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第351話

 圭介はしばらく香織をじっと見つめたが、何も言わずに背を向けて去っていった。

誠も香織を一瞥し、

彼女が善意を理解していないと感じた。

香織も一瞬戸惑った。自分の言い方がきつすぎたのだろうか?

彼女はすぐに考える間もなく追いかけ始めた。圭介と揉めたくはなかったのだ。

「香織!」文彦がやってきて、「頼んでいた手術計画、もうできたか?」

香織は一瞬迷った。

文彦が続けて言った。「患者側がもう手術に同意した。手術室が空いているかどうか、すぐに確認してくれ」

香織は去っていく圭介を見つめた。彼に説明するのは後回しにしようと思い、うなずいた。

「はい、今すぐ確認します」

ちょうど手術室が空いており、すぐに手術の手配がされた。

文彦もまた、恭平の母親を手術室に送るよう指示を出した。

香織が到着すると、恭平が彼女の腕をつかんだ。「手術を絶対に成功させてくれ」

「伊藤先生を信じてください」香織は言った。

文彦が執刀するので、

彼女も彼を信頼していた。

「その顔はどうしたの?」香織は尋ねた。

先ほどまで平気だったのに、今は青く腫れている。

「犬に噛まれたんだ」恭平は冷たく言った。

「……」香織は無言になった。

明らかに殴られたように見えるのに、どうして犬に噛まれたと言うのか?

こんな不自然な嘘をつくとは。

しかし、これを考えている時間はない。「行ってくる」香織は言って手術室に入っていった。

彼女は消毒をして手術室に入った。麻酔医がすでに患者に麻酔を注射したところだったため、患者は無意識状態にあった。

香織は手術前の準備を手伝い、

すべての機器を確認した。

手術が始まった。

しかし患者の胸部が開けられたあと、文彦の手が震え始めた。彼は怯んでいるわけではなく、特発性振戦という病気にかかっており、彼はずっと治療を受けていたが、手術中に症状が出るのはこれが初めてだった。

「主任、大丈夫ですか?」香織は心配そうに尋ねた。

「君が執刀してくれ」文彦は香織に目を向けて言った。

「私が?」

「そうだ」

「俺がそばにいるから、心配しなくていい」文彦は言った。

香織はうなずき、これは貴重な実践の機会だと感じ、冷静に言った。「全力を尽くします」

それに文彦がそばにいることで、

彼女も自信を持てた。

彼女は執刀医のポジションに立ち、冷静
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