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第440話

彼は母親が利益のためにこんなにも冷酷な行動を取るとは、夢にも思わなかった。

「僕は彼女の子供を奪わないよ、母さん。これからは桃や彼女の周りの人たちに、もう何もしないでくれ。もしまた同じことが起きたら、母さんを国外に戻すしかない」

雅彦はそう言い終えると、電話を切った。

美穂は怒りに燃え、携帯電話を床に叩きつけ、響き渡る大きな音がした。

彼女は、一向に孝行してきた雅彦が、あの女とその間にできた私生児のために、こんなにも頑固になり、さらには自分を国外に追い出すと脅すほどになるとは思ってもみなかった。

この桃という女、やはり災いをもたらす存在だった。もし本当に彼女が正妻の座に就いたら、雅彦は母親である自分さえも捨てるかもしれない。

電話を切った後、雅彦は疲れ果てたようにため息をついた。

彼はまさか美穂が自分の行いを暴かれた後も、少しも罪悪感を抱かず、病気の翔吾を取り戻そうと考えるとは思ってもいなかった。

もし桃がこのことを知ったら、彼女は二度と雅彦に会いたいとは思わないだろう。

そう考えている時、検査室から医師が出てきた。雅彦はすぐに立ち上がった。「結果はどうでしたか?」

医師は頷き、「検査の結果、骨髄は適合しました。治療の詳細については、相手の体調次第ですね」

適合したという知らせを聞いて、雅彦のずっと重苦しかった表情が一瞬だけ和らいだ。

少なくとも、彼は翔吾のために何かできた。

雅彦は感謝の言葉を述べて、医師から適合の報告書を受け取って、桃の病室へと急いだ。

その時、桃は翔吾と電話をしていた。翔吾は目を覚ましてママがいないことに寂しくなり、すぐに電話をかけてきたのだ。

桃も翔吾に会いたい気持ちはあったが、顔にまだ傷が残っていて心配をかけたくなかったため、カメラをつけずに音声通話だけにした。

しばらくして、翔吾がまた疲れてしまい、電話を佐和が受け取った。

「桃、そっちは大丈夫か?」

桃が帰国してから数日が経っていたが、彼女はあまり連絡をしてこなかったため、佐和は事情を察していた。恐らく、思ったよりもうまくいっていないのだろうと。

「私は大丈夫よ、心配しないで」

桃は元々心配をかけるのが嫌いで、いつも通り明るい声で佐和を安心させようとした。

「桃、どんな状況であれ、僕が翔吾の世話をするからな。もしそっちがうまくいかなければ帰ってこ
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