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第3話

それから半月後。

母はまたしてもレンを連れてやって来た。ついに狂気に駆られた母は、本当に祖母を追い出してしまったのだ。

「恨まないでよ。あの子、あんたにはとても孝行だったんでしょう?あんたに何かあれば、絶対に姿を現すはずだから」

レンはわざとらしく母の腕を引っ張って見せた。

「お母さん、おばあちゃんももう歳なんだし、これ以上無理させないで。

お姉ちゃんはきっと、僕があなたの愛情を奪ったことに怒ってるんだよ。それでわざと出てこないんだ」

レンは片方の目を覆いながら言った。「でも、僕にはまだ片方の目が見えるから、大丈夫」

母は急いでレンを抱きしめた。「レン、大丈夫よ。お母さんが必ずあの忌々しい子を見つけ出すから。

レンをこんな目に遭わせたあの子には、ただじゃ済まさないわ」

母は冷たい目で祖母を睨みつけて言った。「もし、外で飢え死にしたくなければ、さっさとアヤメを見つけなさい。

もう病院には話をつけてあるから、あの子さえ見つかればすぐに手術を受けられるの」

本を読むのが好きな祖母は、母に軽蔑の笑みを向けて言った。

「臓器売買は違法だよ。それに私を放り出すことも法律違反だ。どうしてもやりたいなら、やってみなさい。

私は絶対にここを出ない。ここを出てしまったら、アヤメの魂が私を見つけられず、困ってしまうから」

心臓がギュッと締めつけられるような痛みを感じた。

もしかして、祖母は私の存在を感じ取ってくれているの......?

母は冷たく脅しつける。「あたしの性格、よく知ってるでしょう。試しにやってみる?」

祖母は体を震わせて怒りをこらえながら言った。「あの子はもうこの世にはいないんだよ。どうして信じてくれないの?

確かに血はつながってないけれど、アヤメはあんたを実の母親だと思っていたんだよ。それなのに、どうしてあんなひどい仕打ちをするんだい?」

母の目は憎しみでいっぱいだった。

「だってあの子が、父を死なせたのよ。そして、レンの目まで奪ったのよ」

「でも、あれは事故だったじゃないか。誰もそんなことは望んでなかった」

祖母が言いかけると、レンがすかさず会話に割り込んだ。

「おばあちゃん、僕のことで争わないでよ。

僕は、お姉ちゃんが僕を置いて逃げたことなんて恨んでないよ。ただ、あなたの愛情を僕に取られるのが怖かったんだと思うんだ」

そう言って、彼は右手をゆっくり下ろした。

その下から赤くただれた右目があらわになった―かつての事故で傷ついた目。

この目こそが、母に私の「罪」を思い出させる象徴となっていた。

母はこの「演技」にめっぽう弱かった。

それを聞いた母は、ますます優しい声でレンを慰める。

「本当に、やっぱり実の子が一番だね。拾ってきた子なんて、やっぱり裏切り者でしかなかった。

たとえ地の底まで掘り返してでも、あの子を見つけ出すわ」

私は空中に漂いながら、母の歪んだ顔を見下ろしていた。胸が重く締めつけられるようで、息苦しかった。

母は本当に、私を見つけられないのだ。

遺体提供の手続きが終わっている以上、すべての情報は厳重に保護されている。私自身も、自分がどの大学やどの病院で解剖用の遺体となったのか、知らないままだ。

祖母が私の遺体提供の同意書を取り出して見せると、母はそれを見もせずに破り捨てた。

「そんなインチキな紙切れで私を騙すつもり?何考えてるの?

あの子はもともと自己中で、レンにお菓子一つあげるのも惜しんでたじゃない。そんな子が遺体を提供するなんて、ありえないでしょ」

祖母はかがみこんで、地面に散らばった破れた紙の欠片を拾い集めた。震える唇から、私の幼い頃の愛称をかすかに呼ぶ声が漏れていた。

「アヤメ......怖がらないでね。おばあちゃんがすぐに迎えに行くから」

私は、祖母に来てほしくなんかない。

でも母は違ったようで、彼女は床に散らばった紙片を踏みつけながら叫んだ。

「で、アヤメは一体どこにいるわけ?」

すると祖母が突如として怒りを爆発させ、母の顔に向かって死亡証明書を投げつけた。

「自分でよく見な!公的な印も押してある!

目が節穴になったの?こんなものを誰が偽造できるっていうんだ!」

母は突然の怒号に呆然とし、手にした死亡証明書をじっと見つめていた。

そこには、はっきりと私の死が記されている。

「これにより、黒城アヤメ、女、二十五歳は、2010年7月7日に死亡。生前は三年間にわたり残酷な虐待を受け、生殖器に深刻な損傷、身体の複数箇所に負傷あり......」

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