を求めるように言った。「綿、俺が間違っていたのは認める。誰が俺を救ってくれたのかすら分からなかったんだ……」しかし、綿は首を振った。「あなたはまだ分かってない。私がなぜあなたに愛想を尽かしたのか、全然分かってない」輝明は苦笑し、弱々しい声で問いかけた。「じゃあ教えてくれ。なぜなんだ?」「それは、あなたの世界において、私は重要じゃなかったから」綿はしっかりと彼の目を見つめながら続けた。「私は、あなたの第一選択であったことなんて一度もない。愛想を尽かしたのは、私が助かったことをあなたが知らなかったからじゃない。愛がなくなったからなのよ」彼があの真相を知っても知らなくでも、彼女は全然きにしないのだ、と、きっぱりと告げた。「もし陸川嬌があなたを救ったなら、彼女と結婚するのは当然だと思う。だって彼女はあなたに第二の命を与えたのだから」しかし、彼女の目は熱を帯び、鋭く彼を見つめた。「でも……私は、あなたの目に葛藤や苦しみを一度も見たことがない。私を選びたいと思ったことがあるようには、全く見えなかった」何もなかった。彼は、嬌が彼を救ったと知った途端、すぐに綿を捨てた。迷いもなく。

  • 高杉社長、今の奥様はあなたには釣り合わないでしょう   第0619話

    「綿、どんな立場であれ、今日は来るべき日だと思ったんだ」輝明は深く息をつき、気持ちを整えながら答えた。彼は綿が自分を嫌っていることも、桜井家が自分を歓迎しないことも分かっていた。それでも、この家の中に入れなくても構わない。ただ挨拶をして、天河の誕生日を祝う気持ちを示したかった。「そうですよ、桜井さん。今日は桜井天河さんの誕生日なんです。社長として、後輩として、来ないわけにはいきません」森下が輝明をフォローするように口を挟んだ。綿は冷たい視線で森下を見つめ、明らかに「余計なことを言うな」とでも言いたげだった。森下はその視線を受け取ると、黙り込んだ。輝明が森下に目で合図を送り、「荷物を置いて車で待っていろ」と示した。森下は小さく頷き、「失礼しました」と綿に頭を下げ、その場を去った。「綿、荷物だけ置いて、桜井の伯父さんに一言だけ挨拶して帰る。それでいいかな?」輝明は再び彼女を見つめ、乞うような目で問いかけた。綿はその視線を受け止め、輝明の頑固さに初めて呆れを感じた。彼女は彼との縁を完全に断ち切りたかった。だから、あえて言葉をきつくした。「あなたを家に入れるつもりはないよ。うちの家族の楽しい時間を邪魔しないで。あなたが来たら、みんな不愉快になるだけだから」綿の言葉には冷たさが滲み出ていた。彼は静かに頷いた。「綿、ごめん。俺は君を傷つけた。そして君の家族をも傷つけた。 もし、君をちゃんと守れていたなら、もし、陸川嬌に惑わされなかったなら、俺はきっと君にとっていい夫でいられたし、桜井家にとってもいい婿でいられたはずだ」彼の声は低く抑えられていたが、その静けさがこの寒い夜にさらに響いていた。綿はすぐに手を上げて言葉を遮った。「そうやって話せば、私が感動するとでも思った?」彼女は首を振り、冷ややかな目で彼を見つめた。「あなたが感動しているのは、ただの自己満足よ」その一言に、輝明の胸は鋭く痛み、喉が詰まるような感覚に襲われた。彼は唾を飲み込み、絞り出すように「ごめん」と言った。「謝らないで。あなたの謝罪なんて必要としてない。それより、もう二度と私の前に現れないで。それが一番の謝罪よ」綿は声を抑え、家の中にいる家族たちに気付かれないよう気を配っていた。だが、輝明は首を横に振った。無理だ。彼は彼女から離れない

  • 高杉社長、今の奥様はあなたには釣り合わないでしょう   第0618話

    まさか、綿って本当に桜井家の人間じゃないの?恵那がそんな妄想を巡らせていると、千恵子の声が飛んできた。「恵那、ちょっと!こっちに来なさい!」祖母に呼ばれた恵那は慌てて駆け寄り、「どうしたの?」と尋ねた。千恵子はスマホを指差しながら言った。「この男優さん、誰なの?ほら、あんたと一緒に写真撮られてるじゃない。付き合ってるの?」【人気俳優・南方信(みなみかた しん)と共演女優・桜井恵那、同じ車で帰宅。南方信が桜井恵那を自宅まで送る姿を目撃、交際疑惑浮上】といった内容のニュースが画面に映っていた。恵那の顔が少し赤くなった。「おばあちゃん、あの人は人気俳優よ。私たち、付き合ってなんかないわ。ただ撮影が終わった後、私とアシスタントが彼の車に便乗しただけ」そう言いつつ、恵那は心の中で思っていた。――でも、南方信は本当に素敵だよね。彼は端正な顔立ちで、紳士的。舞台裏でもイメージそのままで、汚い言葉を使わないし、悪い癖もない。性格も良く、業界での地位も確立している。撮影中、彼は何かと気を配ってくれていたし、チームの集まりでは彼がいるだけでみんなが安心できた。彼の存在そのものが安心感を与えてくれた。――こんな男性を好きにならない人なんている?千恵子は恵那の赤くなった顔を見て、微笑みながら尋ねた。「恵那、好きなんじゃないの?」「やだ、おばあちゃん、そんなことないってば。それに、あの人はトップ俳優よ。私なんか眼中にないわ」恵那はリンゴを手に取り、弄ぶようにしながら答えた。千恵子はその仕草を見て、軽く笑いながら「はいはい、好きじゃないのね」と言ってそれ以上追及しなかった。その頃、リビングの雰囲気は再び穏やかさを取り戻していた。綿はキッチンから何度か料理を運び、「そろそろ夕食を始められるわよ」と声をかけた。「じゃあ、俺がケーキを持ってくるよ」 天揚が言うと、綿はエプロンを外しながら言った。「叔父さん、私も一緒に行くわ」「いいよ、一緒に行こう」二人が玄関を出ようとドアを開けた瞬間、不意の訪問者と鉢合わせた。天揚と綿はその場で固まった。その人物は、ちょうどインターホンを押そうとしていたところで、ドアが開いたことに驚いたのか、一瞬ぎこちない表情を浮かべた。その人物――輝明もまた、予期していなかったようで少し戸惑っ

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