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第85話

「あなたが見ていることです」と伊吹嵐は手を広げて言った。

「滑らかな言葉使いはやめて、私が聞きたいのは、どうやって北境の大物が利豪商事に投資することになったか、その件だ」

東田智子は一字一句で言った。

「安心して、今日あなたが一人で私を助けたことについては、私を騙すことを追及しないわ」

「でも、私に助けた北境の大物が誰なのか、教えなければならない」

伊吹嵐もやっと理解した。人々は自分を別の人物と勘違いしているのだ

しかし、彼は気にしない。彼らがその版を信じたいなら、伊吹嵐も間違いに乗じる。

彼は適当に作り話をした。

「会社への道中、偶然大物たちの車列に遭遇して、彼らが話しているのを耳にした。彼らはある大物の命令で、利豪商事に600億円を投資すると言っていた」

東田智子はそれを信じた。

「その大物の名前は聞いたのか?」と聞いた。

伊吹嵐は頭を振った。「そのことは分からない」と言った。

冗談だろう。自分の名前をどうやって言えばいいのだろう。

東田智子は少し失望した様子で、「それは残念ね、もういいわ、帰っていいわ」と言った。

「今回、組長に昇進したのはあなたへの報酬よ。頑張ってね」

「うん、ありがとう。東田社長」

伊吹嵐はそれを言って、オフィスを出て、ドアを閉めた。

しかし、東田智子はふと顔を上げ、彼の背中を見つめて、

「ふん、伊吹さん、絶対嘘をついているわ。この件、きっと何か知っているはずだ」

午後5時。

「時間になった。今日の仕事はここまで」

渡辺健一は待ちきれずに机を叩いて立ち上がり、元気いっぱいだった。伊吹嵐がまだ黙々と仕事をしているのを見つけた。

「嵐君、昇進したからってそんなに頑張らなくてもいいじゃないか!行こう、退勤だ。足湯マッサージ、僕が奢るよ」

渡辺健一はにっこり笑って、彼の肩を叩き、意味ありげに笑った。

「この辺に新しくできた健康俱楽部があるって聞いたよ。女性のセラピストたちはかなりいいらしいよ」

伊吹嵐は顔を上げてほほ笑みながら言った。

「はは!やっぱり君はいいこと考えてないな。今日はダメだよ、用があるから。また今度ね」

彼は退勤後、直接郊外へ向かった。

郊外の森林地帯には、ひっそりとした軍用テントがあり、国字顔の男がしゃがんで近くでタバコを吸っていた。鋭い視線で周りを観察している。

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