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恋する十五年
恋する十五年
著者: 夏のアヒル

第1話

江城の年に一度のオークションには、父と一緒に参加した。

今日は、私にとっても、父にとっても非常に重要な日だ。

母の遺品がこのオークションに出品されているからだ。

オークションの主催者は、父の旧友であり、私たちは最前列に席を用意された。

しばらくして、母のルビーのネックレスが出品された。

「2,000万!」

私はいきなり高値をつけた。

「1億」

数秒後、誰かがその価格を数倍にも引き上げた。

その声には聞き覚えがあった。

振り返ると、驚くべきことにそれは裕也の秘書だった。

彼は私に気づいた途端、戸惑った様子で、すぐに視線をそらした。

秘書が1億もの大金を持っているはずがない。間違いなく裕也が出したものに違いない。

彼の表情を見て、私は瞬時に悟った。このネックレスが誰の為に買われるものなのか。

今、裕也が大切にしている女性、深山菫の為だと。

「あれは裕也くんの秘書じゃないか?」

父も彼に気づいた。

「彼はお前の為に入札しているのか?彼に今日来るって伝えなかったのか?」

私は首を振った。

最後に裕也が家に帰ってきたのは1ヶ月以上前。私たちは暫く連絡を取っていない。

仮に伝えたとしても、彼は気にも留めなかっただろう。

私の表情を伺った父は何かを悟ったように、顔を曇らせ、「1億2,000万」と札を上げた。

「2億」

向こうは全くためらわずに再び札を上げた。

「3億」

「6億!」

父の手は震え、再び札を上げようとしているようにも見えたが、最終的には無力に膝の上に手を下ろした。

父は小さな会社を経営していて、そんな大金は持ってない。

「バン、バン、バン」

ギャベルの音が鳴り響き、落札が決定された。

私は父と共に、母の遺品がケースに戻され、裏側に運ばれていくのをただ見つめていた。

その後のオークションには、もう身が入らなかった。

オークションが終わると同時に、私はすぐに立ち上がり、裕也の秘書の元へと向かった。

「田中さん」と私は彼を呼び止めた。

彼は一瞬足を止め、振り返った。

「なぜオークションに来たんですか?」と私は尋ねた。

心の中に、まだごく僅かな希望があった。

もしかしたら、裕也の指示ではないのかも知れない。

彼が答える前に、上階からイキイキとした女性の声が聞こえてきた。

「三好さん、彼は私の連れです」

顔を上げると、ピンクのドレスを纏った若い女性が階段を降りてきた。

彼女は流行りの可愛らしいメイクをしていて、ぽっちゃりとした顔がピンク色に染まり、小柄で、見る者に愛おしさを感じさせる。

まさに、裕也が好きなタイプだ。

彼女の為に、裕也は私との離婚を迫っている。

上階のVIPルームは、財力と権力を兼ね備えている者だけが入れる場所だ。

裕也の妻である私には無理で、深山菫は立ち入りできる。

彼女は無邪気なふりをして、私の前に立った。

「裕也さんは、私がルビーのネックレスが好きだって知ってて、でも彼は出張中で間に合わないから、代わりに秘書の田中さんに付き添わせてくれたの」

深山菫は上目遣いで、「ただ、三好さんもこのネックレスが気に入ってたとは思わなかったわ」と言った。

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