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第4話

翌日、ついに私の頼りない兄が姿を見せた。

朝食の席で、兄は母に対してへつらうように笑顔を浮かべていた。

「依美は出産したばかりで、情緒が不安定なんだ。だからあまり気にしないでほしい」

「情緒不安定?彼女は目先の利益にしか目がないだけだ」と私は兄の言葉を遮った。「もし昨日、彼女の実家にマンションを買ってあげていたら、きっと情緒も安定したでしょうね」

兄は困った表情を浮かべ、不満そうに私を咎めた。「お前もさ、少しは彼女をなだめたらどうなんだ」

でも、矛先は私なんだから、どうやってなだめろっていうの?「もう少し控えめに怒って」とでも言えっていうの?

それじゃ、ますます情けないじゃない。

「まったく、所詮似た者同士なんだのね!」と私は席を立ち、即座に言い返した。兄が結婚した途端、まるで別人のように振る舞うなんて。

「お前、何を言っているんだ!」案の定、兄も私に怒りを向けた。

私と兄が口論し始めると、義姉はその様子を嬉しそうに見つめていた。

その時、父が箸をテーブルに叩きつけ、ガラスの上で響く音に一同が思わず身を縮めた。

父も昨日の件を知っていたのだろうが、彼は公正な人で、息子だからといって決して肩を持つことはしない。

案の定、場が静まり返ると、父は一巡して皆を見渡し、最後に兄に視線を向けて厳かに口を開いた。「兄としての自覚がないなら、妹に対する口のきき方を改めて、今すぐ謝りなさい!」

兄は私の前では偉そうにしているが、父に対しては少し畏怖の念を抱いているようだった。

しぶしぶと謝罪するものの、声は蚊の鳴くように小さい。

事が収まると思っていた矢先、義姉が椅子を勢いよく立ち上がり、母親のように兄をかばう態度を見せた。

「お義父さん、炎也は何も悪くないのに、なんで謝らなきゃいけないんですか?それに、芸子はいずれ嫁いでしまうんだから、そんなにお金をかけたところで、他人の家の得になるだけじゃないですか。私の弟を助けてあげてほしいです。せめて赤ちゃんの伯父なんですから、炎也とも将来お互い支え合えるようにしたいんです」

大学を出た人の言葉とは思えない発言に、私の常識が崩れ去るのを感じた。

兄を見ると、義姉を急いで座らせていたが、その表情には責める気持ちは一切なく、むしろ心の中で彼女を称賛しているようだった。

父はすでに兄に対して長年の不満を溜め込んでおり、会社を私に任せようとしていた。私自身、興味がないと何度も伝えたが、兄は私が家業を奪おうとしていると思い込み、敵視するようになっていた。そして今や、彼の代弁者は義姉になってしまった。

「芸子は甘やかされてるから、どうせ彼氏がいるかもしれないし、家のお金を外で遊びに使ってるんじゃないの?」

義姉は兄の手を振り払って私を睨みつけ、悪意に満ちた言葉を浴びせかけた。

彼女の顔には見下すような表情が浮かび、まるで私が彼女のお金で悪事を働いているかのような扱いを受け、息が詰まるほどの怒りが湧き上がった。

私も箸をテーブルに投げつけ、冷たい声で言い返した。「うちの家のことに口出す資格があるとでも?私はあんたの夫の妹なのよ。うちにとってよその人間に手を貸してもらう必要はないの」

私は「よその人間」という言葉を一音一音区切って発音し、義姉に自分の立場をわきまえるよう釘を刺した。

弟に異常に執着するブラコンの義姉が、自分の家族ごと私たちに寄生しようとしているなんて、正気とは思えない。それなのに兄は、私が財産を奪いに来たと勘違いしていて、私を押さえつけさえすれば安心だと思っているみたい。

突然、粥が私に向かって飛んできた。

頭が真っ白になった。彼女がまたもやお椀を投げつけてきた上、それが私の体に当たるとは。幸いにも熱くはなかったが、全身が粥でべたべたになり、不快感と惨めさでいっぱいだった。

私は反射的に義姉に向かって手を振り上げ、平手打ちを食らわせた。「正気なの!?」

私の力は決して弱くないし、家の工場で働いていたこともあり、一発で彼女の顔が横にずれ、髪が乱れた。

義姉も叫びながら飛びかかってきて、二人は取っ組み合いになった。

兄と家政婦さんが慌てて私たちを引き離し、私は全身が濡れ、義姉の白い頬には鮮やかな手の跡が残っていた。

両親は私を心配そうに見て、すぐに駆け寄って支えてくれた。

それを見た義姉は、すぐさま号泣し始め、「私の人生はなんて不幸なのかしら。みんなで私をいじめて、私はあなたたちの子供まで産んであげようとしてるのに…」と泣き喚き始めた。

彼女が赤ちゃんのことを持ち出したことで、母は少しだけ心が揺れ、「皆んなもう家族なんだから、仲良くするのよ。誰も損はしてないんだから、これで終わりにしよう」と場をなだめようとした。

まるで敵のように私を見る兄と、優柔不断な母の姿に、私は怒りが頂点に達し、テーブルの上の茶碗を全て床に叩きつけた。こうなったら、もう皆に付き合ってられない。

義姉に向かって手に取れるものを次々と投げつけ、最後にはテーブルの飾りまで投げつけた。

父は驚いて家政婦さんに私を部屋へ連れ込むように指示し、母も私を連れて行こうとした。

私の豹変ぶりに、義姉も怯え、兄の腕に抱かれたまま一言も発せず、涙も忘れたようだった。

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