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第301話

「お母さんがしばらくの間、あなたを連れてどこかへ行こうと思っているの。どこに行きたいか、教えてくれる?」

彼女はお腹が目立つようになる前に、誰も彼女を知らない場所で子供を産む計画を立てていた。

そんなことを考えていると、突然スマホの着信音が鳴り響いた。

松本若子は誰からの電話か分からず、スマホを手に取って画面を見つめた。表示されていたのは見知らぬ番号。

彼女は画面を軽くスライドして通話に応じた。「もしもし」

しかし、スマホの向こう側からは何の声も聞こえない。

「もしもし、聞こえますか?」

「どちら様ですか?」

だが相手は依然として沈黙を保っている。

プツッと一瞬で通話が切られた。

松本若子は首を傾げ、不審そうな表情を浮かべた。

もしかして間違い電話だったのだろうか?

彼女がスマホを置こうとしたその時、

また同じ番号から着信が入った。

再び通話を受けた松本若子は、「もしもし、こんにちは」と応答した。

だが、相変わらず静まり返っている。

「話さないのであれば、電話を切ってこの番号をブロックしますよ」

それでも相手は一言も発しない。

その瞬間、松本若子の背筋に寒気が走った。

なぜなら、かすかに相手の呼吸音が聞こえたからだ。普通の人の呼吸音であり、

つまり機器の故障ではなく、意図的に沈黙を貫いていることがわかった。

着信画面には発信地が表示されず、「不明」の文字だけが映っている。

松本若子は心臓が高鳴るのを感じ、即座に電話を切り、その番号をブラックリストに登録した。

いたずら電話か、それとも詐欺の一環だろうか。最近はそうした電話も多くなっており、心理戦術の一環かもしれない。

だが、やはり不安は拭えなかった。

「大丈夫よ、赤ちゃん。怖がらないで。ただの退屈な電話だから、お母さんがちゃんとブロックしたわ」

......

病院。

桜井雅子は手にしたスマホを何度も見つめ、藤沢修の番号を開いては閉じ、そして再び開き直し、ついにはイライラしてスマホを投げ出してしまった。

彼女はかつてないほどの恐怖を感じていた。修が彼女に対して嫌悪感を抱き始めているのではないかという恐怖。

もしかして、自分がもうすぐ死ぬから修は自分を見放そうとしているのでは? 彼は自分が余命わずかな人間だと思っていて、もう気にも留めていないのか?

そして、そ
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