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第805話

Author: 楽恩
「......」

......

河崎来依が神崎吉木と一緒に大阪を離れることに決めたのは、神崎吉木を信頼しているからではない。

むしろ、麗景マンションに住んでいても、菊池海人と会う可能性があると感じたからだ。

服部鷹は菊池海人を完全に止めることはないだろう。

彼はいつも傍観者のように、

時々こちらを助けて、そして向こうも助けている。

南を上手に慰めて、徹底的に助けることはしない。

だから、少し離れていた方がいいと感じた。

もちろん、神崎吉木と一緒に彼の故郷に行く理由はもう一つある。

彼女はあの夜の真実を知りたかった。

菊池海人が調査するのを待つことはできるが、時間は予測できない。

彼女は神崎吉木が話したいと思っているのを感じ取った。

ただ、少し躊躇しているようだった。

故郷に着いたら、彼にうまく言葉を引き出そうと考えている。

......

長崎は風光明媚で、非常に快適な都市だ。

神崎吉木が故郷に帰ったのは、彼の祖母の病が進行し、もう治療できないからだ。

祖母は故郷で最後の時を過ごしたいと願っていた。

また、彼が撮影している映画の一部がちょうど長崎で撮影されていることも理由だ。

大阪はもうすぐ雪が降りそうだが、長崎はまだ温暖だった。

朝晩は少し肌寒いが、昼間は太陽が出て、庭に座ると暖かく、日差しが心地よかった。

神崎おばあさんは朝早くから出かけていた。

河崎来依が起きたとき、家の中には彼女一人だけだった。

神崎吉木は撮影に行っているに違いない。

二人は、彼女をとても信頼しているようだ。

それもそうだね。この小さな庭には美しさと快適さはあるが、盗むものは何もないからだ。

「河崎さん」

神崎おばあさんがドアを開けて入ってきた。「芋ときのこを持ってきたわ。昼にきのこスープを作って、焼き芋も作るわ」

ここは田舎で、神崎おばあさんは薪で火を起こすかまどで調料理を作っている。

上では炒め物やスープを作り、下に芋を入れて焼いている。

こう焼き上がった焼き芋は、とてもおいしい。

河崎来依は自分の子供時代を思い出した。

ほとんどの場合は苦しかったが、隣の婆さんもこんな風に料理をして、焼き芋を食べさせてくれた。

だが、彼女は料理には全く才能がなかった。

火起こしは得意だったが。

「私が手伝いますわ」

神崎おばあさんは
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