佑樹は肩をすくめて言った。「事実だよ。涙と鼻水が止まらないんだから」「ママのことが心配だからよ!」ゆみは抗議した。「兄さんみたいにみんなが落ち着けるわけじゃないわ。兄さん、ママのこと全然愛してないでしょ!」佑樹はゆみの頭を軽く叩いた。「僕は心の中で愛してるよ。君は表面だけだね」「うわああ!!」ゆみは怒って佑樹に飛びつき、殴り始めた。「今日こそ、臭い靴下を口に突っ込んでやる!!」晴は顔を引きつらせた。「……」彼は、二人の子供が普通の子供たちではないことは知っていた。しかし、この強靭な精神力には驚かざるを得なかった。やはり晋太郎の子供だ。帝都でこれほど強い遺伝子を持つ人間が彼以外誰がいるだろうか?!!晴はふと思いついた。晋太郎に自慢しなければ!晴は晋太郎の番号に電話をかけた。すぐに晋太郎が出たが、声には疲労が滲んでいた。「用件を言え!」晋太郎の声を聞いて、二人の子供は一瞬で静かになった。特にゆみは、耳をそばだてて聞き入っていた。晴は咳払いをした。「忙しいあなたが嫉妬するようなニュースがありますよ!」晋太郎は不機嫌に言った。「話せないなら舌を切ってやる!」「おい!無慈悲な男!佑樹とゆみがここにいる!気をつけないとメディアに売っちゃうぞ!」晴は勢いよく強迫した。二人の子供は晴に怒りの眼差しを向けた。晴は背中に冷たい汗を感じた。晋太郎は冷笑した。「死にたいならそうすればいいさ!」これを聞きゆみは心の中で歓呼した。パパ、カッコイイ!!晴は意気消沈した。「まあまあ、冗談はやめよう。彼らは安全だよ」晋太郎は黙った後、「ノアン ワイナリーへ行け」と言った。晴が反応する前に、晋太郎は電話を切った。ゆみは疑問に思った。「ノアン ワイナリーってどこですか?行かなきゃいけませんか?」晴は歯噛みしながら説明した。「ノアン ワイナリーは彼のプライベートワイナリーだよ。クソ、そこに行くのに二時間もかかるんだぜ。よく思いついたよ!」「ゆみの前ではそんな言葉を使わないで」佑樹がゆっくりと言った。「ああ、分かった、坊ちゃん。それじゃあ、しっかり座って。全速力で行くぞ!」昼過ぎ、一時近く。朔也は、帝都で最も豪華な和食と韓
社員達が笑いながら食べ始めるのを見て、入江紀美子は笑顔で竹内佳奈に言った。「今会社にいる社員達の名前を全部記録して、来ていない人達は、年明けで全員クビだ」佳奈は一瞬で分かった。社長が皆にご飯を奢ったのはそういう意味だったのか!露間朔也は疲弊した体を引きずりながら紀美子に寄ってきた。「気持ちを落ち着かせず、会社に忠を尽くさない部下を切り捨てるなんて、本当に容赦しないな」紀美子は朔也を睨みながら答えた。「厳しくしないと、足元が固まらないわ」朔也は苦しそうな表情を作って感心した。「流石は鉄腕社長さんだ!そろそろ、次はどうするつもりかを教えてくれるよな?」「その時になれば分かるわ」紀美子は答えた。朔也は歯ぎしりをしながら言った。「なんだ、俺のこと信用ゼロかよ!!この先の計画も教えてくれないなんて!」「教えても無駄よ」紀美子は朔也を押しのけながら言った。「落ち着いて自分の仕事を全うすればいいの」東恒病院にて。あの事件が起きてから、狛村静恵にも沢山の記者達から電話がかかってきた。彼女は辛抱強く、影山さんに言われた通りに回答していた。「やはりここまで人を傷つけない方がいいと思いますわ」静恵は落ち着いて言った。「彼女が一人で会社を立ち上げたのは、全てが自身の努力によるものではなくても、それなりの心血を注いだと思うわ」「狛村さんは、入江社長とあの4人の男達との関係について、どれくらいご存知ですか?」記者は電話で聞いた。「それは言えませんわ。皆女同士ですし、彼女が人に非難されるのを見たくないですから」「狛村さんは本当に優しいお方ですね。相手にあれほど虐められたのに、それ相応の反撃をしないとダメですよ」「入江社長とあの男達とのいかがわしい関係については、もうこれ以上言えませんから、本当に勘弁してください」静恵が泣きながら言った。「皆、彼女の虚偽が見ていられないから暴こうとしているんですよ。狛村さん、私達はあなたの力になりたいです」「感謝しますけど、あれはもう過ぎたことですので……」記者との通話を終えた後。静恵は携帯をベッドサイドテーブルに置いた。彼女は一粒のブドウを口に運びながら、満足した表情で森川次郎の今回の素晴らしい手際に感心した。まさか彼が紀美子
