「彼はずっと前から知ってたんだね」と、海咲は気が付いた。彼女は何も言わなかったが、健太は何もかも知っていた。川井は彼女を見て笑った。「だから、誰もが初心を保つわけじゃないから。今健太くんが居て、もう十分よ」海咲は深く考え込んだ。彼女は何に不満を持っているのか?こうやって、二人は長い間おしゃべりしてから、川井は病室から出た。健太はまだドアの傍に立ってたが、川井が出るのを見て、「彼女の気分はどう」と尋ねた。「ほんと、彼女のことばっか考えているね」川井は返答した。「良くなったよ、もう心配しなくてもいい。州平くんとの結婚について、彼女はすでに結末まで考えた。万が一運が良かったら、彼と一緒
「別に悲しくはなんだ」「それは分かってる」海咲はそう返した。「悲しいのは私の方だ。でもね、ひとつ言いたいことがある。私はまた、新しい恋を受け入れるこころの準備ができてないんだ」「何かと思ったら、こういうことか」健太は笑みを浮かべた。「あんまり僕のことを見くびるならこまる。私情を挟むことは認める。でもそれより、僕は君のことを助けたい。余計な感情さえなくても、君が僕の大事な友たちだと思ったんだ」「何のいいところもない私が?」何年も彼に気に掛けられることに、海咲は理解できない。一瞬の間があった。「そうだ」と健太は言った。海咲はまた笑い出した。健太はそのまま彼女が眠りにつくまでそばで待って
不安に陥った海咲は、服を着て紫のところに行く準備をした。しかし出る前に、ご本人がまさか無事で入っきた。「海咲ちゃん、最近あなたいつも吐きそうな様子だから、甘酸っぱい漬物を持ってきた。そしてこれ、あなたのお気に入りのフナのスープよ」「おばさん!」海咲はようやく安心して、すぐに駆け寄って紫を抱きしめた。興奮している彼女を見て、紫は手持ちのものを置いた。「どうしたの?もう大人なのに、こんな慌てる様子になって」海咲は手を放し、紫の体を細々とチェックした。「怪我はないか?誰かに石を投げられたか?」紫は彼女の手を離した。「そんなわけないでしょう?私誰だと思うってるの。私をいじめできるヤツはない
なのに彼が心配していたことはとうとう起こてしまった。結果、葉野紫だけでなく、会社にも影響を及ぼした。州平は動画を見た。角度からすると、ドアの傍からの撮影だ。誰かが意図を持って隠し撮りしたか、その場にいた誰かのどちらかだ。当時その場にいた彼たち数人は動画を撮ることはできなかったが、1人だけ見逃した。彼女らにとって、これも有利なことだ。「何とか炎上を鎮火しなければ」と州平は社長命令を出した。「損失を最小限までに抑えろう」部外者である紫は自由に慣れていたため、ネット上の問題に対応するのが難しいと思った。けどインターネットの力は強い。彼は誰にも彼女に影響を与えたくなかった。「かし
「それ本当か?情報源は信頼でるか?」夢瑶の話を聞いた彼らは、一応確認をした。「本当よ。私はここで張り込み続けるつもりだ。しかも私たちは病院前後の出口を監視している。淡路が現れると、ワンカットを撮るだけでもいいことよ」と夢瑶は彼らに言った。「じゃあ私たちもここで張り込もう。彼女らは絶対姿を現す!」彼らは淡路の情報を追うため、もう丸一日ここにいた。ここにいること自体は問題なく正しいやり方だ。けど夢瑶の手下は疑問を抱いていた。「あねご、本当にずっと待たなければいけないのですか?」夢瑶も考えていた。淡路に会える方法を。せめて姿だけ写真に収められてもいい。「じっと座って待つだけはいけない」
美音は奇妙な表情で助手を見た。「あなた……あなたは誰ですか……私の知らいない人みたいです……」「州平、彼女は誰?それに彼女らみんなはいったい……」こう言うと、みんなはびっくりさせた。困惑した助手。「美音さん、私のことを覚えていませんか?私よ、助手の円ですよ」「どいてください」美音は彼女を押しやった。「州平、私になにがあったの?どうしてあなたたちの声を聞こえないの?私は怖い。傍に居て……」州平も彼女の反応に驚いた。「聴覚障害だけじゃなく、記憶喪失にもなったのか?それはひどすぎるでしょう!ドラマじゃんないんだから」州平は彼女に寄せた。美音は州平の袖を命綱のように掴んで、彼の後ろに隠れて
