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第25話

 日向桃はそれを聞いて、心の中で冷笑することをやめられなかった。

 あの日の男は正真正銘の菊池雅彦だ。自分の夫と一緒に出掛けるのはどう見ても浮気にはならないだろう。

 「ああ、あの日の男性ね。わかったわ。教えてあげるわ。彼は…」

 男の正体を言おうとしたが、突然、菊池雅彦との約束を思い出した。。

 菊池雅彦が意識回復したことは菊池家以外の人に知られてはいけなかった。もし言ってしまったら、菊池雅彦の計画に影響を及ぼすことになり、結果がどうなるか考えるだけでも恐ろしかった。

 そう考えると、彼女は口に出そうとした言葉を飲み込んだ。

 それを見て、小林夢は日向桃を「早く言ってよ。その男は誰なの?」と急かした。

 日向桃は歯を食いしばりながら、「菊池家の人だ。名前は言えないけど」と言った。

 「菊池家の人なら、何で言えないの?」

 日向明の厳しい質問に対して、言うか言わないか窮地に追い込まれた日向桃は、黙るしかなかった。

 一言も発しない日向桃を見て、きっと何かを隠していると日向明は感じた。

 娘のやったことが日向家を危地に陥れるかもしれないと考えると、彼は怒りを爆発させた。「どうした?情夫のことをまだ言いたくないのか?言っておくが、その男のことを言わない限り、ここから離れることはできないぞ!」

 言い終わると、日向明は手招きして、「地下室に連れて行って、そこに白状するまで閉じ込めろ!」と指示した。

 日向桃はその言葉を聞いて、すぐに逃げ出そうとした。しかし、さっき傷つけられたせいで頭がクラクラしていたうえに、追いかけてきたのが大柄な男ばかりだったため、日向桃はまったく抵抗できず、鶏を掴むように持ち上げられ、地下室に連れて行かれた。

 ガタンと彼女は情けなく冷たいコンクリートの床に投げ出された。ドアも外から施錠されてしまった。

 地下室が一瞬にして闇に包まれた。冷たい空気がじわじわと広がり、人を震え上がらせた。

 日向桃は力を入れてドアを叩きながら、「この最低野郎、出してよ!これは違法拘禁よ!」と叫んだ。

 しかし、外からは遠ざかる足音しか聞こえなかった。彼女の言葉を気に留める者はいなかった。

 しばらく扉を叩いてみたが、誰も相手にしてくれなかったため、日向桃は静かになった。

 この地下室には日向明が海外から買ってきた高級な赤ワインが多
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