「気に入ったか?」急に、後ろのスパイラル階段の方から、森川晋太郎の声が聞こえてきた。彼はゆっくりと階段を降りてきたが、ライトに照らされた黒いスーツが薄く金色を光っており、生まれつきの貴族の気質が威厳を漂っていた。入江ゆみは晋太郎をまっすぐに見つめ、思わず声を低くして言った。「お父さんはまるで、おとぎ話の中の黒馬の王子様みたい!!」隣ではっきりと聞こえた入江佑樹は、驚きながら彼女を見て言った。「黒、黒馬の王子様??」ゆみの目は光り、しっかりと頷いて言った。「うん!だってお父さんは黒いスーツを着てるんだもん!」佑樹は急に脳裏で一つの画面が浮かんだ。顔が晋太郎のもので、首以下が黒い馬の化け物……モンスターだ……!直視できない……!晋太郎は2人の前に来た。彼がまだ口を開いていないうちに田中晴が寄ってきて、恥ずかしがり屋の人妻のような甘えた声で言った。「ああ、疲れたわ、こんなに遠い道を私一人で運転させるなんて!」晋太郎は顔色が変わり、きつい目線で晴を睨みながら、「近づくな!」と命令した。晴は悔しそうに口をへの時に曲げ、文句を言った。「薄情だ!悪役!訴えてやる!」すると晋太郎は冷たい声で言った。「酒蔵にお前が好きなペトリュスを1本取って置いた」「マジで?!取って来る!」晴ははしゃぎながら走っていった。2人の子供達は絶句した……晋太郎は優しい声で子供達に、「君たちの母親の事件が解決されるまで、安心してここに泊まっていい」と言った。ゆみは唇を舐めて、興奮した声で晋太郎に向かって言った。「この酒蔵、まるでお城のようだわ!ゆみをここの主に……痛っ!」話の途中で、佑樹はゆみの額にげんこつを入れた。ゆみは額を抑えながら兄に不満をこぼした。「お兄ちゃんがいつもゆみをイジメる!!」晋太郎は微かに指を動かし、娘の額を揉もうとした。よくも娘に手を出したな!佑樹はからかった。「主人?使用人の間違いじゃない?」そう言って、佑樹は晋太郎に、「パソコンが1台欲しい」と要求した。「分かった」晋太郎は口元に笑みを浮かべ、「ゆみは?」と聞いた。ゆみは口をすぼめて暫く考えてから、「ゆみはきれいなワンピースが着たい!」と答えた。「10着で足りるか?」晋太郎は
「それはお母さんは気にしなくていい」入江佑樹は答えた。「でもお母さんは気をつけてね」入江紀美子は背を壁に預けながら言った。「分かってるわ、もし特に用がなければ、もう会社に行かないから」佑樹は暫く黙ってから、「お母さん、僕が言っているのは、あなたが帝都から離れる前のことだ」と言った。紀美子は驚いて、顔から微かに血の気が引くのを感じながら、「佑樹くん、何か知ってるの?」と聞いた。佑樹は唇を動かし、小さな両手でキーボードを暫く叩いてから、「お母さん、これを見て」と言った。紀美子はメッセージを受信した。彼女は佑樹が送ってきた動画を開いた。暫く見ていると、紀美子は急に目を見開いた。「佑樹くん、この動画はどこから手に入れたの?」「念江くんが僕に送ってくれたんだ。ネットユーザーの情報収集の能力は侮れないね。これを反撃の武器に使うといいよ」驚きながら紀美子は頷いた。「分かった、この動画を大事に取っておくわ。もしあの事がまだ暴かれていなければ、一番役に立つタイミングでこれを出すから」佑樹は笑って言った。「お母さん、今回は必ず乗り越えられると信じてるよ」息子に肯定され、紀美子は嬉しかった。