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絡み合う夜
絡み合う夜
작가: 柚子

第 1 話

작가: 柚子
温井薔薇(あつい ばら)は、流産してちょうど一ヶ月が経ったその日、夫の浮気を知った。

......

深夜1時。

またあの悪夢にうなされて、薔薇は目を覚ました。夢の中では、まだ生まれてこなかったあの赤ちゃんが姿を見せた。

トイレから戻ると、ちょうど陸川景次(りくかわ けいじ)の枕元に置いてあったスマホが光っていた。スマホの淡い光が、ベッドの端をぼんやりと照らしていた。

思わず手に取って、ロックを解除した。

「眠いお姫さま」と登録された女から、数枚の写真が送られてきていた。

写真の中では、バーの隅に座った若い女の子が上目遣いで頬杖をついていた。テーブルには色々なカクテルが並んでいた。

そのあと、いくつものメッセージが次々と表示された。

「ちゃんと妻に話すって言ってたよね?もう流産から一ヶ月も経ったのに、まだ気を遣ってるの?」

急に、頭の中で「ブンッ」と音が鳴った。

だって、結婚してまだ三ヶ月しか経っていないのに。

薔薇はさらに過去のチャット履歴を遡った。

日常の軽いやり取りの中で、頻繁に登場したのは、彼女自身の話だった。

「本当に私のことが好きなら証明して。新婚の妻を放っといて、私と一緒に二週間、海外に行ける?」

そのメッセージの日付は、ちょうど二人の結婚式の日だった。

あの日、景次は優しく彼女を抱きしめて謝ってきた。

「急な海外出張が入っちゃったんだ。本当にごめん」

彼女は、今は夫のキャリアにとって大切な時期だと思って、新婚旅行をキャンセルした。

その二週間、景次は朝昼晩、毎日食事の写真まで送ってきた。

まるで時間管理の達人のように。

「彼女、妊娠したって聞いたけど?まさか離婚しないつもり?」

「いつまで私を待たせるの?子どもが生まれるまで?」

「ごめん、景次。本当に私のために彼女を流産させるなんて......やっぱり、彼女の体調が落ち着いたら、離婚の話をしよう」

「景次、私......本当にあなたのことが好き。ずっと待ってるから」

全ての言葉が、見えない刃物のように、薔薇の胸を切り裂いていった。

スマホを握る手に力が入り、全身が凍りついたように冷たくなり、手足の先までビリビリと痛みが走った。

彼が出張に行った直後、妊娠がわかったのだった。

彼女は心から喜んで、彼もすぐに帰国して一緒に検診に行き、ベビー用品まで選んでくれた。

だが、一ヶ月前、散歩中に誰かとぶつかった。それによって、赤ちゃんはいなくなった。

彼女はそれを、ただの不運な事故だと思っていた。

ベッドの向こうで景次が寝返りを打つ音がして、薔薇は慌ててスマホを元に戻し、何事もなかったように横になった。

2分後、彼がスマホを手に取り、続いて着替える音が聞こえた。

寝ぼけたふりをして、薔薇は声をかけた。

「......こんな時間に、どこ行くの?」

額に軽くキスしながら、景次は優しい声で言った。

「会社でトラブルがあってさ、ちょっと見に行くだけ。心配しないで」

ドアの閉まる音が響いた。

薔薇はすぐに起き上がり、上着を羽織って、タクシーを呼んだ。

「ナイトバーまで、お願いします」

......

バーの前に車が止まった瞬間、彼女は景次が若い女の子の腕を引いて車から降りる姿を見た。

彼は彼女を車の脇にぐいっと押しやって、激しい口調で叫んだ。

「もう彼女を流産させたんだろ!これ以上どうやって証明しろっていうんだ!」

その言葉に、薔薇は雷に打たれたようにその場に立ち尽くした。

そしてその時、景次はあの女の顔を両手で包み込み、深くキスをした。

通りの真ん中で、まるで世界に二人しかいないかのように。

薔薇は、夫がその女を助手席に押し込み、車を走らせていくのを呆然と見送った。

「すみません、あの車を追ってください」と運転手さんに言った。

目的地はホテルだった。

景次は彼女を抱きかかえて中へ入り、フロントで部屋を取ってから、エレベーターへ消えていった。

薔薇はスマホを取り出し、景次に電話をかけた。

しかし、すぐに切られた。

その直後、適当な返事が届いた。

「今忙しい」

その冷たい言葉に、薔薇の胸の中が一気に空っぽになった。

不倫は明らかだが、「流産させた」とはどういう意味?

......

