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第0293話

小栗先生は少し考えた後、首を横に振った。

「特に変わったことはなかったと思うわ。ちょうど退勤時間で、書類を持って院長に会いに行っただけよ」

綿は少し黙り込んだ。スマホの画面に映る映像を見つめながら、どうするべきか考えていた。「そうですか、ありがとうございます」

もし小栗先生を通じてではないなら、この匿名の告発文は一体どこから出てきたのか?

その時、馬場主任が手に二つのカルテを持って急に現れた。「小栗主任、明日休みを取りたいんですが」

小栗先生は馬場主任をちらりと見て、彼から休暇届を受け取った。

「分かったわ」と短く返事をした。

馬場主任は綿を一瞥し、眉を少し上げてから、振り返って立ち去った。

綿はその休暇届に目を留め、その字が確かに彼のものであると確認した。

「馬場主任の字、意外と綺麗ですね」と綿が言うと、

「ええ、彼の字はすぐに分かるわね。筆圧が強いから」小栗先生は休暇届を丁寧にしまった。

綿はそれを見届けると、次の仕事に向かった。

緊急室に物を届けに来た綿は、帰ろうとした時、誰かが声をかけた。「桜井先生、患者さんを引き取りに来たんですか?」

綿は少し戸惑って、「え?」と答えた。

「あなたの科の患者さんがいます。迎えに来てください」と看護師が言った。

綿は目を瞬かせた。誰も自分に患者を迎えに来るよう指示していなかった。

「本当に心外科の患者なの?」と尋ねると、

看護師は頷いた。「はい、心外科の患者さんです」

綿は眉を上げ、「じゃあ、連れて行くね」と答え、書類にサインをしようとしたが、そこで目にした名前に驚いた。佐藤旭?

その名前にどこか見覚えがある気がした。

綿がサインを済ませると、看護師が注意を促した。「桜井先生、この患者さんは少し特殊なんです」

綿は顔を上げ、「どういうこと?」と聞き返した。

その時、刑務官が患者を押してくるのを見て、綿は驚いた。

本当に特殊な患者だった。

だが、この光景にはどこか既視感があった。

「数日前に、その人達は来ていなかった?」綿が看護師に聞くと、

看護師は頷いて、「そうですね、数日前は食中毒でしたが、昨晩心不全が見つかりました」と答えた。

綿は無言で、ベッドを押そうとしたその瞬間、誰かが彼女を呼び止めた。

「おい、その患者に触るな!」と馬場主任が突然叫んだ。

綿が振り返ると、
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