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第13話

Author: 彼岸野悠
last update Last Updated: 2024-12-24 11:07:57
遠山日菜子（とおやまひなこ）？

えっ？！

誰だ？

記憶の中にはそんな人はいないし、こんな番号も登録してないはずなのに？

ぼんやりしていると、手の中の携帯が突然誰かに奪い取られた。

驚いて振り返ると、幸作がバスタオルを腰に巻いただけの姿で私の背後に立っていた。

すぐに状況を理解した。

そうか、これは彼の携帯だ。遠山日菜子というのは、彼の知り合いなのだろう。

ダメだ、今度絶対に携帯も着信音も変えないと。彼と同じなんて真っ平だ。

幸作は窓際まで歩いて電話に出たが、その視線は深い闇のように私を見つめていた。

その視線を追って、自分の体を見下ろした。

次の瞬間、私は顔を赤らめ、ベッドの端に置いてあったガウンを慌てて掴んで羽織った。

そして、何事もなかったかのようにベッドの端に腰掛けて彼を見た。

幸作は視線を逸らした。

だが、彼の口元には笑みが浮かんでいて、なんだか機嫌が良さそうだった。

彼は電話口で言った。「わかった。すぐ行く」

とても優しい声だった。

私は気分が沈み、うなだれた。

あの遠山日菜子って、彼の思い人なんだろうね。

好きな人と話している時の彼は、あんなに上機嫌で優しい声をしてるんだもの。

でも、私と話す時は嫌味っぽいことばかり言って、笑い方も妙に不気味だ。

はあ……！

好きと嫌いの差って、本当に大きいんだな。

私がそんなことをぼんやりと考えていると、彼が突然私の目の前に立った。

私はゆっくりと顔を上げた。深い闇を湛えた彼の瞳と目が合うと、心臓が一瞬跳ね、不意にときめきを覚えた。

私は気まずそうに頭をかきながら尋ねた。「出かけるの？」

「ああ」

彼はゆったりとした声で答え、その視線をじっと私に向けたままだった。

彼に見つめられ、私は思わず居心地の悪さを感じ、急いで言った。「安心して出かけてよ。今日は絶対どこにも出歩かないから」

幸作は突然身を屈めて、私の唇に軽く噛みついた。

痛みに思わず声を上げると、次の瞬間には彼に押し倒されてベッドの上にいた。

「な、何をしようっていうの？」

彼は風呂上がりで、しっとりと濡れた髪は乱れ、露わな上半身には水滴が残っていた。

その深い闇を秘めた瞳と、かすかに吊り上がった唇が見つめてくる。

どこをとっても色気たっぷりで、思わず生唾を飲み込んでしまうほどだ。

幸作は私の
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    慌てて否定した。「ないない！私が彼と不倫なんて、絶対ありえない！」幸作は軽く笑い、全く信じていない様子だった。私はもう後悔で死にそうだった。彼がここまで想像力を働かせるなら、最初から寺澤の電話を止めるべきではなかった。ちょうどその時、寺澤からまた電話がかかってきた。幸作は眉を上げて私を見た。この瞬間、私は何も言えず、手で彼に早く出ろと合図した。寺澤は鼻で笑い、電話を取り、わざとスピーカーをオンにした。「おいおい、2回もかけてやっと出たのかよ。なんだ？邪魔しちまったか？」幸作は私を一瞥し、電話に向かって冷たく言った。「用件を手短に話せ」寺澤はチッと舌を鳴らした。「そんな冷たい態度取るなよ。オレは椛島じゃないし、オメエに何かしたわけでもない」私は気まずそうに鼻を触った。どうやら誰もが、私が昔幸作にひどい態度を取っていたことを知っているらしい。幸作は冷笑を浮かべ、私を見てきて、それがさらに気まずさを増した。私は視線をそらし、彼が苛立った口調で電話に向かって言うのを聞いた。「何の用だ？用事がないなら切るぞ」「ちょ、ちょっと待てよ。明日の夜、ダンスイベントがあるんだ。オメエも来いよ」「行かない」幸作があっさりと断るのを聞いて、私は心の中で少し安堵した。あの寺澤明人、口では幸作にオレを怒らせるとか言っておきながら、裏では幸作にそのダンスイベントを見に来てほしいと願っているなんて。まるで幸作が私がそのダンスイベントに参加していることを知らないとでも思っているかのようだ。「来いよ」寺澤はまだ幸作を誘っていた。「サプライズがあるぞ、大きなサプライズだ」「興味ない」幸作は淡々と四文字で答えた。寺澤はまだ話し続けていた。幸作は電話をそのまま切った。私は彼をちらりと見ながら、恐る恐る尋ねた。「聞いたんだけど、このダンスイベントに出るのは超一流の美女ばかりなんでしょ？本当に見に行かないの？」幸作は眉を上げて言った。「どうした？お前が行きたいのか？」私は慌てて首をブンブン振った。彼は近くに座り、笑みを浮かべるような、浮かべないような顔で言った。「お前が行きたいなら、俺が連れて行ってやってもいいぞ」「い、いやいや、本当に行きたくないよ。美女が踊るだけなんて、何が面白いんだか。ただ不思議

