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第 0080 話

この言葉を聞いた途端、蛍は表情を崩し、「隼人、朝早くから何も食べずに会いに来たのに……あなたが今行ってしまったら、私はどうするの?」と言った。

隼人は振り向くこともなく、「今のうちに朝ごはんでも食べたらどうだ?」と冷たく言い放った。

「......」

蛍は呆然とその場に立ち尽くし、隼人が彼女を完全に無視して瑠璃の方に歩いていくのを見ながら、ハンドバッグの持ち手を強く握りしめ、今にも爆発しそうだった。

隼人のこの行動に、瑠璃も驚きを隠せなかった。しかし、彼は本気らしく、瑠璃の横を通る際、わざと歩調を緩め、意味ありげな目線を送ってきた。「ついてこい」

瑠璃は隼人の意図が全く理解できなかったが、蛍が今にも爆発しそうな様子を見て、微笑みを浮かべながら、素直に隼人の車に乗り込んだ。

余計な争いを避けるため、瑠璃は車内で何も話さず、隼人もまた黙ったままだった。

瑠璃はそっと隼人の横顔を盗み見た。彼の顔立ちは変わらず美しく、しかし冷たかった。

大学時代のことをふと思い出した。あの頃、彼女はこうやって隼人を何度もこっそり見つめていた。片思いの時の甘く切ない感情は、今となってはただの美しい思い出だ。

だが、その時代はもう二度と戻ってこない。

彼女の心はもう甘くときめくことはなく、悲しい旋律だけが残っていた。

そう考えているうちに、車は止まった。しかし、降りた場所は目黒グループの前だった。

瑠璃は何が起こったのか理解できず、隼人を見たが、彼はすでに車から降りて助手席側に回り、ドアを開けていた。

この男が本当に親切なわけではなく、ただ道すがら送ってくれただけだと気づいたが、瑠璃は気にしなかった。瞬の会社はすぐ先にあり、道を一本渡れば着くからだ。

瑠璃はバッグを持って車を降り、「ありがとう、目黒社長」と礼を言い、立ち去ろうとした。

「どこへ行く?」

隼人の低く響く声が彼女の背後から聞こえた。「今日から、ここで働け」

瑠璃は再び、自分の耳がおかしくなったのかと思い、冷たい表情の隼人を見つめた。「目黒社長の会社に人手が足りないなら、募集したらいいじゃない?ネットでいくらでも人が集まるでしょう」

「瑠璃、俺に二度同じことを言わせるな」隼人は眉をひそめ、顔が一気に冷たくなった。

「お前はジュエリーデザインが好きなんだろう?目黒グループには、お前がその才能を十分
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