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第505話

Penulis: 夏目八月
将軍家。

今夜、廊下の灯火は一つだけが灯され、前庭には琉璃のランプシェードを被せた二つの灯りが輝いていた。このランプシェードは、かつてさくらが離縁の際に置き忘れていったものだった。

脇の間は灯りもなく、真っ暗で、蚊が羽音を立てて飛び回っていた。

金鳳屋の丁稚はまだ帰れずにいた。正院の脇の間で待たされ、落ち着かない様子だった。誰もお茶も出さず、灯りもつけず、夜明けから日が暮れるまで待たされている。

彼は藩札を受け取りに来たのだが、将軍家に入るとこの部屋に案内され、その後、正殿から激しい口論と心を引き裂くような泣き声が聞こえてきた。

半時刻ほど騒ぎが続いた後、ようやく静かになった。誰かが入ってきて「待っていてください」と一言告げただけで、それ以来誰も現れない。

彼は武芸の心得があったため、この数年間、金鳳屋では客が十分な藩札を持っていない時は、彼が客の屋敷や銭鋪まで同行して藩札を受け取る役目を任されていた。

待たされることもあったが、最も長くても線香一本分の時間程度だった。それも、屋敷が広大で、主人が客好きで、上等なお茶と点心を出してくれ、それを食べ終わるまでの時間だった。

たいていは、少し腰を下ろすと、すぐに藩札が用意された。

座れば必ず召使いがお茶を出してくれたものだ。将軍家のように、日が暮れてもお茶も出さず、灯りもつけないようなことは初めてだった。

まるで盗賊の巣に迷い込んだような気分だった。

召使いに尋ねても、ただ待つように言われるだけ。しかし髪飾りは既に渡してしまっている以上、待つしかなかった。

三万六千八百両、必ず回収しなければならない。

北條涼子は夕食と入浴を済ませてから母親を訪ねた。彼女は入浴時に香水を使い、体中が香り立っていた。

この香水は以前、儀姫からもらったもので、一瓶十両もする代物だという。香りだけでなく、肌を白く透明感のある美しさに整えてくれるそうだ。

「まだ戻ってこないのかしら?」北條老夫人は薬を飲んでから、外を見やりながら尋ねた。

「老夫人様、夕美奥様はまだお戻りではございません」お緑が答えた。

「実家に藩札を取りに行っただけじゃないの?」涼子は唇を歪めた。「どうしてこんなに時間がかかるの?もしかして、持って帰れないんじゃない?」

「彼女が買うと言い出したことよ」北條老夫人は無表情で言った。

実は彼女の
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    実を言えば、玄武はさくらの語る師匠の姿に少し違和感を覚えていた。彼の記憶の中の師匠は分別があり、過度に厳しくもなければ、過度に甘くもない。ただ、弟子たちのためになることは必ず考えていて、どこか弟子びいきなところがある人物だった。さくらの言う師叔――つまり彼の師匠は、気分屋で些細なことで罰を与え、皆が恐れる存在として描かれていた。佐藤大将は二人を見比べた。「面白い?つまらない?どちらなんだ?」さくらは不満げに続けた。「師弟は師叔様の直弟子ですから。師叔様に可愛がられて当然、面白く感じるのでしょう。でも師叔様が優しくするのは彼だけで、私たちには重い罰ばかり。大師兄のような落ち着いた人でさえ、師叔様の目には軽薄に映るんですから」佐藤大将は驚きの声を上げた。「まさか、お前たちは同門だったのか?」「はい。でも彼は私の後輩です。入門は私の方が早かったんです」さくらは訂正した。佐藤大将は冗談めかして尋ねた。「では、この後輩殿は先輩をどう扱っているのかな?」さくらの頬が薔薇色に染まった。「とても、よくしてくれます」佐藤大将は玄武を見つめた。時として男は多くを語る必要がない。その眼差しだけで、相手への想いの深さは分かるものだ。以前、関ヶ原にいた頃、佐藤大将は密かに心配していた。どう言っても再婚の身である以上、北冥親王はさくらのことを蔑ろにするのではないか、と。実のところ、北冥親王がさくらを娶った真意が掴めずにいた。そこに何か策略が隠されているのではないかと。その後の文通でも、二人の仲については殆ど触れられず、専ら鹿背田城の事ばかり。ますます理解に苦しんだ。親王の身分と、あれほどの武功があれば、望む令嬢は幾らでもいたはず。確かに、天皇は彼の軍功を警戒し、名家との縁組みを喜ばないかもしれない。それでも、選択肢は余りにも多かったはずだ。愛情かもしれないとも考えた。だが、それは単なる推測に留めておいた。もしそう信じ切ってしまえば、警戒心を失い、結果としてさくらを危険に晒すことになりかねない。しかし今、彼には分かった。男が心に秘める女性への想い。それは上原洋平が妻の鳳子を見つめる眼差しや、我が息子たちが妻を見る表情と、まったく同じものだった。彼は引き続きさくらの話に耳を傾けた。実のところ、梅月山での出来事の多くは既に知っていた。菅原陽