  • 破産した後、婿入り夫が私のパトロンになった   第25話

    胸がぎゅっと締め付けられるようだった。あのお喋りな寺澤が、私がダンスの祭典に参加することを幸作に言うつもりじゃないだろうな。別にこれは秘密でもないし、幸作に話しても問題ないけど。でも、幸作って本当に気分屋だし、私に対する恨みもたくさんあるから。彼に知られたら、絶対に参加させないって言い出しかねない。それに、これは貴重な稼ぎのチャンスだ。何としてでも失敗は許されない。だから、幸作には絶対に知られたくない。幸作が電話に出そうとするのを見て、私は慌てて彼の腕を引っ張った。幸作は視線を落として私の手を見つめ、眉を軽く上げて言った。「何だ？」「あの……」私は彼の携帯画面に表示された跳ねる名前を見ながら、ぎこちなく笑った。「その電話、出ないでくれる？」幸作の眉間に一瞬驚きが浮かび、軽く笑いながら言った。「いいだろう。で、理由は？」「えっと……」私は2秒ほど考えてから慌てて言った。「寺澤って、遊び人で有名でしょ？今電話してきたってことは、きっと遊びに誘おうとしてるんだよ。あなたには遊びに行ってほしくないの。彼に悪い影響を受けてほしくないから」幸作は私をじっと見つめ、その深い瞳は私を見透かすようだった。彼の視線にさらされて居心地が悪くなってきた頃、彼が突然尋ねた。「どうして俺が彼に悪影響を受けるのが嫌なんだ？」「だって……好きだから」その言葉を口にした途端、私は舌を噛み切りたい気分になった。私は一体何を口走ったんだろう。嘘をつくには、私の頭は明らかに足りない。「俺のことが好きだって？」幸作は笑いながら私を見つめた。またしても、心をざわつかせるあの笑みだ。私は驚きながら頷いたが、彼の笑みの意味はさっぱりわからなかった。この時、電話の着信音はもう止んでいた。幸作は携帯をいじりながら、何も言わなかった。私が少し安心しかけたその時、彼が突然耳元に顔を寄せて、低く笑いながら言った。「俺が信じると思うか？」私は一瞬動揺し、思わず顔をそらしたが、その時彼の瞳に浮かぶ冷笑と嘲りを見てしまった。彼はゆっくりと上体を起こし、悠然とした調子で言った。「昔、お前は寺澤のことが好きだったよな？俺には彼みたいな面白さがないとか、堅物だとか言ってさ……」「私……そんなこと言ってない！」私は慌てて反論した。

  • 破産した後、婿入り夫が私のパトロンになった   第24話

    寺澤は腕を組んで笑いながら言った。「このホテルはオレの家のものだし、このダンスイベントも、オレたち兄弟が暇つぶしでやってるだけだ。まあ、美女を見たいっていう口実さ。だから、このダンスイベントに参加できるのは、スタイルもルックスも抜群のトップクラスの美女だけなんだよな。この申し込みの審査も、もちろんオレたち兄弟が直接やらないとな。人事の連中は堅苦しくて真面目すぎてさ、美的センスなんてないんだからな。なあ、オレのかわいい明日実ちゃん、そうだろ？」はっ、呆れた！誰が「かわいい明日実ちゃん」だっての。この男、まるでチンピラみたいだな。内心では毒づきつつも、表向きには愛想よく笑いながら言った。「じゃあ、私、参加できるか？」寺澤は顎に手を当て、私をじっくりと上から下まで眺めてから頷いた。「うん、オメエのスタイルもルックスも完璧だな。ただ……」「ただ何？」私は急いで尋ねた。寺澤は深いため息をついて言った。「ただ、幸作がオレに面倒を押し付けてきそうでさ」私は一瞬言葉に詰まったが、平静に答えた。「私と彼はもう何の関係もないから、大丈夫のよ」「そうか？」寺澤は携帯を取り出し、画面をいじりながら疑わしげに言った。「でもさ、あいつがキレると怖いんだよな」寺澤の言葉には全面的に同意する。幸作がキレたら、確かにめちゃくちゃ怖い。でも、私が参加するのはただのダンスイベントで、佑真に会うわけでもない。彼が何を言えるっていうの？それに今、彼は思い人とラブラブなんだから、私のことなんか気にするはずがない。六千万円の賞金のことを考え、そして父の一千四百万円の借金が頭に浮かぶ。私は急いで寺澤に断言した。「本当に彼を恐れる必要なんてないわ。今や私たちには何の関係もないし、仮に少しでも関係があったとしても、私のことに口を出す筋合いはない！」「へえ……」寺澤は語尾を長く伸ばしながら、まるで狐のような笑みを浮かべて言った。「それ、オメエが言ったんだぜ。もしあいつがオレにキレたら、ちゃんとフォローしてくれよな」私は勢いよく頷いた。心の中で、寺澤はただ考えすぎなんだと思った。幸作がこんな些細なことで彼に絡むわけないじゃない。本当に。私が何度も保証したおかげで、寺澤はようやく私がこのダンスイベントに参加することを認めてくれた。イベントは明日

