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【エピソード04〜小田原家の家族①〜】

Author: 水沼早紀
last update Last Updated: 2025-04-16 18:25:39

「結構食べたな?」

「はい。お腹いっぱいになりました」

「美味そうに食べてたもんな、紅音」

 そんな爽太さんが向ける笑顔には、少しだけ不思議な気持ちになった。

 爽太さんと一緒にいると、とても楽しい。幸せだなと感じる時もある。

 こんなこと感じるなんて、あまり良くないのかもしれないけど……。

 だけど私は、爽太さんのこととてもいい人だと思っている。こんな私を拾ってくれて、借金を全額返済してくれて……。

 ニ年という期間だけど、私は今爽太さんの妻になれて良かったと思っている。

 だって爽太さんがいなければ私は、今頃どうなっていたのか分からないから。

「……あの、爽太さん」

「ん?どうした?」

「爽太さん……」 

 私を見つめる爽太さんのその目に吸い込まれるかのように、私は一歩ずつ爽太さんに近付いていた。

 そして爽太さんのその唇に、吸い込まれたかのようにそっと唇を重ね合せていた。

「……え?」

「あ……!す、すいません! 私っ……!」

 わ、私ってば、なんてことを! いきなりキスするなんてっ……!

 自分の行動に驚いた私は、そのまま後ずさりしてそのまま下を向いて歩き出してしまった。

「紅音っ……!待てって!」

 私の後を追いかけてきた爽太さんに、腕を掴まれた私は、振り返る形で爽太さんとそのまま目が合った。

 その瞬間、心臓がバクバクして激しく鼓動が揺れる。ドキドキして、恥ずかしくなりそうだった。

「……そ、爽太、さん?」

「キスしたいなら、そう言えばいいだろ?」

「……え?」

 それはどういう意味なのだろうか……。って、私、爽太さんとキスしたいって思われてたの?

 そ、そんなつもりなかった、はずなのだけど……。いや、もうどうだったのかも分からない。

「紅音からキスするなんて、反則だ」

「……へ?」

 は、反則……とは?

「キスは俺からしてやるから」

「え、爽っ……んんっ」

 その言葉の後、手を握られそのまま爽太さんからキスされた。 私はそのキスを、目を閉じて受け入れていた。

「……行くぞ、紅音」

「は、はいっ……」

 き、キスしてしまった! しかもニ回も。いや、夫婦なのだから当たり前なのだけど……。

 だけどなんだか、すごく恥ずかしくて、照れてしまった。

✱ ✱ ✱

 それから数日後、私は爽太さんと一緒に、爽太さんの家族の元へと来ていた。

 爽太さん家はご両親、そして弟と妹の三人兄妹だ。爽太さん家の家族は、みんな優しい。

 いきなり妻になった私にも、優しく接してくれる。

「爽太、紅音さん、いらっしゃい!どうぞ入って」

「お、お邪魔します……」

 爽太さんの家はとても広くて、家に入るのが恐れ多いくらいだ。

「こんにちは、紅音さん」

「こ、こんにちは。沙和さん」

 明るい笑顔で出迎えてくれたのは、爽太さんの妹で私と同い年の沙和(さわ)さん。

 私のことを紅音さんと呼んでくれて、気作に話しかけてくれる。笑顔が本当に似合う清楚な女性だ。

 私にはないものを持っていて、正直とても羨ましい。

「紅音さん、そのお洋服、とても似合ってる」

「え、そうですか……?」

 私よりも沙和さんが着たほうが似合うのでは?と思わなくはないけれど……。

 褒められると、ちょっと嬉しい。

「うん。紅音さんにピッタリだね」

「あ、ありがとうございます……」

 なんかこう、恐れ多い……。

「それ選んだのって、もしかしてお兄ちゃん?」

 沙和さんからそう聞かれて私は「は、はい。一応……」と答えた。

「やっぱり。そうかなって思ったよ」

「ど、どうして分かったんですか?」

 と問いかけると、沙和さんは「だってお兄ちゃんの好きそうなデザインだもん」と言って笑っていた。

「そ、そうなんですか……?」

「そう。お兄ちゃんは昔から、大切な女性には必ず花柄のワンピースをプレゼントをするって決めてるみたいだから」

「大切な……女性?」

 それってその、私以外の女の人にもって、ことだよね……?そうだよね……。爽太さんは本当にカッコイイし、そりゃあモテるよね。

 私みたいな凡人、やっぱり釣り合う訳ないよね……。妻になってみて、本当にそう思う。

 私みたいな凡人に、爽太さんのような爽やかイケメンは似合わない。 私みたいな女が爽太さんのそばにいるなんて、おかしな話だもんね……。

 自分でも思ってるくらいだもん。

「紅音さん……?」

「……え?」

「どうしたの?大丈夫?」

「は、はい。大丈夫です。……すみません」

 ダメダメ。そんなこと考えてても仕方ない。

 だって私たちは、あと一年半後には離婚するんだから。 変な感情を持ったら、戻れなくなってしまう気がする。

「紅音さん、お待たせ! どうぞ座って!みんなでお茶にしましょう!」

 そんなことを考えていた時、爽太さんのお母様の明るい声が聞こえてきた。

 私は精一杯の笑顔を向けて「ありがとうございます。お母様」と言葉を発した。

「紅音さん、チョコチップクッキーも焼いたから、遠慮なく食べてね?」

「はい。ありがとうございます」

 お母様はお料理が本当に上手な方で、こうしたお菓子まで手作りしてしまう。

 本当にすごいと思うし、尊敬してしまう。

「美味しいです」

「あら本当?良かった」

 お母様の手作りクッキーは、甘さ控えめでしっとりしていて、とても美味しかった。

 紅茶との相性もバツグンで、クッキーとのハーモニーが心地よい。

「甘さ控えめで、食べやすいです」

「良かったわ。遠慮しないで、好きなだけ食べてね」

「ありがとうございます」

 爽太さんのお母様は、本当に優しいな……。

 両親が二人とも他界している私にとって、家族がこんなに幸せそうに見えることは羨ましいし、なんとなくだけど理想の家族像な気がした。

「ところで爽太」

 爽太さんのお父様が、少し険しい顔で爽太さんを見ていた。

「何だよ、父さん」

「お前たち、子供は作らないのか?」

「えっ」

 私はその問いかけに思わず、言葉が漏れてしまった。

「今のところ予定はない。 まだ新婚なんでね」

「そうか。……まあこの先の夫婦生活は長いんだ。孫の顔も、焦ることはないか」

「そうですよ、お父さん。焦ることないですよ」

 お父様のその言葉に、爽太さんは黙り込んでしまった。 そしてそのまま何も言わなかった。

 私たちは確かに新婚だ。だけど結婚しても、子供は作らないというルールがある。

 ニ年間の結婚生活の中で、すでに離婚を前提とした夫婦となっている。

 そんな私たちが子供を作ることはあり得ないし、そんなのは出来る訳ないのだ。

「紅音さん、お兄ちゃんにいじめられたりしてない?」

「まさか! すごく優しくしてもらっていますので……」

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