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第577話

高村はケーキをつまみながら、ちらっと清次の方を見て、目をしばたたかせた。「由佳、どうして帰らないの?まさか清次のせいじゃないよね?」

「そんなわけないでしょ?」由佳は眉を上げた。「本当に別の用事があるんだから、見てて」

「そっか」高村は半信半疑ながらも、納得したように頷いた。

彼女は由佳の表情を見上げ、少し躊躇した後、唇をかすかに噛んだ。「由佳……ひとつ聞いてもいい?」

この質問はずっと心の中で引っかかっていたが、由佳の気持ちを考えて、今まで口に出せずにいた。

「何?どうぞ」

「前に……清次のこと、すごく好きだったんじゃない?」

高村は、由佳と清次が結婚した時点で二人の関係が危機に瀕していたことを知っていた。それでも長く付き合ってきた中で、由佳が清次に対して好意を持っていたのではないかという疑念を抱いていた。

少なくとも、結婚している間は彼を愛していたはずだ。

もしそうでなければ、離婚した直後に由佳があれほど感情を失ったように見えた理由が説明できない。子供のこともあったかもしれないが……

由佳は少しの間黙り、唇を軽く閉じて笑った。「そうね」

高村は「やっぱり!」と言わんばかりの表情で、「清次のこと、長い間好きだったんでしょ?」

由佳と知り合って以来、由佳は誰かが本気で好きになったことがないように見えた。まさか、彼女たちが知り合う前に、由佳は清次への想いがあったのだろう。

「うん」由佳は頷き、手に持ったフォークの柄をいじりながら、目を伏せて静かに言った。「おかしい話だけど、私が山口家に来た時から彼のことが好きだったの」

高村は驚愕し、口を大きく開けた。まさかそんなに長い間、もう10年にもなるなんて……

「じゃあ、今も彼のこと好きなの?」

由佳は一瞬黙り、答えようとしたその時、突然ホールの入口で騒ぎが起きた。

二人の警察官がセキュリティに案内されてホールに入ってきて、パーティーの主催者である俊雄に話しかけた。

ホール内は一瞬で静まり返った。皆が警察に視線を向け、ささやき声が広がった。

この場にいるのは、虹崎市の名だたる人物ばかりだった。手が汚れている人間が少なくないため、何かのスキャンダルで警察が来たのではと不安になる者も多かった。

心当たりのある人々は、冷や汗をかきながらその場を見守っていた。

由佳はそれを見て立ち上がり、高村
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