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第436話

いつからか、町では葉月琴音が戦場で平安京の軍に捕らえられ、辱められたという噂が広まり始めた。

邪馬台から戻ってきた後にも、同様の噂が流れたことがあった。しかしその時は羅刹国の軍に捕らえられたという話で、すぐに噂は収まった。

しかし今回は、建康侯爵夫人のところへ謝罪に行って以来、将軍家の門前に糞尿をかける者はいなくなったものの、琴音が捕虜となり辱められたという噂が急速に広まっていった。

噂は勢いを増し、わずか数日で京都全体に広がり、さらに外へと広がっていくことは間違いなかった。

北冥親王家でもこの件について話題になっていた。

さくらでさえ不思議に思った。この出来事はずいぶん昔のことなのに、なぜ今になって蒸し返され、町中の話題になっているのだろうか。軍の内部から情報が漏れたのだろうか。玄甲軍はこの件についてよく知っているはずだが、彼らは訓練されており、このような情報を外部に漏らすはずがない。

影森玄武が大理寺から帰ってきたとき、さくらは彼に尋ねた。

玄武はお茶を一口飲み、眉をひそめて言った。「この件は誰かが意図的に広めているようだ。昨日、平安京の第三皇子が皇太子に立てられたという情報が入った」

「平安京の第三皇子?」さくらは邪馬台の戦場で、第三皇子が平安京の太子の復讐のために来ていたことを思い出した。

第三皇子は琴音を深く恨んでおり、鹿背田城の民が虐殺されたことも覚えている。

これは両国が必死に隠そうとしていた事件だが、第三皇子はそうは考えないかもしれない。

「おそらく、両国の国境線で問題が起きるのは時間の問題だろう」と玄武は言った。

さくらの心は沈んだ。国境線を守っているのは、他でもない彼女の外祖父の一族だったからだ。

七番目の叔父はすでに亡く、三番目の叔父も片腕を失っていた。佐藤家の養子である八番目の叔父だけが外祖父を助けられる状態で、佐藤家の一族全員が国境の町で苦労していた。

彼女はもう長い間彼らに会っていなかった。

もし再び戦争が起これば......

さくらは想像するのも恐ろしかった。平安京の軍事力は強大で、大和国も劣ってはいないが、邪馬台での戦いで多くの兵と将を失っていた。

さらに、現在北冥軍と上原家軍は親房甲虎の指揮下にあった。親房甲虎はそこそこ有能な武将ではあるが、大規模な戦争となれば彼の手に負えないだろう。

玄武は言っ
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