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お互いのこと-04

last update 最終更新日: 2025-01-12 06:46:52

午後からは併設されているキッズ遊園地へも足を運んだ。

コーヒーカップでグルグル回ったり、メリーゴーランドに乗ってみたり、海斗でも乗れるキッズ用ジェットコースターが意外とスリルがあったりと、楽しくてあっという間に時間が過ぎていた。

観覧車に乗るころにはもう夕方だ。

今日ばかりは紗良もシフトを入れておらず、帰りの時間を気にせず目一杯遊んだ。

とはいうものの、やはり海斗の生活リズムを考慮して遅くなることは避けるのだが。

帰りの車では海斗はきちんと約束を守って後部座席へ座る。

紗良はドキドキしながら助手席へ乗り込んだ。

杏介の隣に座ることはいつでも嬉しい。

車が発進すると、早々に海斗は船をこぎ出す。

そんな様子をバックミラーごしに確認して、紗良と杏介は顔を見合わせて笑った。

「杏介さん、今日は連れてきてくれてありがとう。 貴重なお休みだったのに」

「 紗良、それはもう言いっこなしだ。俺は二人と過ごせてすごく楽しかった。いい休日になったよ」

「それならよかった」

「でもまさか紗良が動物嫌いだとは思わなかったな。それなのに動物園に行きたいだなんて、やっぱり海斗のため?」

「それもあるけど、そういうところで杏介さんとデートしてみたかったというか、杏介さんも一緒なら大丈夫なんじゃないかなって思ったから」

「で、どうだった?」

「すっごく楽しかった。馬以外は。あれはダメだよ。もう、目が怖くって」

「あはは。珍しい紗良が見れたのは貴重だったな」

卒倒しかけた紗良を受け止めたことを思い出して杏介はくっくと笑う。

「杏介さんこそ、タコさんウインナーにあんなに感動するなんて思わなかったよ」

対抗するように紗良も印象深い出来事を口にすると、杏介は「あー」と言いながら頬をかいた。
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  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   いちばん大事なことは-07

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    アルバイト先にもしばらく休むことを伝え、お昼時もだいぶ過ぎた頃、紗良はようやく自宅へ戻った。「ただいまー」玄関を開けると奥から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。リビングに足を踏み入れれば、散乱した折り紙や絵本、そして杏介の膝に座ってスマホゲームをしている海斗がいた。「ああ、紗良、おかえり」「ただいま。おかげで手続きとかいろいろと終わったよ。杏介さん、大変だったよね?」「あ、ごめん。部屋が散らかりすぎてるな。あと、海斗にスマホゲームさせるのはよくなかったかも」「ううん。全然いいの。すごく助かってるから。海斗、よかったね」うん!と元気のいい返事が返ってくるも海斗はゲームに夢中になったまま杏介の膝の上でご機嫌だ。「紗良、バイトは休んだ?」「うん、さすがに行けないから。しばらくお休みさせてもらうことにしたの」「そうか。それがいいな」「あ、二人ともお昼はどうしたの?」「残ってたおにぎりとかパンを食べたよ。紗良は? ちゃんと食べた?」「うん、病院のカフェで少し……」本当はアイスコーヒーを一杯飲んだだけなのだが。 それを言えば杏介は心配するに決まっているので、食べたことにしておく。 朝は杏介と海斗が気持ちを盛り上げてくれたため食べることができたが、やはり一人での食事は喉を通らなかった。「よかったら夕飯食べてって。それくらいしかお礼できないんだけど……」「ありがとう。でも今から仕事だからさ。また今度いただくよ」「えっ、お仕事だったの? ごめんなさい、こんなに長くいてもらって」「いいんだ。気にするなよ。今から仕事だけど、何かあればすぐに電話してくれて構わないから。夜中でもいつでも。まあ、何もなくてもかけてくれていいんだけど。いつでも紗良の声聞きたいし」「ありがとう、杏介さん」思わず潤んでしまった目を隠すために紗良は少し俯く。 そんな紗良の頭を杏介は優しく撫でた。「海斗も、また来るからな」「わかったー。こんどまたゲームやらせてね」「紗良姉ちゃんの言うこと聞いていい子にしてたらな」「わかった。いいこにする」海斗は親指を突き立てキリリと頷く。後ろ髪を引かれながらも、杏介は仕事に向かった。 こんなときこそ仕事を休んでずっと紗良の元にいたいと思ったが、シフト勤務でなおかつ生徒を抱える身としては早番と遅番を変更してもらうので精一杯だ

  • 泡沫の恋は儚く揺れる〜愛した君がすべてだから〜   いちばん大事なことは-05

    病院では母の病状や今後の説明を受け、たくさんの書類に目を通しながら手続きを済ませる。ICUにいる母にはたくさんの管が付いていて、数年前の光景を思い出させた。初めて脳梗塞で倒れたときも同じくここに入院した。あのとき紗良はまだ学生で、ICUで作業する医療者の声と無機質な機械音を聞きながら母の様子を伺っていた。これからどうなるのだろうと思いつつも、その時は姉がいたために姉に頼りっきりだったと今さらながらに思い出す。一人で抱えるのはつらい。すぐに不安や重圧で押しつぶされそうになる。けれどすぐに脳裏に浮かぶ顔――。杏介の存在は絶対的で紗良は幾重にも助けられていた。今朝だって誰かに縋りたくて無意識に杏介に電話をかけていたくらいだ。それほどまでに紗良の中で杏介に対する信頼感は大きいことに気づかされる。今こうして一人でテキパキと手続きをこなすことができるのも、杏介が海斗を見ていてくれるから。杏介が紗良を気遣ってくれるからに他ならない。いつだって紗良に優しく、いつだって紗良の味方でいてくれる杏介。(もしもまだ、杏介さんの気持ちが変わってないのなら――)変わっていないのなら自分はどうしたらいいのだろうか。どうしたいのだろうか。このままズルズルと都合の良い関係でいて貰うことの方がよっぽど失礼ではないか。いつまでもそんな関係でいてはいけないのだと、こんなときに限って実感してしまう。いや、こんなときだからこそ、だろうか。

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