  • 桜華、戦場に舞う   第921話

    佐藤大将は孫娘のか細い肩を見つめながら、胸が締め付けられる思いであった。これほどの苦難を味わってきた彼女に、今度は自分の祖父である己のために奔走させ、一族の悲劇を取引の材料として使わせるなど、どうして忍びようか。玄武が静かに口を開いた。「外祖父様、さくらの申す通りでございます。これら一連の出来事は切り離して考えることなどできません。また、これはただ外祖父様のためだけではなく、両国の戦争回避のための努力でもあるのです」個別に扱えば、確かに平安京は認めるだろう。謝罪と賠償さえ行うかもしれない。だが、それは交渉における重要な切り札を失うことに等しかった。佐藤大将にもその理屈は分かっていた。しかし、さくらにとってはあまりにも残酷な話であった。言葉を続ける気力が失せた。祖父と孫が向かい合って座っているというのに、家族の話はできず、国事は心が痛み、もはや語るべき言葉が見つからなかった。せっかくの再会なのに、このまま別れるのも惜しかった。玄武は最も安全な話題を見つけ出した。「さくら、梅月山での出来事を外祖父様にお話ししてはいかがでしょう?きっとご興味をお持ちになるはずです」と、柔らかな微笑みを浮かべながら言った。佐藤大将の目が急に輝きを帯びた。「そうだ、お前は梅月山で菅原様を師と仰いだそうだな。じいも二度ほどお会いしたことがある。残念ながら深い話をする機会はなかったが、どのような方なのだ?厳格な方なのか?お前の武芸がこれほど優れているということは、修行の道のりで相当の苦労があったに違いない。菅原様の厳しい指導のおかげだろう」さくらは微笑んだ。その瞬間、柔らかな笑みが眉目にこぼれる。「師匠は全然厳しくないんですよ。むしろ私たちの大師兄のような存在で、時には私たち弟子よりもいたずら好きなくらいでした。だから師叔様は師匠の振る舞いが気に入らなくて。私たちを叱るのも、実は師匠への当てつけだったんですよ」佐藤大将は目を丸くした。「いたずら好き、だと?いや、それはおかしいぞ。じいも会ったことがあるが、あの方は冷たく厳めしく、近寄りがたい印象だったはずだ。いたずら好きなどという言葉とは程遠かったが......」さくらの笑顔は一層深まった。「みんな騙されているんです。あの冷たく厳めしい態度というのは、実は人見知りなだけなんですよ。見知らぬ人と付き合

  • 桜華、戦場に舞う   第920話

    佐藤大将は玄武の意図を理解した。平安京には復讐があったのだから、因果応報といえる。もし村の殺戮の後に復讐せず、今のように使者を派遣していれば、大和国が完全な非を認めることになった。しかし彼らは既に自分たちのやり方で復讐を果たしている。佐藤大将は静かに言った。「確かに。村の殺戮だけなら、彼らの復讐で十分だった。だが忘れてはならない。降伏兵の殺害もある」降伏兵の殺害というのは表向きの言い方で、実際は一国の皇太子を徹底的に辱め、悲惨な死に追いやったのだ。平安京の皇帝も、民の仇を討つためではなかった。兄の仇を討つためだ。だから村の殺戮は帳消しにできたとしても、他国の皇太子を謀殺したことはどうなるのか?玄武は言った。「今のところ、降伏兵殺害の件は表立って議論されていません。スーランジーが以前譲歩したのも、平安京の皇太子様の面目と平安京の体面を守るためでした。今回はレイギョク長公主が使者として来られる。まだ希望はあります」さくらも続けた。「それに、以前邪馬台の戦場で、スーランジーは平安京に逃げ帰った密偵は全て処刑したと言いましたが、清湖師姉の調査によると、二人が逃亡していたそうです。師姉はずっとその二人を探していて、既に見つけ出し、今は護送中とのことです」二人が交互に話すのを聞きながら、佐藤大将は胸が痛みつつも嬉しかった。邪馬台から戻って以来、彼らは自分のために奔走し続けてきたのだろう。だからこそ、自分が都に戻って審問を受ける時も、万全の準備ができており、刑部にすら行かずに済んだのだ。どのような結果になろうとも、この佐藤邸に戻り、数日を過ごせるだけでも、この人生に悔いはない。手すりに両手を置き、二人を見つめながら、重々しい声で語った。「よく聞きなさい。この件は心を尽くせば十分だ。それ以上は望まなくていい。じいは老いた。私への処遇がどうなろうと耐えられる。だがお前たち二人の前途を台無しにするようなことは、絶対にあってはならない。さくら、残酷な言い方になるが、両国の対立において、上原家の惨事といえども、一国の皇太子を計画的に虐殺した罪には及ばない。向こうが平安京の皇太子の件を持ち出せば、我々は必ず負ける。その上、我々には民を殺戮した先の非もある」玄武は言った。「外祖父様、私たちは何度も分析を重ねてきました。仰る通りです。鹿背田城の件は私たちに

