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第2話

だが、今の私はお金を稼げるわけでもないし、彼らと口論する自信もなく、「嫌だ」と一言だけ返して、涙を拭いながら買い物に出かけた。

しかし、買い物から戻ると――

玄関のパスワードが変えられていて、家に入れなかった。

信之がビデオ通話をかけてきた。

「母さんは仕事もしてないし、毎日ぶらぶらしているだけだ。僕にはそんな暇ないし、時間も無駄にできない。父さんはもう役所の前にいるんだ。今すぐ行って、離婚手続きをして」

「さもないと、外で母さんが何人かとよろしくやっているって言いふらすぞ。一緒に写っている写真もあるし、みっともない思いをして、僕たちに捨てられて一人ぼっちになりたくないなら、さっさと手続きを進めるんだ」

頭に血がのぼり、視界が暗くなって、危うく倒れそうになった。

十月十日、大切に産んだ息子が、まるで何とも思っていないように通話を切り、すぐに写真を送ってきた。

写真は、私が異性と一緒に写っているもので、故意に位置をずらして撮ったものばかりで、十年も前から集められていたものだった。

いったい彼らは、いつから私をこんなふうに陥れる計画を立てていたのだろう?

怒りと悲しみに打ちひしがれながらも、役所に向かうしかなかった。

離婚申請が終わると、隆志と亜沙美はさっさとその場を後にした。

静恵が私の腕を掴んで嬉しそうに笑う。

「こうすればよかったんだよ、ね?私も兄も母さんの実の子なんだから、悪いことはしないよ。小松さんの会社はもうすぐ加賀谷グループと提携するのよ。私たちが彼女の義理の子供になったら、生活も豊かになるし、それで母さんにも親孝行できるんだから!」

胸が苦しくなり、私は腕を引き抜いた。

静恵は気にせず続ける。

「母さん、新しい相手は見つけたの?村にいるあの目の不自由な爺さんでもどうかしら?」

「私が自分で見つけるから」

「じゃあ、離婚証を受け取る日に、その人を連れてきてね。それが小松さんの条件なんだから!」

静恵はぶつぶつと話し続けるが、私はもう聞きたくなくて早足でその場を去った。

だが、自分の家はとっくに売り払ってしまい、そのお金も娘が新しい家を買うために持っていってしまった。

今や、家にも入れてもらえない。

手元には一銭もなく、今夜どこに泊まればいいかもわからない。

長年、苦労して働いてきたのに、最後には裏切られ孤立するとは…私は自分が人生に失敗したように感じて、やるせなくなった。

橋の近くまで歩き、思わず命を絶とうとしたその時――加賀谷創平が私を引き止めた。

「同じ道を歩いてきたから、人違いかと思ったけど、和美じゃないか。どうしたんだ、何かあったのか?」

十年前、彼が川に落ちたとき、私が助けて以来、彼は年中行事のように私の家に贈り物を持ってきてくれていた。

親交が深いというわけでもなかったが、胸が張り裂けそうだった私は、ここ数日間の出来事を全て話してしまった。

話し終えた後、私は嗚咽を漏らしながら言った。

「離婚を強要され、家から追い出された挙げ句、今度は新しい相手をすぐに見つけろって。どこでそんな人がいるんだと言うのよ」

これじゃ、死ねって言われているようなものだ。

創平は少し考えて、

「俺も子供たちに再婚を急かされているが、なかなか良い人が見つからなくてね。もし君が良ければ、どうだい?これからは俺の家で暮らしていけばいい」

この歳になって、もう恋愛なんて望んでいない。

ただ、住む場所があって、そばに誰かがいて、孤独死しないで済むなら、それで十分だ。

私は涙を拭い、創平と一緒に彼の家に向かった。

すると、彼の家はなんと高級別荘地にあったのだ。

「和美のことはよく知っているから、俺のことも話しておこう。僕は加賀谷グループの会長で、独り身になってから17年経つ。悪い趣味はなく、暇があれば釣りをしたり、植物を育てたりするくらいだ。それから、息子と娘がいて、君の子供たちと同年代だ。今のところはこんな感じだが、質問があればいつでも聞いてくれていい」

十年来の知り合いだったが、彼が加賀谷グループの会長だったとは知らなかった。

私のような家族ですら、私を邪魔者扱いし、私を陥れたというのに。

こんな豪門に嫁いだら、陥れ、嫌われるかもしれないかと考えると…

もうこの歳だから、ただ静かに暮らしたいだけだ。

波なんて、もう受け止めきれない。

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