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夜の闇に溶ける

last update Last Updated: 2025-03-20 19:10:20

「ヒュッ!」

 再び目の前にステップして近づく。

 やはりジャイアントルーパーは首を少し引き、ぬめりと湿った巨大な口内を見せびらかしながら前に出るように噛み付いてきた。

 緊張した空気が身体中を走り抜ける。まずはバックステップで距離をとり、鋭く前方に飛び上がった。

 そのまま手のひらを上に向けるようにして、噛みつき後の脳天にシャドークローを突き刺し、胴に向かって斬り裂いていく。

 鋭い痛みを感じたのだろう、ジャイアントルーパーは大きくのけぞる。再びバックステップで距離をとると、その後ジャイアントルーパーが動く事はなかった。身体が緊張から解放され、少しずつ心拍数が落ち着く。

「やった! 倒したぞ!!」

 死闘を繰り広げた俺は、その場に尻餅をつくように座り込み、両手を上げて勝利を喜んだ。達成感と解放感が入り混じる。

 近くには倒れたジャイアントルーパーの姿が横たわっている。巨大な影が地面に落ち、その威圧感は一瞬にして消え去った。

 さて、ここからは解体の時間だ。

 まずは尾先をなるべく小さく切り取るが、やはりそれでも自分の手のひらよりも大きい。その重さを感じながら、切り取った部位に目を凝らす。

 事前にアンネさんから聞いていた情報によると、心臓が漢方の材料になり、肉はゼラチン質でなかなか美味しいらしい。

 尾の付け根には魔石が埋まっている。その魔石を取り出してみると、小指の第一関節くらいの大きさで、独特の光を放っている。ただの石ではない。

 魔石からモンスターとなる心配があったが、どうやらモンスターの死体から取れた魔石は、再びモンスターになる事はないという。同じ人間が生まれる事がないのと同じように、モンスターも同様であるらしい。

「流石に肉は持って帰れないから、うーん……魔石と尾先だけにしとくか!」

 尾先を掴もうとすると、ヌルッと滑りうまく掴めない。考えた末、地面を転がし砂まみれにしてやった。

 砂団子と魔石を拠点(ゴザを敷いただけ)の横に置いて、残りはスキルで消滅させた。

「大きいから処理が大変だね。さーて、髪を洗いますよっと

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    「こちらトマーテの冷製スープになります」 危ないところだった。ウエイトレスさんが次の料理を運んでくれた。イズハさんはエールのおかわりを頼んでいた。 スープは、ニンニクの食欲をそそる香りと、貝の出汁と白ワインのような味わいが感じられる。オレガノのようなハーブの香りが全体を引き締めているようだ。「このスープも美味しいな! ヨールお前女に合わせて酒飲めねえとモテないぞ!」「な、なるほど! 初めてお酒を飲むから迷惑かけたらまずいかなと思って」「そんなもんは迷惑かけてから気にすりゃいいだろ! 裸でうろつく変質者が何言ってんだか。ほら、飲め飲め!」 言われるがままペースを早める。その後魚料理、肉料理ときて、エールを4杯も飲んでしまった。イズハさんは9杯目のジョッキを掲げている。大分酔いが回ってなんだか楽しくなってきた。「えー、イズハっぴ冷えたエール飲んだことないのー? 今度また行こうよー!」「なんだヨールてめえ酒も喧嘩も弱いくせにあたしを誘おうってか! 上等だかかってこい! わはははははは!」 酔っ払ってティーダ化したヨールとすっかり出来上がったイズハは、最後にデザートを食べ、店を後にした。「よーし、ヨール! もう一件行くかー?」「今日はこれくらいにしてまたにしよう! この街からエールが無くなったらみんな困っちゃうもんねー! だはははははは!」「雑魚だなてめえは! わはははははは!」(次の店に行ったら確実に吐く。俺のシックスセンスがそう告げているぜ……) なんとか難を逃れ、イズハさんを宿まで送って行くことにした。ギルドから歩いて1時間くらいの所に住んでいるらしい。 定期的に肩を小突かれるので、そろそろ俺は死ぬかもしれない。 しばらく歩いていると、カントリー調の歌が聞こえてきた。この世界にも路上ライブをしている人がいるみたいだ。「あれれー、イズハっぴー。歌が聞こえるぞー」「ありゃギータだな。なかなかいい歌じゃねえか!」「これはこれはイズハ隊長、お歌