  • 桜華、戦場に舞う   第919話

    玄武より先に彼はさくらを抱き起こし、幼い頃のように頭を撫でた。少しでも不満があれば彼に訴えに来ていた、あの小さな可愛らしい娘。些細な不満も我慢できず、誰かに叱られたり何か言われたりすれば、それを覚えておいて外祖父が都に戻る時を待って告げ口するのだった。告げ口した後は彼の懐に潜り込み、表向きは不満げで従順な様子を見せながら、その眉目には得意げな笑みが溢れていたものだ。さくらの涙は数珠の糸が切れたように、大粒の雫となって頬を伝った。外祖父の荒れた指が涙を拭い、感情を抑えた声には、それでも震えが混じっていた。「今度は誰がうちのさくらちゃんを苛めたんだ?でも、もうじいが仕返しをしてやる必要はないな。お前自身で返せるようになったのだから」慈しみと誇らしさの入り混じった声に、さくらの胸はより一層締め付けられた。自分でも慌てて涙を拭った。ここに来たのは泣くためではない。外祖父に弱さを見せるためでもない。涙に濡れた目を通して見ると、外祖父は相変わらず彼女を慈しむ眼差しだったが、その老いはより一層はっきりと見て取れた。この数年、自分が経験したこと以上のものを、外祖父は経験してきたはずだ。上原家の出来事による心痛に加え、三番目の叔父の片腕、七番目の叔父の死、そして自身の矢傷による重傷。一つ一つの試練を乗り越えてなお、背筋を伸ばして立つその姿に、人々は敬服するだろうが、彼女にはただ心が痛むばかりだった。ようやく玄武が祖孙を落ち着かせ、腰を落ち着けて話ができるようになった。さくらは叔父や叔母の安否を尋ねる勇気が出なかった。その質問は外祖父に七番目の叔父のことを思い出させてしまう。言葉を選びながら、慎重に話を進めた。佐藤大将もそれを察し、自ら切り出した。「お前の三番目の叔母が数日中に都に着く。どうしても戻って来たいと言ってな。お前に会いたいそうだ」それ以上は何も言わなかった。心の奥深くに埋め込んだ苦痛を掘り起こすのを恐れてのことだった。さくらは心配そうな表情を浮かべた。「遠い道のりですのに、こんな寒い時期に。おじいさま、どうして止めなかったのですか?」佐藤大将は優しく慈愛に満ちた声で言った。「お前のことを想っているんだよ。以前は帰りたくても帰れなかったが、もう今となっては何もかも構わないと言ってな。お前と潤くんに会いに来させてやろうと思うのだ」

