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第6話

男はまだ私の姿が見えぬうちに足を止め、息を呑んだ。近づく勇気もなく、ただそこに立ち尽くしていた。

サングラスの奥で冷酷だった彼の目は、瞬く間に潤んでいた。

「尾崎さん?」

和沙が彼の腕に絡みつき、優しく気遣うように疑問を呈した。

「大丈夫だ」

裕也は無表情で手を引き、距離を取った。

元夫という立場で、私に最後の別れを告げに来た。

初めて無視された和沙は、唇を引きつらせた。

まあいい、死人と争う必要はない。

どうせ、この三人の男は皆彼女のものになるのだから。

「奈々未……」

これは夢でもなく、演技でもない。

裕也の心は激しく締め付けられ、弱々しく微笑むしかなかった。

「冗談はよせ。僕が連れて帰るんだ、一緒に帰ろう」

周囲の反対を無視して、裕也は私の亡骸を抱きかかえ、重い足取りで外へ向かった。

サングラスとマスクで顔を隠していたものの、彼の姿は多くの人に気づかれ、誰かが写真を撮ってSNSに投稿し、ネット上で炎上していた。

「削除して!これはあなた達が想像しているようなことじゃないの!」

和沙は怒りで人々のスマホを叩き落とした。

裕也が結婚していたことが公に知られば、自分のキャリアにも影響が及ぶだろう。

「待った」

旭が冷たく裕也を呼び止めた。

「奈々未は俺の妹だ。お前らは既に離婚したんだ、帰るなら俺が連れて帰る」

「いや、彼女の荷物がまだうちにいる。僕は離婚なんか認めてないから。奈々未はこの先もずっと僕の妻だ」

裕也は私をしっかりと抱き、執着したようにその香りを嗅ぎながら、まるで偏執的な狂人のように囁いた。

「配偶者の一方が亡くなれば、婚姻関係は自動的に解除される」

旭は冷静に言い放ち、和沙を冷たい視線で見つめる。和沙はその視線に動揺して一歩後退した。

「他人と噂を流している時、奈々未が自分の妻だということを思ったことはあるか?彼女がお前の子供を出来ていることも知らないだろう」

「子供…?」

裕也は驚愕の表情で腕に抱かれた無機質な私の姿を見つめた。

「お前に彼女の夫になる資格はない、奈々未を俺に返せ!」

旭は説明するのも面倒だというように、強引に妹を奪い返した。

裕也は呆然と、困惑した和沙を一瞥し、ふと車内で私が言った言葉を思い出した。

「裕也、これで私たちは他人だよ」

彼を心から愛していた女は、彼の子供
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