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第328話

福田が涙を拭いながら近づいてきた。「お嬢様、花嫁の駕籠がもうすぐ到着します。早く化粧を直してください」

さくらは師匠たちと会えたのに、ほとんど話もできずに嫁いでいくことに名残惜しさを感じた。もじもじしながら言った。「もう一時間待てないかしら?」

「それは無理です、お嬢様。吉時に式を挙げなければなりません」

清湖がさくらの手を取った。「さあ、戻って化粧を直しましょう。大切な日に泣いてばかりじゃ格好がつかないわ。私たちは花嫁を送るために来たの。後で一緒に親王家に行くわ。北冥親王家に私たちの席も用意されているから、そこで祝宴に参加するのよ」

さくらは目を瞬かせ、涙で曇った目で尋ねた。「ということは、親王様は皆さんが来ることを知っていたの?」

「そうよ、知っていたわ。でも、あなたが知らないことは知らなかったのよ」

なるほど。そういうことなら、玄武も黙っていたわけではないのだ。

気持ちを落ち着かせ、さくらは祝福に来てくれた各宗門の宗主や弟子たちに向かって頭を下げて感謝した。

「いいから、早く支度しなさい」菅原陽雲が手を振った。何のお礼だ?これは全て自分の人脈のおかげなのだ。

さくらは「はい」と言って振り向いた。心の中で、師匠はほんとに礼儀知らずだなと思った。

化粧の最中、外で太鼓や鉦の音が鳴り響き、急いで人が報告に来た。「北冥親王の迎えの一行が到着しました。親王様が直々に迎えに来られました。親王様が直々に迎えに来られました」

師叔の皆無幹心は、このような大声での叫び声が一番我慢できなかった。「何だと?自分の嫁を迎えに来るのは当たり前だろう。何を騒いでいる?もし来なかったら、奴の耳を切り落とすところだったぞ」

門番は皆無幹心の鋭い刃物のような目つきに出くわし、すぐに黙り込み、おずおずと退いていった。

一方、親房夕美は、自分の最大のエースは北條守が直接迎えに来ることだと思っていた。親王である影森玄武にはそんな必要はないはずだと。

しかし、影森玄武が迎えの一行を率いて早めに到着したという報告を聞いた時、夕美はその場に立ちすくんでしまった。

さくらがどうして影森玄武にこれほど良くしてもらえるのだろうか?離縁した身で、前の夫を忘れられないのに、なぜこんな扱いを受けるのか?

しかし、もし上手く装えば、影森玄武にはわからないだろう。

考え込んでいる最中、外
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