美音は驚きと戸惑いの表情を浮かべ、「一体何を見逃してしまったの?どうして聞こえなくなったの?私、病気か何か?」と尋ねた。「違いますよ」と、そばにいたアシスタントが彼女を慰めた。その隣には州平が立っていて、美音の様子をじっと観察している。彼女の動作一つ一つがまるで記憶を失っているかのようで、過去とそっくりだった。しばらく見つめた後、州平は彼女にメッセージを打った。「外に多くの記者が君にインタビューしたがっているけど、出て行って答えたいか?」美音は当然ながら拒否した。「嫌だ」眠りから覚めた美音は記憶を失い、堂々とした被害者としての立場に変わっていた。動画の件については、州平はそれがア
「君が言っているのは、あの人身売買事件のことか?」「そうだ。あれは深刻な刑事事件で、当時は私が弁護を務めたんだ」と尚年が答えた。あの事件は公にはならず、裏には多くの闇が絡んでいたため、彼には強い印象が残っていた。「そう」この件について、尚年はよく知っているため、州平は彼に言った。「ちょうどその頃、美音が突然黙って国外へ出て行ったんだ」尚年は少し考えて、「偶然じゃないのか?美音はただの女の子で、あの規模の事件に関わるなんて考えにくい。もし彼女が関係していたら、周囲の人々も影響を受けることになる。つまり、彼女が単なる人物ではないことになる。州平とは長い付き合いがあるが、美音とは数え
海咲は心の中で複雑な思いを抱えながら、ソファに座っていた。しばらくして、州平が目を覚ました。予想以上に疲れていた彼は、頭が割れるように痛み、体中がばらばらに解体されたような感覚を覚えた。しかし、身を起こすと、目の前に海咲がソファに座っているのが見えた。海咲は携帯電話も手に取らず、部屋の中の大きな灯りもつけず、ただ枕元のオレンジ色のスタンドライトがほのかに光っているだけだった。州平は本能的に、海咲の様子がいつもと違うことに気づいた。「どうした?」海咲は彼の声を聞いてすぐに振り向いた。州平はオレンジ色の暖かな光に包まれていたが、海咲はその光景にどこか不安を感じた。まるで、彼が少し遠く感じ
今回、恵美は命がけで彼を救ってくれた。もう、何も感じないふりはできない――。……海咲は清墨が事件に巻き込まれ、恵美が命をかけて彼を助けたという話を聞き、心配して清墨の元へ向かおうとした。しかし、州平に止められた。「君の兄が傷ついていたら、あんなに静かにしているわけがないし、何の知らせも届かないわけがない」確かにその通りだが、問題は、海咲と恵美は、元々何かしらの関係があったわけではない。それに、清墨が無事だとしても、恵美のことを見過ごすわけにはいかない。海咲は結局、恵美の元へ向かう決心をした。しかし、そこにいたのは、清墨が恵美の傍らに守るように座っている姿だった。海咲は恵美が清墨に対し
清墨は沈黙を守った。その時、薄く引き結ばれた唇は一本の直線となり、彼の顔には陰鬱な影が落ちていた。「俺が……」「いらない」ファラオが言いかける前に、清墨は即座に言葉を遮った。彼の声は冷徹で、毅然とした響きを持っていた。「感情は人の足を引っ張るだけだ。それに……僕たちの立場では、普通の人の生活に適応することはできない」家庭を持ち、妻子に囲まれて暮らすのは、他の人にとっては何でもない普通のことだ。しかし、彼らには違う。彼らの肩には、イ族への責任が重くのしかかっており、また、立場と地位を考えれば、すでに国に誓いを立てている。自分自身の家族に時間を割くことなどできないのだ。何よりも――彼の母
