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第712話

すべての人々の注意が翔太の混乱した結婚生活から、ドア口に現れた女性へと移った。蒼太と桜乃の顔色が一変した。

里美がどうしてここにいるのか?彼女が優子に近づけないように手を打っておいたはずなのに。

一体誰が里美を手助けしたのか!

血まみれの遥輝は、ようやく一矢を報いたようで、得意げな笑みを浮かべた。「兄さん、どうやら君も勝てなかったみたいだね」

峻介は眉をひそめた。この数日間、彼は背後で手を引く黒幕を追い詰めていたが、まさか彼らがこんな手まで打ってくるとは予想外だった。

優子も里美の姿を目にした以上、もう追い出しても事態を説明することはできなかった。

桜乃が先に口を開いた。「執事、お客様にお引き取り願いなさい」

鳴海執事も機転が利く人物だった。指示を受けるとすぐに動いた。「お嬢様、申し訳ありません。本日はお会いできませんので、お引き取りください」

だが、里美は当然ながら従うつもりはなく、車椅子の滑走モードを起動し、峻介に向かって突進してきた。

「峻介、あなたは私と結婚すると約束したじゃない! あなたがいなくなってから、毎日泣いてばかりだったわ。もう間違いはしないわ。これからは優子に対しても敵対しないから、昔みたいに戻りましょう。私、あなたなしでは生きていけないの」

里美がそう言った瞬間、桜乃と蒼太の顔がさらに青ざめた。

優子は失った記憶こそあれ、馬鹿ではなかった。泣いていた椿ですら、里美に視線を向けて泣きやんだ。

新たな嵐が巻き起こりつつあった。

峻介は里美の執着には一切反応せず、優子の顔を確認しようとした。

彼の錯覚かもしれなかったが、優子の顔色がひどく青白かった。彼女はただ静かに峻介を見つめ、騒ぎ立てることはなかった。

しかし、そうした冷静さが、かえって峻介を不安にさせた。

ついに、優子は二言だけを口にした。「彼女は……」

峻介は口を開けたが、何も言えなかった。今の状況では、何を言っても欺瞞になるだろう。

彼は説明することもできず、もう優子を騙すこともできなかった。

里美は優子を見つめ、憎しみを込めた目で言い放った。「あなた、私が誰か分かる?」

優子は遥輝の言葉を思い出し、ある人物が思い浮かんだ。「あなたは里美なの?」

里美は困惑した表情を見せた。優子が何か変だと感じたようだった。

「頭、大丈夫?」

本当にこの里美とい
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コメント (1)
goodnovel comment avatar
yas
拓海くんは峻介が隠してたんじゃないの? 愛情もない、めんどうもみない里美がなんで連れてこれたの?
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