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親友が私の代わりにお嬢様になった
親友が私の代わりにお嬢様になった
著者: 村上菊丸

第1話

著者: 村上菊丸
last update 最終更新日: 2024-11-11 11:42:41
母が亡くなった。

病気で息を引き取った。

最期の時、母は私の手をしっかり握り、繰り返し頼んだ。

「私がいなくなったら、あなたはお父さんを探しなさい」

私は母子家庭で育ち、母と二人で暮らしていた。

自分の実父が誰なのか、今まで一切知らされていなかった。

名前も、素性も、何もわからなかった。

しかし、母が死の間際に父の名前と住所を耳元で教えてくれて、初めて知った。彼が実は社長であることを。

そして、私は私生児だということも。

母はまた、あの女――つまり正妻がようやくこの世を去った、とも言った。

証として父のもとに持っていくものを渡し、母は安らかに息を引き取った。

母は何の未練もないかのように、静かに旅立った。

私は親友の山崎ももこに、このことを話した。

「社長のお父さん?山口グループって、相当な規模だよね!」

ももこはこの話を聞くなり、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「私は小さい頃から親がいなくて、両親がいる感じなんて知らないの」

泣き崩れるももこにティッシュを渡しながら、私は彼女の話を聞いていた。

「私なんて、子供のころはゴミを拾って売って、それで学校に通ってたんだよ」

「年末年始はいつも一人で街をさまよっていたしね」

「家族と一緒にいる人たちを見ると、羨ましくて仕方なかった」

ももこの涙が次々と落ち、彼女の姿はとても哀れに見えた。

ももこは両手で私の手を握りしめて言った。

「月、お願い、私にも一度だけでいいから、父親がいる感じを味わわせて」

「どうやって感じるの?」私は疑問の眼差しを向けた。

「あなたと一緒にそのお父さんに会わせて、お願い!」

「え...それは、さすがに無理じゃない?」

母がくれたものは一つしかなく、それを父に見せれば、全てがわかると言っていた。

ももこは私の困惑した様子を見て、泣きながら必死に頼み続けた。

「私は幼い頃から家族がいなくて、家族と過ごしたことなんて一日もないの」

「お願い、たった三日だけでいいから、そのお父さんの娘としていさせて」

ももこが泣きながらそう懇願するので、私は断りきれないでいた。

「一日、一日だけでいい?」

ももこは私が動じないのを見て、要求を下げた。

「一日だけ、お父さんと呼ばせて。次の日に事情を話せばいいでしょう?」

それでも、私は気が引けた。

だって、人の親を自分の親だなんて言うのは、おかしな話だ。

「……少し考えさせて」

ももこは涙を拭い、私の顔を覗き込んできた。

「あなた、会ったことあるの?そのお父さんに」

私は首を横に振った。「ない」

「じゃあ、向こうがあなたを認めるかどうか、わからないじゃない」

私は頷いた。「そう、わからない」

でも母は、私に必ず父を探すようにと言い遺したのだ。

「なら決まり!」

ももこは勢いづき、こう言った。

「あなたは私生児で、お父さんは社長さん。他にも隠し子がいるかもしれないよ?」

「大企業の家族には、どんな因縁があるかわからないもの」

ももこの話は、生き生きとしていて、私はつい引き込まれた。

「全然知らない」

ももこは指を鳴らして答えた。「財産を巡る争いさ」

「あなたが行っても、彼があなたを認めたいかわからないし、異母兄弟たちがどう思ってるかもわからない。でも、私を先に送り込めば、あなたは後ろで観察できる。お父さんや家族の反応を見られるわけ」