  • 破産した後、婿入り夫が私のパトロンになった   第23話

    ダンスイベント、その七文字が視界に飛び込んできた。私は無意識にチラシを拾い上げた。「六千万円の賞金」という文字が、一気に私の気持ちを奮い立たせた。慌てて続きを読んだ。それは数軒の国際的な高級ホテルが共同開催するダンスイベントだった。イベント終了後、その場で観客が投票し、一番踊りがうまいダンサーを選び、賞金六千万円が贈られるとのことだった。詳細を読んだ私は、一気に心が動かされた。もしその六千万円の賞金を手に入れることができたら、父が抱えるギャンブルの借金の半分は返せるんじゃないか？締め切りの時間を確認すると、今日の深夜までだった。すでに夜の八時を過ぎている。住所を急いで確認すると、幸いにもすぐ近くだった。そのルートに沿って豪華なホテルの前にたどり着いた。ロビーに入った瞬間、見覚えのある背中が目に入った。幸作だ！本当に、この男とは何か因縁でもあるのだろうか。どこに行っても、彼に遭遇してしまう気がする。今、彼はエレベーターに向かって歩いており、その隣には女性がいた。その女性はしなやかな体つきをしており、艶やかな黒髪を肩の後ろに流していた。後ろ姿だけで、「清純な月光」という表現が思い浮かぶようだった。どうりで、今夜は帰らないと言っていたのだ。ここに思い人と泊まりに来たというわけか。胸の奥で、どうしようもなく苦い感情が湧き上がり、その苦さの中には小さな痛みも混じっていた。その嫌な感情を必死で追い払おうとしながら、深く息を吸い込み、受付に向かった。今は恋愛ごとに煩わされている場合ではない。一番重要なのはお金を工面することだ！受付のお姉さんが丁寧に教えてくれた。「申し込みは二階の会議室で行っています」二階の会議室の前に着き、私はドアをノックした。中から、どこか聞き覚えのある男性の声がすぐに返ってきた。「入ってください！」少し考えたが、この声が誰のものか思い出せなかった。ドアを開けた瞬間、鼻をつく煙草の匂いが充満してきた。目を上げると、部屋の中では数人の男性がビリヤードをしているのが見えた。部屋全体が煙で濁っているようだった。「会議室」と書かれた大きな文字がドアに貼られているはずなのに、これが会議室？どう見ても、クラブのような雰囲気だ。中は豪華に装飾さ

  • 破産した後、婿入り夫が私のパトロンになった   第22話

    おそらく、すぐにでも私は幸作の愛人だという噂が広まるだろう。その頃には、かつての名門のお嬢様である私は、完全に人々の酒の肴になるだろう。父と母はどうしても信じられないようで、私が本当に幸作と離婚したのかと繰り返し尋ねた。私の確定的な返事を聞くと、父は幸作の祖先十八代まで罵り始めた。兄は冷たく鼻で笑った。「借金を全て返済してくれた上に、二億までくれたんだ。それ以上何を望むんだ？俺たちが昔、彼にどれだけひどい扱いをしたかも考えずにさ。それでもここまでしてくれたんだ、十分ありがたいと思えよ」「でも、出世した途端にうちの明日実を捨てるなんて、それはひどすぎるわ」母は憤慨して言った。私はため息をつきながら言った。「なんでいけないの？彼は私のことが好きじゃないし、私に借りがあるわけでもない。捨てられるのは普通のことでしょ？」母は私の言葉に詰まって、何も言えなくなった。父はようやく慌て始め、私に向かって焦りながら言った。「お前が幸作くんと離婚していたとしても、一千四百万を彼に頼むのは難しいことじゃないだろう？明日実、お願いだから父さんを助けてくれないか？3日後には奴らがお金を取り立てに来るんだ。父さん、両手を切り落とされるなんて嫌なんだよ！」母も私の腕を掴んで泣きながら言った。「そうよ、明日実。お願いだからお父さんを助けてちょうだい。幸作はあんなにお金持ちなんだから、昔の義理人情を思い出してくれれば、あなたがお願いすればきっとくれるわよ」昔の義理人情？私は苦笑いを浮かべた。「私と彼に、昔の義理人情なんてあるわけないじゃない」父も母もなおも私に頼み込んできて、挙句の果てには私を責め始めた。兄は見かねて、低い声で怒鳴った。「いい加減にしろよ。明日実だって人間だし、うちの大事な宝物だったじゃないか。誇り高いお嬢様だったんだぞ。そんな妹に何度も自尊心を捨てさせて、加賀幸作に金を無心させるなんてどうかしてる」母は口を押さえて泣き崩れた。父は口を開けたまま、まだ何か言おうとしていた。兄は冷たい声で父の言葉を遮った。「もう妹を追い詰めるな。この三日間、俺が必死に金を集める。死んだっていいさ。そのギャンブル好きな手は守ってやるよ。それで文句ないだろ？」そう言うと、兄は私を外へ連れ出した。マンションの下まで来る頃には、私はもう

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