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第127話

雅彦が桃の名前を口にした瞬間、月は全てを理解した。

あの女が何かを嗅ぎつけて、雅彦に告げ口したに違いない。結局、離婚の話は嘘だったのだ!

「知ってるわ。私たちは同級生で、仲も良かったの。一緒にコーヒーを飲んだり、何度か会ったりしていたわ」

雅彦が何かを調査したと感じた月は、桃との関係を隠さずに認めた。

「私たちのことを、彼女に話したことがある?」雅彦は目を細め、鋭い眼差しで月を見つめた。

「話したわ。親戚や友人にも話したけど、その中に彼女もいたわ」

月の言葉は雅彦の疑いを招かなかった。

昨日、月が泣きながら自分たちの関係を多くの人に話したと言ったのだから、その中に桃が含まれていても不思議ではなかった。

「分かった。ここでゆっくり休むといい」

雅彦は事情を把握し、もうここに留まる興味を失った。月が引き止めようと近づいたが、雅彦は冷たい視線を彼女に向け、その表情は、彼女がもう一言でも言えば命を奪うようなものだった。

月は驚いて立ちすくんだ。雅彦が反悔して結婚の約束を果たさなくても、今まで彼の態度は丁寧で優しかった。

しかし、今日は初めて雅彦の完全に鋭い姿を見て、彼女は圧迫感を感じた。

月はこれ以上の行動を恐れ、雅彦が去るのを見送ってからベッドに倒れ込んだ。

どうあれ、あの日の秘密は守らなければならない。雅彦に嘘をついたことがバレれば、彼は必ず自分を殺すだろう。

そして、桃に対する怒りが沸き上がった。あの女が言っていたことは嘘で、今になって雅彦を奪おうとしている。なんて偽善者だ!

月はシーツを握りしめた。自分が雅彦を手に入れられないなら、桃も絶対に彼を得ることは許さない。

雅彦は車を走らせ、目的もなく道路を進んだ。

病室で聞いた話や月の証言が示しているのは、あの子供が佐和のものだった。

桃は結局、自分を騙していたのだ。

理由は簡単だ。彼女は佐和の子供を諦めきれなかったのだ。

雅彦は、桃が親子鑑定を要求してきた頑固な姿を思い出し、皮肉な笑みを浮かべた。

彼は以前、桃の演技力がこれほど高いとは思ってもみなかった。彼女は嘘を真実のように語り、彼さえも一瞬信じてしまうほどだった。

もしその子供が本当に自分のものだったら。

雅彦は手を伸ばし、目を覆った。もしその子供が自分の子供だったなら、彼はこんなに悩むことはなかっただろう。

佐和は
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