  • 桜華、戦場に舞う   第918話

    翌日の夜、玄武とさくらは佐藤邸を訪れた。門の外からして、勤龍衛が手を抜いていないことが分かった。扁額は掛け直され、門前は清掃され、銅の飾り鋲は一つ一つ磨き上げられて輝いていた。日中は庶民たちが訪れ、心づくしの品を届けていった。野菜や果物、鶏や魚など、みな素朴な心遣いだった。民の情は最も純粋なもので、他にできることがないなら、せめて自分たちにできることをしようという思いだった。北條守は門の前に立っていた。昼間は来る勇気がなく、夜になってようやく見張りに立つことができた。謝罪に行く決心がつくまでの心の準備だった。しかし、ずっと心の準備をしていても扉を開ける勇気が出ない。玄武とさくらが来るのを見ると、思わず後ずさり、身を隠した。この無意識の反応は、今や民衆から激しい非難を受けているからだった。街を歩けば腐った野菜を投げつけられることもある。関ヶ原での功績が、今や民衆の怒りという形で自分に返ってきているのだと分かっていた。しかし今は非難を受けても平然と受け入れることができた。もう母に説明する必要も、母の怒りに向き合う必要もない。受けるべき報いを受ければ、すべては過ぎ去るのだから。玄武とさくらは手を取り合って馬車を降りた。その繋がれた手に目を留めると、言い表せない感情が胸の内に湧き上がった。さくらは暗い雲紋に大輪の菊が刺繍された広袖の絹衣を纏い、外が黒で内側が赤い外套は夜風になびいていた。最近の彼女は官服姿で威厳に満ちていたが、今夜は女装に戻り、一層その美しさが際立っていた。わずかに赤みを帯びた目元は、まるで桃色の紅を引いたかのよう。一目見れば千年もの恋に落ちるほどの美しさだった。一瞬見ただけで素早く目を逸らした。門灯の明かりが暗く、自分が門前で見張りをしていることに気付かれないことを願った。玄武の方は見る勇気すらなかった。二人がどれほど相応しい間柄か、どれほど釣り合っているかを、見たくはなかった。彼は見なかったふりをし、玄武とさくらも当然、彼を見なかったことにした。勤龍衛が門を開け、二人は中に入っていった。佐藤大将には事前に来訪を告げていたため、夕食を済ませた後はずっと正庁で待っていた。ついに足音が聞こえ、顔を上げると、提灯の明かりに照らされた二人が手を繋いで入ってくるのが見えた。その光景を目にした途端、佐藤大将の

  • 桜華、戦場に舞う   第917話

    そうして十三歳まで右往左往し、まともな師匠に就くことができなかった。拝師の度に何かが起こり、自分が病に倒れるか、師匠に不幸が降りかかるかだった。最後には父も諦めた。このまま続けるしかない、学べるだけ学べばいいと。紫乃は話を聞き終え、複雑な思いに駆られた。この男は厄災の化身なのか?こんなに不運で、しかも師匠に祟りがあるとでも言うのか。自分は大丈夫だろうか?彼の経験からすると、問題は常に拝師の前に起きている。今回は順調に弟子入りを済ませたのだから、きっと運も向いてきて、すべて上手くいくはずだ。文之進は山田、村松、親房に正式に挨拶を済ませた。その誠実で慎み深い態度に、三人の師兄も特に厳しい態度は取らなかった。ただ、さくらが一つ尋ねた。「玄鉄衛の身でありながら、このように直接弟子入りを願い出て、玄鉄衛での出世に影響はないのですか?」文之進は慎重に答えた。「今は出世できなくとも構いません。十分な実力があれば、いずれ日の目を見る時が来ます。しかし武術を極めなければ、たとえ陛下のご信任を得ても、その任に堪えることはできません。その時になって失脚するのは、より醜いことです。若輩者ですから、じっくりと時を待つ覚悟です」さくらは軽く頷いた。彼の考えに同意していた。この粘り強さは本当に貴重だ。これほどの不運に見舞われながらも邪道に逸れなかった。玄武が彼を信じ続けた理由も、分かる気がした。彼らが去った後、棒太郎は贈り物を見つめていたが、以前のように手に取って確かめることはしなかった。年始に師門に戻った時、稼いだ銀子を全て師匠に渡したのに叱られた。たくさんの装飾品や紅白粉を買ったからだ。師匠は金遣いが荒いと言って、一席お説教をくれた。しかし翌日、姉弟子たちは皆、抗議の意を込めて紅白粉を塗って現れた。石鎖さんと篭さんは見識のある人物で、師匠に「今時の娘はみな化粧をするもの。たまには着飾らせてあげても。お正月なのですから」と進言した。師匠は口では厳しいことを言いながらも、心は優しく、「質素から贅沢は易く、贅沢から質素は難し」と一言残しただけで、もう彼女たちのことは咎めなかった。しかし下山して都に戻る前夜、師匠は彼と一時間ほど語り合った。「我らは貧しい。だがそれも長年のこと。貧しくとも気骨はいる。贈り物は頂戴したら感謝し、強請るのは無礼という

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