その瞬間、周囲はすべて静まり返った。大柄な男は目を細め、酒が少し冷めたように感じた。「お前が清墨か?」しかし、清墨は無駄な言葉をかけることなく、いきなり最初の銃撃を放った。男は銃弾を避けることができず、怒りがこみ上げた。すぐに叫んだ。「何をぼーっとしてる!こいつを殺せ!」だが、清墨とその側近のジョーカーは身のこなしが非常に巧妙で、敵は彼らの位置すら掴むことができなかった。大柄な男は焦りを感じ、歯を食いしばりながら清墨の姿を探し続け、銃を構えて狙いを定めた。顔に一瞬の喜びが浮かび、ついにあの厄介な男を仕留める時が来たと思った。ジョーカーも緊張して瞳孔がわずか縮まっていた。危機一髪の際
そうでなければ、頼られるのは自分たちのはずであって、他人に脅されることなどあり得ないはずだ。海咲は星月の額に優しく手を当て、声を震わせながら言った。「ごめんね、星月、ママが帰ってきたよ……」「ママ、僕、怒ってない……」星月はゆっくりと言った。その目は輝いていて、一瞬、まるで星のようにきらめいていた。彼は海咲が大好きで、海咲のそばにずっといたいと思っている。海咲を責めることができるわけがなかった。そして、パパも帰ってきた。星月は手を伸ばして海咲の涙を拭った。ふっくらとした子どももいる。それに比べて星月はほっそりとしていて、手にはまるで肉がついていない。海咲はふと、州平が持っている解毒
恵美の目には、深い悲しみが滲んでいた。彼女は清墨を何年も愛してきたが、それは実らなかった。心が引き裂かれるような痛みを感じた。恵美は、清墨に自分の気持ちを伝えたことで、少しでも彼が心を動かしてくれるだろうと期待していた。しかし、彼女の考えは甘かった。清墨は、彼女に対して冷たく無関心だった。その瞳に浮かぶ冷徹さは、まるで彼女を心から排除したいかのようだった。「もし俺の言うことが聞けないなら、もう容赦しないぞ」清墨は歯を食いしばりながら、殺気を感じさせる言葉を口にした。彼は心底、恵美を嫌悪していた。彼のような冷徹な男にとって、誰かがしつこく自分を追い続けることは耐え難かった。恵美が女だ
清墨は冷たく彼女を一瞥した。「俺が君に説明する必要があるのか?」 恵美は胸が締め付けられるような痛みを感じた。清墨とは何の関係もないのだから、清墨がすべてを彼女に報告する理由はない。とても辛いが、どうすることもできなかった。恵美は彼をじっと見つめ、その目に涙をためた。「その資格がないことは分かっていますけれど……本当にあなたと一緒にいたいんです。もしそうなら、私はあなたを助けることができるんじゃないですか?」清墨と「偽装結婚」をすることができ、彼のために世間を騙すことができる。二人は一緒に過ごすことができ、長い時間を共にすれば、感情が育まれると信じていた。彼女は確信していた。時間が経
話が終わると、モスはすぐに電話を切った。電話が切れた音が州平の耳に響いた。州平はモスが確かにそのように考える人だと知っている。彼は自分の評判に影響が出ることを恐れている。州平は電話をしまい、海咲を抱きしめて言った。「戻って、この薬が本物か確かめよう」もし本物であれば、彼にはもはや毒薬に縛られることはない。そうなれば、海咲と星月を連れて京城に帰り、海咲が望む生活を共に過ごすことができるだろう。……星月の方では、彼は高熱を出し、体温は40度に達していた。この異常に、ファラオはすぐに手を打つことができず、慌てていた。ファラオは星月の体調を確認し、普通の風邪だと分かると、ようやく安堵の息を
海咲と州平は、イ族への帰路に着いていた。彼らは車を借りて、後部座席に座りながら、海咲は州平の体調をひたすら気にしていた。幸い、州平の状態はそれほど悪くはなかった。しかし、途中で突然車を止められた。州平の直感はすぐにモスに繋がった。彼は海咲を押さえつけ、低い声で言った。「俺が降りて確認してくる。もし何かあったら、君はそのまま車を走らせて前に進んで。君が思っている通りになるから。ただし、君はイ族に留まること」モスがもし本気で、国際的な論争を無視してでも彼らを捕まえようとするなら、海咲と星月が無事であればそれで十分だと州平は考えていた。だが海咲は頑固に首を振った。「あなたは、どんなことがあ