私はももこの話に徐々に引き込まれていった。

「そうかもね」

ももこは得意げに微笑んだ。

「もし認められなくて追い出されることになっても、顔を潰すのは私だしね。私も家族の温かさを感じられるし、あなたもリスクを避けられる。お互い得するじゃない!」

「でも……」

私はまだためらっていた。

「でも、私だって父に会ってみたい」

ももこは私の肩をしっかりと掴んで言った。

「簡単なことよ!あなたはお父さんの家で家政婦になればいいの!」

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    つよしとももこが海外旅行から帰ってきた。 父は一度認めた以上、家族が恨みを持って過ごすことは望んでいなかった。 そのため、今日は家族が集まれるよう、豪華な料理を用意してくれた。 「久しぶりね、月。海外から戻ってきたばかりで、ずっと会えなかったわ。どうして家に閉じこもってるの?名ばかりの娘で、お金ももらえないのかしら?」 ももこはつよしの腕に絡みつき、わざとらしく笑った。 つよしは私を一瞥し、軽蔑の表情で顔を背けた。 「たかが私生児に金があるわけないだろう。僕の母さんが正妻で、その他の女なんて父が外で遊んでただけだ。子供ができたって父は気にしないさ。君の母さんが死んで、父が哀れんで拾ってくれなかったら、誰も君なんか面倒見ないぞ」 私を侮辱するのはいいが、母のことまで言われるのは我慢ならなかった。 私が奴に手を出せないとしても、父が黙っているとは思えない。 ももこのやり方を真似て、わざと泣きながら父のもとへ走り寄った。 「お父さん〜、お兄ちゃんが、私のお母さんはただの遊び相手だったって。お父さんは私なんかいらなかったって。お兄ちゃん、私のこと大嫌いなんだって〜!」 ももこが使った策略で相手を詰む。父はこの言葉を聞くやいなや、穏やかだった表情が一瞬で険しくなった。 そのままつよしに向かって強いビンタをお見舞いした。 「今日といういい日に俺を怒らせるな!出て行けと言わせる気か!」 ももこがつよしの後ろで小声で不満を漏らした。 「あいつ、どうせ演技でしょ…」 ももこの言葉は、父の怒鳴り声で遮られた。 「ここでお前が口を挟むな!嫌なら出て行け!月をいじめるのなら、明日から一銭もやらんぞ!」 これでどちらが大事かはっきりした。 ビンタを食らったつよしは大人しくなり、ももこも怯えながら沈黙した。 夕食の席で、ももこは時折私を睨みつけてきたが、私は平然と食事を続けた。 「父さん、その…これから、少しお金を増やしてもらえませんか…?」 食事の途中でつよしが恐る恐る切り出した。 「毎月の小遣いじゃ足りんのか?この町の不動産を買い尽くす気か?」 つよしはおもねるように微笑み、「違います、父さん。最近ももこと一緒に投資をしたくて…でも、少し足りな

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    「俺は狂っていますよ!ももこは俺が四年も追い続けてきた女なんです!彼女がどんな子かは俺が一番よくわかっています。他の女は誰も本気じゃなかったけど、ももこだけは違うんです!俺は彼女が好きです!」 つよしは叫びながら、手に持ったナイフを少しも緩めない。 「もしももことの結婚を認めてくれないなら、俺は今日この世界から消えます。山口家の後継ぎを終わらせてやります!」 「馬鹿な子だねぇ、俺にはまだ私生児がたくさんいるんだよ」 父の一言で、場の空気が凍りついた。 「ゴホンゴホン」父が咳払いした後、「ま、まぁいいさ。お前には何も期待してないし、どうせ使い物にならん奴だ。山口家の財産は次の子にでも残すとしよう」 父がそう言い終えた瞬間、つよしの魂は抜けたように顔が真っ青になった。 「結婚すればいいさ、お前の命でも彼女にくれてやれ。俺はもう止めない」 父はすっかり諦めたような様子で言った。 俺は一方で驚きを隠せず、まさか父が外にどれほど私生児を持っているのかなんて考えたこともなかった。 つよしは父が了承したとわかると、喜びのあまり駆け出していった。 「ももこ!!ももこ、父さんが認めてくれたぞ!!」 彼の声は、屋敷中に響き渡った。 こうして、親友だった彼女が姑になるとは思ってもみなかった。 数日後、つよしの凍結されていたカードも再び使えるようになり、ももこはInstagramで頻繁に自慢を始めた。 「今日は旦那がまた新しい車を買ってくれたの〜!」 「いらないって言ったのに、やっぱり旦那は別荘もプレゼントしてくれたわ〜うざい〜」 Instagramでの自慢では物足りず、ももこは父が会社に行っている間に家にまでやってきて、私に向かって自慢し始めた。 「ありがとね〜、あなたがいなければ、私が恋人もお金も手に入れることなんてできなかったもの〜」 私は手を叩きながら応じた。「そうだね、そうだね〜」 私の無反応な態度に、ももこはさらに苛立った。 「自分が勝ったと思ってるの?面白いのはこれからよ。あなたなんて私の手のひらの上の駒に過ぎないわ。こっそり教えてあげるけど、あの時あなたが飲んだ水には薬を仕込んであったのよ。まさか、あのバカ犬が飲むなんてね」 ももこはそう言って