帰宅した薔薇は、鍵のかかったベビールームを開け、妊娠中に飲んでいた薬やサプリをすべて集めて、病院へ向かった。

冬の冷たい風が吹く夜、病院の外で彼女は朝までじっと待っていた。

医師が出勤するのを見てすぐ、薬瓶を差し出した。

すると、こう教えてもらった。

「これは......現在国内では使われてない中絶薬です。作用はそれほど強くないから、中途半端に流産が進んで、最終的には子宮内膜掻爬術が必要になるケースが多いです。

妊娠を望まないなら、きちんと病院で処置を受けてください。これを飲むと、最悪の場合、大量出血で命に関わることもありますよ」

病院を出て、薔薇はまるで魂の抜けた人形のように歩いた。

一歩踏み出すたび、まるで裸足でガラスの上を歩いているような痛みが走った。

その日の記憶が、次々と蘇ってきた。

下腹部から温かい血が流れ出し、医師に「早く手術しないと危険です」と言われた。

冷たい器具が体に挿入され、子宮の中を削られていった。

あの子は、ばらばらにされて、この世に出された。

彼女の叫び声が手術室に響いた。それはまさに、地獄のようだった。

でもその地獄も、景次が、あの「お姫さま」に愛を証明するための、ただの手段にすぎなかった。

その場に、薔薇は崩れ落ちた。

悔しさ、絶望、怒り。

様々な感情が一気に押し寄せてきて、立っていることすらできなかった。

景次を八つ裂きにしてやりたいほど憎んでいた。

「陸川奥さん、大丈夫?」

顔を上げると、目の前にスーツ姿の男性が立っていた。涙で視界がぼやけて、最初は誰かがわからなかった。

シャツの袖を腕まくりして、手首には高級そうな腕時計がついていた。ジャケットは片腕にかけられていて、どこか気だるげながら、洗練された雰囲気が漂っていた。

舟木愛雄(ふなき あいお)。

景次が働く企業・舟木グループの社長。

半年前、愛雄がクルーズ船で開いた誕生日パーティーに、景次に連れられて参加したことがあった。

そのとき、部屋でメイク直しをしていると、酔っ払った愛雄が間違って入ってきて、薔薇を別の誰かと勘違いして壁に押しつけてキスしてきた。

「なんでそんなに冷たいんだ」なんて言いながら。

薔薇は怖くて、そのことを誰にも言えなかった。

その一週間後、景次は昇進した。

ふいに、彼がよく口にしていた言葉が頭をよぎった。

「俺が舟木グループの上層部に入れるかどうかは、舟木社長の一言で決まる」

薔薇の頭の中で、ある汚い考えが現れた。

クズを潰すには、まずは使える「刃」を探さなきゃ。

「陸川奥さん?」

「......大丈夫です。最近ちょっと眠れなくて、検査に来ただけです」

立ち上がろうとした瞬間、足首をひねって、バランスを崩して前のめりに倒れそうになった。

「危ない!」

彼がすぐに支えてくれて、しっかりと腰を抱えた。

薔薇はほんのりとした木の香りに包まれた。

「捻挫したか?」

薔薇は見上げて、愛雄の漆黒の瞳と視線が交差した。

「......たぶん。ちょっと痛いです」

彼に支えられながら、ゆっくりと足首を回してみた。

すると、愛雄が尋ねてきた。

「陸川は?一緒じゃないか?」

薔薇は指でそっと目尻の涙をぬぐって、落ち着いた声で答えた。

「会社に急な仕事があるって言って、昨夜からずっと徹夜で、まだ戻ってきてません」

彼の腕に少しだけ力が入ったような気がした。その黒い瞳にも、わずかな驚きが浮かんだ。

薔薇は逆に聞いた。

「舟木社長はどうしてこんな朝早くに?誰かのお見舞いですか?」

「......いえ、ちょっとした私用で」

「そうですか......あの、じゃあ......」

愛雄がふいに言葉を継いだ。

「もう用は済んだ。今から帰る」

薔薇は一瞬、言葉を失った。

手はスカートの裾をきゅっと握って、これから言おうとしていることに緊張して唾を飲み込んだ。

愛雄は目を逸らすことなく、じっと彼女を見つめていた。

その目の奥に、どこか人を惹きつけるような光が宿っていた。

薔薇は胸の鼓動を抑えながら、ようやく言った。

「......舟木社長、よかったら送っていただけませんか?

タクシーで来たんですけど、今ちょうど朝のラッシュでなかなか捕まらなくて。

それに、足首もちょっと痛くて......」

一気に言い切った。

目はまっすぐに、愛雄を見つめていた。

心臓がドキドキしていた。

「いいよ」

彼の声がはっきりと響いた。

やさしくて、羽のように胸の奥をくすぐった。
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