第114話

武田は彼が真顔で嘘をついているのを見て、反論できなかった。

長年の付き合いで、武田は彼がセーターを着たのを一度も見たことがない。

とはいえ、三千院とわこが編んだセーターは、市販のセーターとはやはり意味が違った。

「奏、おばさんから電話があって、君の甥が退院したから、今夜実家に帰ってご飯を食べて欲しいって」と武田が言った。

常盤奏は「直接俺に言えばいいのに」と返した。

武田は「おばさんは、前に君を怒らせたことがあったのかな？話すとき、ちょっと気を使ってる感じだった。奏、おばさんに腹を立てることないよ。この世で子供を一番大事にしてくれるのは母親だけなんだから……」と言った。

常盤奏は「お願いだから、もうやめてくれ」と言った。

武田は大笑いした。「三千院とわこを一緒に連れて行くのはどう？」

常盤奏は少し考えた。「お前は彼女がセーターを編むのに忙しいと言ってたじゃないか？」

「そうだね！あと一週間、彼女のセーターがどうなっているか知らないけどね」

……

夜。

常盤奏は実家に戻った。

常盤夫人はとても喜んでいたが、他の人たちの顔にはどこか緊張が見て取れた。

常盤奏の冷たい視線は三千院はるかに向けられた。

彼は、この家族の集まりに彼女がいるとは思っていなかった。

「奏、彼女は三千院とわこの妹、三千院はるかよ…本当は彼女のことがあまり好きではなかったんだけど、弥が怪我をしている間、ずっと彼女が世話をしてくれてね…」と常盤夫人は彼が三千院はるかを見ているのに気付き、紹介してくれた。

三千院はるかは彼の視線に怯え、勇気を振り絞って挨拶した。「おじ様、はるかと呼んでください。私は三千院とわこの妹です。今日はお姉ちゃんも一緒に来るかと思ってました！」

常盤奏は彼女には何も返さず、視線を常盤弥に移した。

常盤弥は顔色が悪く、意気消沈していた。入院中の期間は彼の人生の中で最も苦しい時期だった。

「おじ様、僕はとわこと半年前に別れました。彼女は僕とはるかが一緒にいるのを見つけて俺を恨むようになったんです。だから、彼女がおじ様の側にいるのは僕のせいではありません」常盤弥は必死に弁解した。

常盤奏の薄い唇が動いた。「分かっている」少し間をおいて、「お前にそんな力があるとは思えない」と続けた。

三千院とわこの性格は独特で、誰も彼女を縛り付けることはできない