  • 親友が私の代わりにお嬢様になった   第8話

    名前がつよしという兄が、泣きじゃくっていた。 「父さん、俺とももこは大学で同じクラスだったんだ。彼女のことをよく知っているんだ。ももこはそんな人じゃない。きっと何か別の事情があるんだ」 大学のクラスメート? 突然、記憶が蘇った。 ももこが以前、大学時代に彼女をずっと追いかけてきた男の話をしていたことを思い出した。 だがその男はとても控えめで、しょっちゅう授業をサボり、女の子に声をかけることもなかった。 見た目からして貧乏で、デートする余裕もなさそうだったため、ももこは彼をずっと拒絶していた。 もしかすると、その話の「男」というのは目の前のつよしなのだろう。 つまり、ももこはつよしの中では半ば初恋のような存在になっているわけか。 でも、ちょっと待って……「別の事情」って? この件で悪いのはももこじゃなく、まさか私だとでも? 私は不満げに父の隣に歩み寄り、兄に向かって言った。 「兄さん、私がももこを陥れたとでも思っているの?」 つよしは私を一瞥し、あからさまな嘲笑を浮かべた。 「愛人の子供が、どの面下げて兄貴と呼ぶつもりだ?」 その言葉で一瞬、私は思い知らされた。 なるほど、このつよしはももこの味方なんだ。 どうりでももこがつよしとすぐに関係を持ったわけだ。 「兄さん、私を認めなくても構わないけど、恋愛をするなら相手をよく見極めた方がいいわよ」 私は極めて自然で、全く怒っている様子も見せなかった。 ももこはそれを見て唇を噛み、悔しそうにしていた。 父は自分の初恋相手を侮辱されたことに腹を立て、つよしの腹にもう一度蹴りを入れた。 そして二人を外に放り出し、「俺にお前のような子供はいない!」と宣言した。財閥の家での制裁がこんなものだけで終わるはずがない。 父はその日のうちにつよしのカードを停止し、全ての資金を回収した。 さらに父は、ももこを刑務所に送ると言い放った。 ももこはその晩、手に入れたばかりの車や家をすべて返却した。 ももこはつよしに寄り添えば今後楽になると思っていたが、つよしのカードが止められたことで、二人はホテル代すら払えなくなったのだ。 つよしは強がり、父が許してくれるまで路上で暮らす覚悟を決めた。

  • 親友が私の代わりにお嬢様になった   第7話

    「彼女の名前が木村月なら、母親の名前が木村雪子なんだから、母の苗字を名乗っていて何が悪い?それに引き換え、お前は木村ではないしな。証拠がなければ、どうしてお前を信じることができたんだ!」そう言って、父は親子鑑定書をももこの顔に投げつけた。 実は、父はももこの怪しさを早くから察知しており、最初から彼女を密かに調べさせていたのだ。 ももこは自分の頬から滑り落ちていく鑑定書を見つめ、目を大きく開いて、信じられないといった表情を浮かべていた。「お前はただの詐欺師だ!今すぐ警察に突き出してやる」 父のその言葉に、私は小さく震えた。 ももこに最初は同情していた私も、今は彼女が私をも巻き込んだ一部の計画に過ぎなかったと気づき始めた。だから、最終的な結果を聞いた時、私はもう冷静だったが、それでも心の中で驚きを隠せなかった。ももこは泣きながら父の足にすがりつく。 「月が、全部月が私にやらせたんです!私には事情があって......お父さん!」 父はうんざりした表情でボディガードに合図を送り、ももこを引き離させた。 ももこは絶望的な表情を浮かべた。 もし本当に刑務所送りになれば、彼女の人生は台無しになるだろう。 「車も家も返します!どうか刑務所にだけは入れないで!」 その声は徐々に遠ざかっていく。 私はソファに座り、何も言わず、動くこともできなかった。 自分もまた父を欺いたことが少なからず関わっているため、怒りが自分にも向けられるのではないかと不安だったからだ。その後、父が私の隣に座り、そっと背中を叩いてくれた。 「すまなかったな、愛しい娘よ。つらい思いをさせてしまった」 私は首を横に振った。 「辛くありません」 やっと認められた父であることを考えれば、まだ父に対する感情が育っていないのは事実だ。 認められなくても構わない、ただ、ももこに私の代わりをさせるわけにはいかないのだから。「彼女はどうなるの?」 私はももこが引きずられていった方向を指さしながら尋ねた。 「まずはどこかに閉じ込めて、明日改めて処罰するつもりだ」 私は心の中で、父がももこをどうするつもりなのか気になっていた。 本当に刑務所に送られるのだろうか? しかし翌朝、事態は驚

