第107話

　由美は言いたいことがあるようだったが、

何から話せばいいのか分からないようだった。

何か言いにくいことがあるようだった。

香織は辛抱強く、急かさなかった。

由美が自分のことを話すには時間が必要だと理解していた。

壁の時計がチクタクと音を立てる中、

時間はどんどん過ぎていった。

「香織……あなたも知っている通り、憲一の家は裕福で、私たちの家は全然違う。憲一のお母さんは私たちが付き合っていることを知っていて、一度私に会いに来たの」

香織は尋ねた。「彼のお母さんがあなたたちを別れさせようとしたの？まさかドラマみたいにお金を渡してきたわけじゃないでしょう？」

憲一の家庭については、香織も少し知っていた。まさに大富豪の家だった。

「何を考えてるの？」由美は元々落ち込んでいたが、香織の言葉に少しだけ気持ちが軽くなったようだった。

「お金を渡されたわけじゃないの。彼女は、憲一の妻になる人は彼を助けられる人であってほしいと言ったの。中恒グループの令嬢に目を付けていたんだけど、背景も、憲一を助けられる力も彼女が一番だと考えていたの。あなたは知らないかもしれないけど、憲一のお父さんには妾がいて、憲一には異母兄弟がいるの。その弟は松原家の相続権を狙っていて、憲一は家族の争いを嫌っている。でも、お母さんは松原家の相続権を妾に奪われるのを恐れていて、だから彼女は強力なバックグラウンドを持つ嫁が必要だったの。

「私のお父さんはただの普通の工場労働者で、お母さんは最近胃癌で亡くなったばかり。私はただの小さな法医で、憲一に何も助けることができない」

「私はこのことを憲一に話さないのは彼と彼のお母さんが私のために不愉快になるのは嫌だから。

「お母さんは憲一をとても愛しているから、彼のためにこれだけのことを考えているのだと思う。

「あなたも理解できる？」

香織はどう答えていいのか分からなかった。心が乱れていた。

このことが自分に起こったら、自分がどう選ぶか分からなかった。

由美の立場から見れば、彼女の考え方には理解できる部分もあった。

彼女の言い分にも理はあった。

ただし、二人とも愛の名義で憲一のために決断したことが、本当に彼にとって最善のことだったのか？

彼女は、憲一自身の選択が彼にとって一番いいのだと感じた。

しかし、彼女はただの局外者だった。

勝手