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第296話

詩織は黙ったままでいた。今の彼女は自分のことで精一杯で、どうしてこの男のために弁解できるだろうか。全てはこの馬鹿な男が物事をきちんと処理できなかったせいで、紗希に付け込まれたのだ。

松下が社長室から連れ出された後、詩織はやっと哀れっぽく口を開いた。「平野兄さん、この件は私に任せてください」

小林家のお嬢様である彼女は、そのくらいの権限もないというのだろうか。

「詩織、お前にはこの件を処理する資格はない。それに、なぜ家族をいじめた?」

平野には理解できなかった。なぜ詩織は紗希をいじめたか。

詩織は冷たい表情で答えた。「紗希が私と拓海の間の感情に介入したからよ。彼女がどんな身分で、私がどんな身分なの?今回は紗希に軽く警告するだけのつもりだったわ」

これを聞いて、平野は以前の国際パイオニアデザイン大賞での出来事を思い出した。紗希が一位だったのに、最下位にされてしまった件だ。

あの時、詩織が意外だと言い、彼はそれを信じた。

しかし今となっては、全ては意外ではなく、明らかに詩織が仕組んだことだと分かった。

彼は詩織を小林家から連れ出さなければならない。

平野はついにため息をつき、決断を下した。「詩織、前に話した養子縁組解消の書類だが、今すぐにサインしてくれ」

詩織は少し戸惑い、平野がこの話題を持ち出すとは思わなかったらしく、抵抗するように言った。「平野兄さん、私はまだ拓海と婚約してないわ。前に、私が拓海と結婚して頼れる人ができたら、私達の取引を解消すると言ったじゃない」

前回の婚約は拓海によってキャンセルされた。それも北兄のせいだ。小林家は彼女の全てに責任を持つべきではないのか。

平野は引き出しからその書類を取り出し、詩織の前に置いた。「サインしろ」

もう詩織を置いておくわけにはいかないと感じていた。

詩織が紗希をこんなふうに陥れようとするなんて、もう彼の許容範囲を超えていた。

詩織は書類をちらりと見た。「平野兄さん、そんなに私を追い出したいの?」

「詩織、私達の縁はここまでになった。もうお前が小林家にいるのは適切じゃない」

詩織が小林家に残れば、紗希との衝突が増えるばかりだ。将来、彼らはどうやって紗希に説明すればいいのか。

「平野兄さん、なぜ私を追い出すのか、理由を教えてくれるよ。まさか、あの紗希という女のせいではないのか?」

そうか
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