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第7話

病院に電話してみようと思った矢先、警察から電話がかかってきた。伊藤健一はすぐに出た。

「中村優子さんのご家族でしょうか?

中村優子さんは本日午後、自宅で亡くなり、総合病院に搬送されましたが、救命措置の甲斐なく死亡が確認されました。病院側が連絡が取れずにいたとのことです」

伊藤健一の呼吸が止まり、喉が詰まって声が出ない。

「死因は転倒による骨折が原因で、肺と骨盤からの大量出血です」

「カチャッ」という音と共に、健一の携帯が車の隙間に落ちた。

何度も拾おうとしたが、うまく掴めない。

「くそっ、手が震える。

そんなはずない。優子は健康だった!ちょっと転んだだけだ。ずっと経過を見てたのに、元気だったのに、まさか...…」

彼は車を再始動させ、アクセルを踏み込んで病院へ向かった。

職員の案内で霊安室に案内され、そこで私の遺体と対面した。

信じられない様子で私の手に触れ、以前骨折した箇所を確かめた。

そして、ゆっくりと私の顔を覆う白い布を持ち上げ、私の顔の輪郭を指でなぞった。

信じられないという表情で私を見つめ、傍らで小さな声で呟いた。

「もうすぐ治るはずだったのに、どうして?

俺の薬はなぜ効かなかった?」

「優子、これは嘘だろう?成功したんだな。早く起きてよ。一緒に帰ろう。これからは毎日早く帰って一緒にいるから。旅行にも連れて行くよ。プランもう立ててあるだろ。絶対に怪我させないように気を付けるから。」

「答えろよ。もう怒らないでくれ。お願いだから」

彼は私の傍らに立ち、懇願し続けた。

でも、もう私は彼に答えることはできない。

その後、研究室に電話をかけ、忌引きの休暇を取った。

静かに私の葬儀を執り行った。

参列者は少なく、私には友人も親族もいなかったからだ。

でも私は幸せだった。私の傍らには大好きなカサブランカが飾られていた。

彼は私の好きな花を覚えていてくれていたのだ。

彼の母親は泣きながら伊藤健一を責め立て、私をちゃんと守れなかったこと、約束を守れなかったことを叱りつけた。

伊藤健一はぼんやりと立ったまま、母親の叱責を黙って受けていた。

田中美咲は葬儀に遅れて駆けつけ、思いやりのある様子で伊藤健一を慰めた。

「大丈夫ですよ、健一さん。私がずっとそばにいます。優子さんがいなくなっても、私がいますから」

彼女は伊藤健一
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