「佑樹くん、ちゃんと晴おじさんの言うことを聞くのよ」佑樹はちょっと気まずく笑いながら、手で頭を掻いた。「実は、僕達は今森川晋太郎の所にいる……」紀美子は眉を寄せ、「記者に見られなかった?」と尋ねた。「うん」佑樹はカメラを動かして紀美子に周囲の環境を見せた。「ここのセキュリティはかなり厳しいし、外にも沢山のボディーガードがいる。今のところ誰にも見られていない。ここは市内から車で2時間もかかるところだからね」紀美子は一目でそこが何処かが分かった。この前晋太郎と一緒に酒を取りに行ったノアン ワイナリーだ。彼女はほっとした。「彼がついていれば、お母さんも安心できる。この事件を片付けたら、迎えにいくから」紀美子は言った。「ところで、ゆみちゃんは?」佑樹の顔が少し曇った。「ゆみは今、多分ワンピースの試着で忙しい」紀美子は苦笑いをした。佑樹は顔を引き締め、真面目な顔で口を開いた。「お母さん、必ず乗り切ろうね」紀美子は頷いた。「分かってるわ、安心して」ビ
携帯を置いて、入江紀美子は伸びをした。外のきれいな夜景を見て、彼女は思わず笑みを浮かべた。これから、ショーが始まる!2日後。Tycのキャンセルの勢いが段々と落ち着いてきた。一部の顧客はGの名声で商品を購入したので、キャンセルしなかった。顧客への弁償を終わらせた頃、社員達はほぼ全員疲れ果てていた。竹内佳奈が事務所に入って、キャンセルの統計を紀美子に渡した。「社長、やっと落ち着いてきました」「会社のキャッシュフローはどうなってる?」「あと2100万ほど残っています」紀美子は平静に頷き、「まだ予想範囲以内だ」と言った。「社長、本当に回答しなくていいのですか?」佳奈が心配して尋ねた。「記者達がまだ下にいます」「回答しなくていい」紀美子は椅子の背もたれに背を預け、「緊急時こそ、怠ってはいけない」と言った。佳奈は紀美子の話の意味が分からなかった。「社長、あともう一件あります」「何?」「MKもここ数日、これまでない数のキャンセルが発生していて、損失はうちの倍以上です」紀美子は沈黙した。今回の事件の起因は自分だった。知らないうちにまた森川晋太郎に借りができてしまったようだ。彼女は苦笑いをした。「分かった、下がっていいわ」佳奈は紀美子の事務所を出た。ドアが閉まってから、紀美子は携帯を出して渡辺翔太に電話をかけた。すぐ、翔太が電話を出た。そして、彼の焦った声が聞こえてきた。「紀美子?」「うん」「今どうなってる?」翔太は慌てて尋ねた。「君が忙しいだろうから、ずっと電話するか躊躇していたんだ」紀美子は笑みを浮かべながら言った。「私は大丈夫よ、心配しなくていい。ところで、お兄ちゃんの会社も影響を受けたの?」「多少な。でもそこまで大きくなくて、多分晋太郎が受けた影響の方が大きい、あと悟さんも」紀美子は驚いた。「悟さんが?」「彼は職務停止を受けたようだ」「そんな、たとえ私と親しかったとしても、停職なんて重すぎるわ!」と紀美子は眉を寄せながら言った。通りであの事件が起きて以来、塚原悟からの連絡が一切なかったわけだ。彼は自分に心配をかけたくなかったのだろうか?「病院の方にも、悟さんを取材しようとして沢山の記者達が集まってい
入江紀美子は言葉が詰った。弁償なんてできるものだろうか?今の彼女は、たとえMKの損失の一部だけを補おうとしても出来ないだろう。「今、その余裕はないわ」「彼に償うことを考えたことはあるのか?」塚原悟はさらに問い詰めた。「……」正直に言うと、そう考えたことはなかった。悟に言われなかったら、その点に気づくこともなかった。二人がお互いに知りすぎたからだろうか?紀美子は黙り込んだ。「こう比較してみると分かるよ。私と晋太郎の、君の心の中での地位」悟は軽く笑いながら言った。「ごめん」今の紀美子に残っているのは申し訳ない気持ちだけだった。「謝罪などいらないさ」悟は気楽な口調で言った。