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第651話

峻介は、もし祖父の口から美波の居場所が分かれば、それに越したことはないと考えていた。無駄にあちこち探し回る必要がなくなるからだ。

しかし、老紳士は眉をひそめて言った。「美波さん?そんな人は知らんよ。僕が知ってるのは君のばあさん一人だけだ。君、僕に変なことを言ってばあさんに知られたら、今夜にでも棺桶から出てきて僕を問い詰めるぞ」

「おじいさん、冗談じゃなくて、さっき優子ちゃんの手を握りながら美波さんだって言ってましたよ」

老紳士は鼻で笑い、「君、頭どうかしてるんじゃないのか?年寄りの戯言を真に受けてどうする。僕がウルトラマンを見たって言ったら、君も信じるのか?」

峻介は言葉を失った。

若い頃と比べて、祖父は性格がずいぶんと活発になっていた。峻介にとっては少し困惑するところだった。老紳士はまるで老いた子供のようだった。

すぐに老紳士は峻介を気にせず、優子の手を引き寄せた。

「前に言っただろう、霧ヶ峰市になんて戻る必要はないって。ここの方がずっといい。山も美しいし、海も見える、気候も最高だ。こんな場所でなら、子供を二人は生めるぞ」

優子は微笑みながら答えた。「そうですね。これからはここで定住して、学びながら過ごすつもりです」

「勉強はいいことだ。若いうちは学んで、年を重ねても学び続けるのが大事だ。でも、無理をしすぎるな。君、ずいぶん痩せたんじゃないか。あいつがちゃんと食べさせてないんだろう。これをばあさんが知ったら、今すぐにでも棺桶から出てきて怒鳴りつけるに違いない」

優子はその言葉から、老紳士が本当に自分を実の孫娘のように大事に思ってくれていたのを感じ取った。

「ここに住む間、何か必要なことがあればいつでも言ってくれよ。あと、あの婆さんには近づくな。あの人、頭が少しおかしいからな」

老紳士は優子の手を放し、自分の頭を指さして言った。「まあ、僕もたまにおかしくなることがあるんだけどな。この家でまともなのは、このバカ息子くらいのもんだ」

その言葉に優子はどう答えていいか分からなかった。峻介も本当にまともかどうかは怪しいところだった。

「せっかくだから、じいさんの家の中を少し見ていけよ」

「はい、おじいさん」

二人は、まるで護衛のように老紳士の両側に付き添いながら、一緒に歩いていた。老紳士は感慨深げに話し続けた。「君のばあさんが亡くなってから、
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