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第253話

雅之は全身に冷気をまとい、低く冷たい声で言った。「そういうことなら、今度は僕も優花に同じ‘冗談'をしてみようかな。その時も、おじさんが今日みたいに大目に見てくれるといいけどね」

錦は眉をひそめ、「どういう意味だ?」と詰め寄った。

雅之は冷たく言い放った。「今すぐ、里香を見つけたい」

里香が無事か確認しない限り、他のことなんて考えられない。

錦はすぐにスマートフォンを取り出し、執事に電話をかけた。「見つかったか?」

執事の声はどこか歯切れが悪い。「旦那様......見つけましたが、しかし......」

錦はすかさず問いただした。「しかし、何だ?」

その時、雅之の耳にかすかに犬の吠え声が聞こえた。鋭く目を光らせ、声のする方へ向かって駆け出した。

里香は、犬に舐められて目を覚ました。目の前には毛むくじゃらの顔があり、犬が彼女の腕をぺろぺろと舐めていた。湿った感触に、嫌悪感と恐怖がこみ上げた。

それは、チベタン・マスティフだった。

里香の顔は一瞬で青ざめ、硬直して地面に横たわり、動けなかった。

優花の冷酷さに震えた。彼女は里香をこのチベタン・マスティフのいる場所に放り込んだのだ。まさか、犬に食べさせるつもりだったのか?

里香はマスティフをじっと見つめ、心臓が喉元まで上がってくるような恐怖を感じた。犬が突然噛みつくのではないかという恐れが全身を支配していた。

緊張で呼吸が浅くなり、次の瞬間、マスティフが牙をむいた。

里香の顔から血の気が引き、命の危険を感じた彼女は反射的に立ち上がり、無我夢中で走り出した。

「ワン!」

背後から凶暴な吠え声が響いた。里香は震えながら必死に走ったが、目の前には高い壁が立ちはだかっていた。

しまった......!

絶望が押し寄せ、死の恐怖が全身を覆った。目の端に転がる棒を見つけ、急いで掴み、振り返ってマスティフに向かって打ちつけた。

棒がマスティフの体に当たり、「キャン!」と鳴いて二歩後退したが、その目はさらに凶暴さを増していた。

里香は棒をしっかり握りしめ、マスティフを睨みつけたまま、喉を鳴らしながら唾を飲み込んだ。

どうしよう......どうすればいい?

ここはチベタン・マスティフがいる場所だ。優花が彼女をここに閉じ込めた以上、誰かが助けに来る可能性はほとんどないだろう。今頼れるのは、雅之が自分の不在
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