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   死にそう

    「いい膝も頂いたことですし、そろそろいきましょうか! レストラン『サルバトーレ』ってところです。」「へー、あそこは人気でかなり並ぶみたいだよ。それと、堅苦しいから敬語はやめようか」 大通りを通ってレストランに向かうと、すれ違う人の視線がイズハさんに集まっている気がする。俺のファッションに釘付けって可能性も否定できないけどね。「クスクスッ……。なぁにあの格好?」「どうせ売れ残りでも掴まされたんじゃないの? 流石にアレはないっしょ?」 こちらを指差してるカップルは間違いなく俺の悪口を言ってるな。 今日の俺はそんな小さな事気にしないよ……と言いたいが、少しは傷つくんだぞ。 馬鹿みたいな格好をしてるのは自覚しているけど。 さて、ここで問題です。手を繋ぐべきでしょうか、繋がないべきでしょうか。 ……答えは簡単! 手を握ろうとしたら人差し指の骨を折られそうになったので、二度と変な真似をしてはいけません!「なあヨール、お前いくつだ?」「そろそろ17歳かなぁ。イズハさんは……いつから冒険者をやってるの?」 危ない危ない。年齢を聞こうとしたら右の拳を握りしめるのが見えた。年齢と体重を聞いた時、俺は死ぬだろう。「あたしは3年くらい前かな? 兄貴と一緒に始めたんだ。居ただろ、青髪のでかいのが。アレがあたしの兄貴。で、あんたは?」「へぇ、ダズさんと兄妹なんだ! あんまり似てないね。俺は1週間くらい前からかな?」「は? そんなんであの赤髪達とダンジョンに潜ったってこと!?」「いや、パトリックさん達は知り合いなだけで俺はソロだったよ。俺が裸で落とし穴からセーフゾーンに落ちた時は、話を作って庇ってくれたんだ。」「な、なおさらおかしいだろ! あたしより弱いのにどうやって……」「まあまあいいじゃない。ちょうど到着したし、続きは店の中で話そうよ!」 サルバトー

  • 闇属性は変態だった?転移した世界でのほほんと生きたい   俺は空気

    「そうだ、先にお店を決めないとだ!」(デートマスター黒川ともあろうものが、とんでもないミスを犯すところだったぜ。宿に戻る前にレストラン『サルバトーレ』に寄っていこう) デートではないのだが、勝手に盛り上がってしまっている。 太陽の位置的に10時を過ぎたくらいだろう。少し早足で向かう。こういう時は余裕を持って行動しないといけない。デートマスター黒川は余裕のある男なのだから。 30分もかからずレストランに到着した。既にお店の半分近くの席が埋まっている。早速ウエイトレスさんに声をかける。「すみません、マルコスさんはいらっしゃいますか?」「少々お待ち下さい」 ウエイトレスさんは可愛らしく背中のリボンを揺らしながら、店の奥へと入っていった。 しばらくすると、マルコスさんがにこやかに微笑みながらこちらへやってきた。「これはこれはヨール様。今日はどうされましたかな?」「今日お昼をこちらで頂きたいのですが、席の予約はできますか?」「おや、デートですかな? 他でもないヨール様の為ならお安い御用です」「ま、まあそんなところです。お昼の鐘から30分後くらいに伺いますね。コースメニューがあればそれでお願いします!」「かしこまりました。お待ちしております」 これで食事はばっちりだ。小さくガッツポーズをすると、握りしめた拳の辺りを見てふととんでもないことに気がついた。そう、服装だ。 通りを歩く人々の半数以上は同じように村人の服を着ているが、これから行くのは少し敷居の高いレストランである。 冒険者らしく防具を揃えるか、少し質の良い服を買うかで迷ったが、前回サルバトーレに寄る前に買い物をした古着屋に立ち寄ることにした。「すいませーん、イケイケのオシャンな服を下さーい!」 店に入り、店主に服を見繕ってもらう。だんだん緊張してきているため、語彙力が酷いことになっていた。「はい、社交的な場であればこちら、デートなどであればこちらなどいかがでしょうか」 少しごわついた黄ばみがかった白い

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