  • 親友が私の代わりにお嬢様になった   第6話

    夜が更けてきた。 私は家政婦の寮の中で行ったり来たりしながら、どうやってももこの正体を暴くべきか、何万通りも考えていた。 けれど、こんな状況になるなんて思いもしなかった。 伝言が届いた。 「月、社長が呼んでいるぞ」 オーマイガッ!私の倫理観が粉々に砕け散った。 雷が自分に直撃したような気分だ。 どうしても行きたくない。 今夜が過ぎれば、父も私が彼を拒んだことに気づくだろうと思っていた。 しかし、二時間が経過した頃、数人のボディガードが直接やってきて、私を連れて行こうとする。 「何をするの!離してよ!」 「助けて!私は無実よ!」 玄関に着くと、父のボディガードが待ち受けていた。 私は哀れみの目で、ボディガードに必死に訴えかけた。 すると彼は、私を支えていたボディガードたちに退くよう指示し、「どうだ?怪我はないか?」と尋ねてきた。「社長が今夜君を.....迎えたがっている。それと、避けるためのアレも用意したが......」 ボディガードはそこで言葉を濁し、じっと私を見つめて真剣な表情で言った。 「もし君が嫌だと言うなら、俺は連れて行く。この仕事なんか辞めてやる。一緒に逃げるか?」 私は全身に鳥肌が立った。 嫌に決まってるでしょ、兄貴! 私はまだ二十歳そこそこ、あなたは白髪交じりにしわがあるし...... 「私、あなたが......」 父親でもおかしくない年齢だと言いたかったが、その失礼な言葉は飲み込んだ。 「社長が急かしている。今すぐ君の顔が見たいそうだ!」 私は必死にもがきながらも、強引に連れて行かれた。 ボディガードが私を父の部屋に放り込み、扉を開けると、私は勢いよく頭を下げた。 「親父!」 そして自分の頬をぴしゃりと叩き、「ぺっ!」と言って訂正した。 「違う、父さん!」 その瞬間、ベッドで布団を腰までかけていた父は、顔色が変わり慌て始めた。 急いでそばにあったバスタオルを手に取り、体を包み込む。 「どういうことだ?!」 父は全身をしっかりと覆い、一切隙を見せなかった。 私は頭を下げながら言った。 「お父さん、実は私が本当の娘です!」 遅れて告げられた真実に、父は気

  • 親友が私の代わりにお嬢様になった   第5話

    父の言葉に、一瞬頭が真っ白になった。 こ、これは...... これはどういう意味なの? 私はその場で呆然と立ち尽くし、言葉も出なかった。 父は手を伸ばし、そっと私の頬に触れた。 「本当に彼女によく似ているよ」 「今夜、俺の部屋に来なさい。ちょっとセクシーな格好でね」 そう言い残して、父は立ち去った。 頭の中は、雷が落ちたような衝撃で混乱していた。 実の父だよ?神様、信じられない! そして亡くなったばかりの母さん! 父親と呼ぶはずの人が、今にも私を愛人のように扱いそうだなんて、どうすればいいの? 父が去った後、私はしばらくその場で立ち尽くし、ようやく我に返った。 今まで父がこんなにもエロおじさんに見えたことはなかった。 寮に戻ると、清掃係が私に窓拭きを命じてきた。 「新しく来たんだから、もう少し要領よく動きなさいよね。働いてるのか働いてないのか、ちゃんと目で見て分からせなさい」頭の中には、ももこが私に身代わりになる前に言った言葉が浮かんだ。 「ただ家政婦を装えばいいの。私はあなたを本当に使用人扱いするつもりも、仕事をさせるつもりもないから」でも、ももこはその約束を全く守っていない。 彼女の本性が少しずつ明らかになっているのだ。 それでも、私は心の中で少し迷っていた。 これは一人の人生に関わる問題だ。 ボロ布を手に、大きな邸宅でテーブルや椅子を拭いていると、上の階から会話が聞こえてきた。「お父さん~、あの使用人が本当に気に入らないの。彼女を追い出してくれない?」 ももこの甘えた声が上から聞こえてきた。 「ももこ、月は君に何もしていないだろう?なぜ毎日彼女を辞めさせたいなんて言うんだ?」その言葉を聞いた瞬間、私は雑巾を握る手に力が入った。 ももこはずっと私を追い出そうとしていたのだ。 彼女は私の同情心を利用し、私を計算に入れて動いていた。 「彼女、いつも私の悪口を言っているのよ。あの子本当にずるい性格で、私のこと嫌ってるの。お父さんは私だけを大切にすると約束してくれたのに、どうしてこんな品行の悪い使用人のために私のお願いを断るの?」 父は何も答えなかったが、ももこの甘えた声がさらに続いた。 「お父さ

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