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第8話

母はレンが戻ってくるのを待っている間、私が幼い頃に住んでいた部屋に入っていた。

小さく、窓もない部屋―物置小屋だった。

母が埃と雑物でいっぱいのその部屋のドアを押し開けるのを見て、胸が締めつけられるような思いがした。でも、魂となった私はもう涙を流すことはできない。

母は何年もこの部屋に入っていなかった。見慣れないその部屋を見渡し、かつての記憶の扉がふいに開いたかのようだった。

母はゆっくりとベッドのそばに腰掛けた。手が何かに触れたようだった。

それは、私の日記帳だった。

「おばあちゃんが言っていた。『お母さんが私を育ててくれなかったら、もう死んでいたのだから、これからは絶対にお母さんを大切にしなさい』って。だから私は、お母さんを怒らせたりしないって決めた」

「今日は5歳の誕生日。お母さんが弟を産んでくれた。ふわふわで、とってもかわいい。これからはずっと弟を大切にしよう」

「弟が小学生になったけど、いつも悪い子たちとつるんでいるし、いじめられることも多い。私が守ってあげなくちゃ」

「弟は私のことが好きじゃないみたい。いつもお母さんに嘘をついて、私の悪口を言う。でも、彼は私の弟だから、怒らないようにしよう」

「......」

日記の内容を読み進めるうちに、母はついに崩れ落ちた。

彼女は自分の体を抱きしめるようにし、地面に膝をつき、声をあげて泣いた。

「アヤメ......ごめんなさい、お母さんが悪かった!

どうして、こんなことを一度も教えてくれなかったの?」

母さん、私は一度はあなたに伝えたかった。でも、私は感謝を忘れなかった。

弟が生まれるまでの五年間、私は母の愛情を受けて育った。あなたが私にくれたその一瞬一瞬の愛情は、その後のすべての厳しい言葉を帳消しにするほどに大切なものだった。

私はあなたを愛しているよ、母さん。

レンが驚いたように声を上げた。

「......何の話?日記って?」

母は日記の内容をひとつひとつ暗唱し始めた。

ひとつ読み上げるごとに、レンの顔色が少しずつ変わっていった。

最後には、彼の顔から従順さや恐怖の表情は完全に消え失せていた。

「なんだよ、あの尻軽で忌々しい奴、日記なんて残してたのか?

どうしてアイツ、全部消えちまわなかったんだ?」

「なんで、こんな息子を産んでしまったんだろう?」母はレンに向け
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