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父の日-07

Penulis: あさの紅茶
last update Terakhir Diperbarui: 2024-12-18 21:44:47

次の火曜日、ラーメン店の隣のコンビニで待ち合わせることになった。

紗良にとっては自宅の近くであり、保育園のお迎えに行ってから寄るのにちょうどいい。

杏介は自宅から離れているが、職場近くということもあり行きなれている場所だ。

車から降りた海斗はすぐに杏介を見つけ、満面の笑みで叫ぶ。

「たきもとせんせー!」

「おー、海斗! 頑張って保育園行ってきたか?」

「いってきたー!」

水色のスモックに黄色い帽子をかぶった海斗は自分の背中に隠しきれていない画用紙を杏介に突き出す。

「はい、これ。せんせーにあげる。かいとがかいたんだよ」

「うわあ、すっごく嬉しい! ありがとう!」

得意気な海斗から受け取ると、画用紙の縁に『おとうさん、いつもありがとう』とサインペンでしっかりと書いてあった。

紗良が言っていたのはこのことかと、杏介は苦笑いをする。

けれどやはり、杏介に渡したいという海斗の気持ちが嬉しく感じる。

嬉しそうな海斗の顔を見て、紗良は心底ほっとしていた。

と同時に、やはりパパの存在が恋しいのだろうかとも思ったりする。

海斗には祖父は一人いるが、遠く離れていて会う機会もない。

紗良と紗良の母に育てられる海斗。

今はいいかもしれないけれど、将来的にどうだろう。

ふと、そんな考えになるときがある。

でもだからといって、どうすることもできないのが現状だ。

世の中には父親がいない子どもはたくさんいよう。

いても幸せだとは限らない。

人それぞれ、事情があるのだから。

海斗の身近で遊んでくれる大人の男性が杏介だけだから、それで懐いているのかもしれない。
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    Terakhir Diperbarui : 2024-12-23

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-02

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編③ シアワセノカタチ-01

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編② ある日の朝の出来事-02

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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編① 泡沫の恋心-04

    ◇海斗のプール教室は、いつも弓香さんと一緒に観覧席から見守っている。 全面ガラス張りなのでほとんどすべてが見渡せ、海斗のみならず別のクラスを担当している杏介さんの姿もしっかりと確認できる。「うちも海ちゃんと一緒に同じクラスに上がれてよかったわ」「一緒だとやる気も上がるしいいよね」「でも先生が代わっちゃったのがちょっとなー。どうせなら小野先生がよかったわ」「弓香さん、小野先生推しだもんね」私は杏介さん推しだけど、なんて心の中で唱える。 チラリと視線を海斗から杏介さんに向ければ、逞しい体が目に入った。……急に思い出してしまう。あの日のことを。あの逞しい体に、抱かれたんだよね。 すごくかっこよくて、何度もキスをしてくれて、何度も紗良って名前を呼んでくれて、幸せで胸が張り裂けそうになった。初めてはすっごく痛かったけど、でもそれ以上に、杏介さんとひとつになれたことが嬉しくてたまらなかった。私、こんなにも杏介さんのことを好きで愛していたんだって改めて実感した。「おーい、紗良ちゃん? 紗良ちゃーん」「は、はいっ!」「どした? 推しでも見つけた?」「いや、なんでもないよっ」あまりにも杏介さんのことを見ていたからだろう、弓香さんが不思議そうに首をかしげる。前はプール教室の先生なんて全員同じ顔に見えていたし、推しだなんて考えたこともなかった。 だけど今はもう、全員違う顔に見える。当たり前だけど、杏介さんが一番かっこいい。もうちょっとしたら、弓香さんにもちゃんと報告しよう。 杏介さんと結婚しますって。 そしたら何て言うだろう? 驚くかな?その時のことを考えて、私はまたドキドキと心を揺らした。 【END】

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   番外編① 泡沫の恋心-03

    「ぷはっ……」ようやく唇が離れたかと思えば、私を見下ろす杏介さんと目が合う。「紗良は本当に可愛い」「ど、どこがっ……さっきも可愛くない声が出ちゃったのに……」「うん? じゅうぶん可愛かったけど、もしかしてもっと可愛い声を聞かせてくれるの?」そう言われて一気に想像が膨らんだ私は、声にならない声を出して固まる。「き、き、き、杏介さんのエッチ!」「まだキスしかしてないのに、何か想像しちゃってる紗良の方がエッチだろ?」と杏介さんはクスクスと笑う。た、確かにそうかも――。って納得してる場合ではなかった。 どうしよう、どうしよう。「紗良、俺も緊張してるよ」「……うそ?」「ほんと」杏介さんは私の手を取り、自分の心臓へ持っていく。 トクントクンと刻む鼓動は確かに速い……気がする。 目をぱちくりさせると、杏介さんは柔らかく笑う。「ずっと紗良を抱きたいって思ってたんだから、夢だったらどうしようって思ってる。だからすごく緊張してる」「あ……わ、わたしも……夢みたいで……。それに、もっと可愛い下着付けてこればよかったとか、杏介さんをガッカリさせちゃったらどうしようとか、思っちゃって……」「はあー、紗良。ほんと、これ以上可愛いこと言うのやめて。俺の理性が吹き飛ぶ」「……吹き飛ぶ?」「そう、吹き飛ぶ」「んっ!」チュッと音を立てて食べられた唇。 優しくなぞられる体。どうしようなんて散々考えていたのは杞憂で、それでいて滑稽なことだったと、この後たっぷりと実感したのだった。

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