LOGIN「お二人の幸せを願ってますね」職員は手際よく手続きを済ませ、離婚の申請をあっさりと取り消してくれた。庁舎を出たとき、清の心は燃えるように熱かった。「梨花、もう一度、ハネムーンに行こう」清は彼女の腰に腕を回して言った。「今度はモルディブにしない?」「じゃあ、結婚式は?」梨花は見上げながら、柔らかく微笑んだ。ふたりの視線が交わるとき、心の中に甘い蜜がとろけていくようだった。前回の結婚式では双方の両親の反対があって、式自体は挙げたものの、どこか満たされない気持ちが残っていた。今も清の両親はまだ納得していないけれど、少なくとも梨花の父母は彼らを認めてくれた。そして彼女のお腹にはもうひと
彼が唯一気にしていたのは藤屋家の名誉だけだった。息子のことなんて、国外に放り出して放置すればいいとしか思っていなかった。彼が責任を持って孝典を見張り、二度と国内に戻れないようにするつもりだった。「いいだろう」梨花の父は頷いた。「お前だけじゃない。俺もやつを監視し続ける。もし奴が一度でも戻ってきたら、今日の合意はすべて白紙に戻す。証拠はすべて保存してある」そんなこと言われなくても、孝典の父にはわかっていた。藤屋家と土屋家の力はほぼ拮抗している。しかも土屋家は州平とも親しい関係にある。孝典の件で真正面からぶつかるなんて――正気の沙汰じゃない。孝典の問題が片付いてから、梨花はまた仕事に
交番で、梨花は再び孝典と顔を合わせた。彼は梨花と清が一緒に立っているのを目にすると、目を血走らせ、我を忘れて突進しようとしたが、警察にすぐさま取り押さえられた。それでも彼は叫び続けた。「梨花!どうして俺を裏切るんだ!?お前たち、もう離婚してるだろ!?まさか、またヨリを戻すつもりか!?どうしてそんなひどいことを俺に……」事情を知らない者が聞けば、まるで彼が一途に愛していたかのように思うかもしれない。あたかも梨花が彼を裏切ったかのように――。「ちゃんと分かってよ。私たち、ただの友達だったわ。恋人ですらなかった。あんたは一線を越えたのよ。それに、私と清はまだ離婚届を出してない。正式には離婚
梨花は何度も両親を安心させようとした。「本当に大丈夫だよ。清がちょうど来て助けてくれたの。それに、防犯スプレーも持ってたし、すごく効くの。一発で効いたよ」今もまだ、孝典は意識を取り戻していなかった。「清の様子はどうだ?」父が自ら見に行くと言い出した。梨花は両親を連れて病室に入った。清はちょうど傷の手当てを受けているところで、彼らの姿を見て、すぐに立ち上がって挨拶をした。「まずは座って、傷の処置をしっかりしてもらいなさい」梨花の父は彼を見ながら、複雑な気持ちを隠せなかった。この前の婿である清に対して、以前はずっと快く思っていなかった。特に離婚騒ぎのときなど、二度と顔も見たくないとさ
「うん」清は今や彼女が何を言ったのか気にする余裕なんてなかった。彼女の言葉なら、全部正しい。ただその通りにすればいい。梨花ファン・リーはそんな彼の様子を見て、ふと二人が熱烈に愛し合っていた頃を思い出した。あの頃、二人は付き合い始めたばかりで、清は毎日のように彼女を見つめては、ただニコニコと笑っていた。当時、彼女は彼に聞いた。「そんなに笑って、何がそんなに楽しいの?」って。彼の返事はたったひと言だった。「君がそばにいてくれるなら、何があっても幸せだよ」けれど、もう二人が会うことはないだろう。彼女のお腹の赤ちゃんには母の愛がある。祖父母の愛もある。でも、父親の愛だけが――ない。
清はもう、後ろを振り返る余裕なんてなかった。孝典の顔を前にして、心の奥底に溜まった怒りを拳に込めて叩きつけ続けた。「俺にどんなに嫌がらせをしても構わない、でもなんで梨花を傷つけるんだ?……お前、それでも男か?」男の拳は女を守るためにある。決して、女を傷つけるためのものじゃない。彼は本当なら、数日間梨花の様子を見て、孝典という男をじっくり見極めるつもりだった。もし彼が誠実な男で、梨花を幸せにできるのなら、潔く身を引くつもりだった。だが――孝典がやったことは、一体なんだ?もし自分が間に合わなかったら……梨花はきっと取り返しのつかないことになっていただろう。そう思うと、いくら殴っても殴り