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新婚夫に殺されかけた私
新婚夫に殺されかけた私
著者: 有栖 景

第1話

白石隼人と私は幼なじみだった。

小さい頃から、私たちはお互いのものだと知っていた。理由は単純で、私たちはお互いを最高の恋人だと思っていたから。

私は彼のために料理を作り、洗濯をし、冬には手作りの手袋やマフラーを編んだ。彼は生理痛の時に生姜湯を煮てくれて、記念日には必ずプレゼントを用意してくれた。どんな時も、細やかな気遣いを忘れなかった。

大学では二人とも美術を専攻した。隼人は油絵を、私は鉛筆画を。私たちには共通の夢があった。ピカソやゴッホのような世界的な画家になることだ。順調な恋愛関係を続け、法定結婚年齢になったら結婚しようと約束していた。

しかし、ある交通事故が全てを変えた。その事故で、隼人は右手を失ってしまった。

私の記憶に焼き付いているのは、彼の腕を車が何度も轢いていく光景だった。まるで閻魔様が天才から筆を奪うかのように。あの日以来、隼人は別人のように変わってしまった。無口になり、すぐに癇癪を起こすようになった。時には私に手を上げることさえあった。

それでも彼は左手で絵を描き続けた。

全ては私のせいだった。あの日、私が誕生日だからってタピオカミルクティーを飲みに行こうと言い張らなければ。六時前に外出させなければ。この悲劇は起きなかったはずだ。

時々、彼は虚空を見つめながら、ふと私に問いかけてきた。「僕の人生、もう終わりなのかな」

そんな時、私は涙を流しながら彼を抱きしめ、答えるのだった。「あなたがいなくなったら、私の方が終わってしまう。約束して。生きていて。私はずっとそばにいるから」

隼人の様子がおかしいと感じることも増えていった。描く絵の色彩が徐々に暗くなっていったこと。テーブルの果物を睨みつけ、まるで視線で突き刺そうとするかのように動かなくなること。真夜中に突然目を覚まし、ベランダに出ては下を見つめ、何事もなかったかのように戻ってくること。

でも、私には全て理解できた。私にしか理解できないはずだった。だって、私たち、結婚するのだから。

私が学術論文を発表した夜、彼はプロポーズしてくれた。

二人とも地元を離れていたこと、そして彼の腕の障害もあり、結婚式は挙げなかった。両親にも知らせずに、小さなアパートで、私はウェディングドレスを纏い、少女時代から愛してきた彼の花嫁となった。

しかし、花束の中から取り出されたのは指輪ではなく、鋭い果物ナイフだった。刃が私の腕を裂き、皮膚が大きく裂けた。

彼の口からは同じ言葉が何度も繰り返された。「なぜ運命は僕をこんなに不公平に扱うんだ。なぜだ?」

幼い頃から夢見ていた新婚初夜は、血の海の中で二時間も過ぎていった。全身に百六十箇所以上の傷。でも一つも致命傷にはならない場所ばかり。

私が命乞いをしても、彼はただこう言った。「君は僕のそばにいつまでもいるって言ったじゃないか。最愛の奥さん」

隼人がトイレに行った隙に逃げ出そうとしたが、見つかってしまった。彼はナイフを手に、私をベランダへと追い詰めた。リビングから長い血痕が引かれていく。

月明かりの下で、彼は私の右手を見つめた。まるで飢えた野獣のように。そして、ついに私を刺した。鋭い刃が心臓を貫く。彼は私を二十階から突き落とした。その時、私は彼の目尻に光る涙を見た。

「さようなら、僕の完璧な恋人」

彼はそう告げた。

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