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第109話

 圭介はやっと恭平をしっかりと見た。

 彼がそんなに怒っているのは、絵のためだと分かった。

 ならば、もっと怒らせてやろう。

 圭介は冷淡に言った。「燃やせ」

 香織が描いた絵?ならば、それを灰にしてしまえ。

 恭平は言葉を失った。

 完全に腹が立って言葉も出なかった。

 これはあまりにも人を馬鹿にしている!

 誠は電話で指示を出し、再び恭平に退去を促した。「田中さん、どうぞお帰りください」

 恭平の胸は激しく上下し、怒りが込み上げてきた。

 しかし、その怒りをどうすることもできなかった。

 さらに彼の顔色を悪くしたのは、誠が故意かどうかは分からないが、会社を出た瞬間に、その絵が燃やされている光景を見せつけられたことだった。

 怒りだけでは彼の気持ちは表現しきれなかった。

 「誠、圭介は香織のことが好きなんじゃないか?」

 彼は圭介がなぜ怒らないのか理解できなかった。

 それなら唯一の説明は、圭介が香織を好きだということではないか?

 しかし、もし圭介が香織を好きなら、どうして彼女を窓から突き落とすのだろうか?

 恭平には全く理解できなかった。

 誠は圭介の私事を漏らすわけにはいかなかったので、ただ笑った。「社長のことは、私のような部下には分かりません」

 誠は実際には知っていたが。

 恭平は冷笑し、「どんな主人にどんな部下だ、お前もろくな人間じゃない!」

 誠は反論せず、ただ笑っていた。

 恭平は自分の絵が灰にされるのを見て、目尻が引きつった。それは縁起が悪いと思った。

絵を燃やすのは死んだ人に対するものだ。

彼を呪っているのか?

彼は車を運転して帰るつもりだったが、突然方向を変え、病院に向かった。

病院に着くと、彼は直接香織を訪ねた。

香織はその時、寝ていた。

その時間、佐藤もいなかった。

恭平はそんなことを気にせず、彼女を起こした。「香織!」

香織は起こされて目を覚まし、恭平を見て目をこすった。

「お前、俺を騙してるんじゃないか?」彼は鋭く問い詰めた。

香織はぼんやりと、「何を騙してるの?」

「お前が逃げ出したのも、圭介がお前を探しているのも、実はお前が彼に浮気してないからじゃないのか?」

香織は彼を見て言った。「彼に会ったのか?」

「当たり前じゃない?」恭平は苛立った口調で言った。

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