「言っただろ、私は自分がそうしたいからしているだけだと」「今回の事件が落ち着いたら、ご飯を奢るわ」「もうすぐ新年だ」「うん、今年は一緒に大晦日を過ごそう」紀美子は酷く落ち込んだ。「そうしよう」悟は笑って答えた。ノアン ワイナリーにて。晋太郎は子供達と、買ってきたばかりのレゴブロックで遊んでいた。頭脳で言えば、もちろん晋太郎の方が上だ。しかし、手の器用さは子供達に劣っていた。入江ゆみは、未だにまともに一パーツも組めていない晋太郎を見て呆れた。「もう無理しなくていいよ、そのスピード、お兄ちゃんと比べ物にならないわ」ゆみは嘆いた。娘にバカにされるなんて。晋太郎は言葉を失った。彼は持っていたブロックを置いて、「残りは俺がやっておく、お前達はそろそろ寝る時間だ」と言った。「手、切れてるよ」入江佑樹は手を止めて言った。「レゴブロックは軽いから、そんなに力を入れて組まなくても」「組むならしっかりと固めないと、だめだ」晋太郎は手の中のブロックを見つめて言った。たかが子供のおもちゃだと彼はおもっていたが、まさかここまで難しいとは思わなかった。佑樹は伸びをして、晋太郎の携帯画面が灯ったのに気づいた。「携帯が鳴ってるよ」佑樹は晋太郎に注意した。晋太郎が携帯見ると、顔色が曇った。森川貞則からの電話だった。彼は2人の子供に、「先にお風呂に入ってきて」と指示しながら携帯を取った。そして、晋太郎は休憩室を出た。「なんだ?」晋太郎は電話に出た。「
森川貞則の目じりは、怒りで痙攣した。森川次郎に副社長の職位を与えたが、MKに彼の言うことを聞く人は1人もいなかった。利益か愛息子の選択を迫られた貞則は、最終的に利益を選んだ。森川家は潰れてはならん!そのようなことは絶対に許さん!翌日の朝、Tyc社にて。竹内佳奈が慌てて事務所に駆け込み、まだ寝ていた入江紀美子に報告した。「社長、大変です!」呼び覚まされた紀美子は目を揉みながら、「どうしたの?」と尋ねた。「あの人達、社長に会えないからって会社のガラスドアに塗料をかけて……酷いことを…」紀美子は驚きながら聞いた。「何を書かれた?」佳奈は言い出せず、口をすぼめて黙った。「教えて」紀美子は腰を曲げて靴を履いた。「社、社長のことを、『誰とでも寝るビッチ』と」佳奈の声が段々と低くなっていった。しかし紀美子はそれをはっきりと聞き取った。紀美子は数秒沈黙してから立ち上がり、「無視していいよ」と告げた。「社長」佳奈は紀美子を見て言った。「これ以上黙っていたら、今度は何をされるか、分かりませんよ」「これくらいの騒ぎで取り乱れてどうするの?相手はうちが理性を失うのを待っているのよ」紀美子は落ち着いた様子で佳奈に言った。彼女の携帯が鳴り出した。杉浦佳世子からの電話だった。紀美子は佳奈に、一旦外に出て落ち着かせてくるようにと指示した。「かしこまりました、社長」佳奈が出ていってから、紀美子は佳世子の電話に出た。まだ口を開いていないうちに、佳世子の声が電話から聞こえてきた。「紀美子、ボディーガードがやつらに石を投げられて怪我したわ!」佳世子は泣きながら言った。「家の玄関も、汚物が混ざった水をかけられて、今家中が酷い匂いよ」紀美子は思わず拳を握りしめながら言った。「落ち着いて話を聞いて」「うん!聞くわ!」「長くてもあと5日間だけ持ち堪えて!この5日間の間、ボディーガードに彼らを調査させ、騒ぎを起こした人達のことを全部記録させて」「わ、分かったわ!名簿を作成するわ!」「ごめんね、ありがとう」「もうこんな時でも、親友として助けてあげるのは当たり前のことよ!」佳世子は涙を拭きながら言い放った。「地獄までもついていってあげるわ」「うん、共に戦
竹内佳奈は不満げにポッドを置いて反論した。「事実ではない!私は、社長がそのような人間ではないと信じている!」「君が信じるかどうかの問題ではない」男性社員は怒って反論した。「信じるから事実になるのか?君のような秘書は、俺達アフターサービス部の大変さが分からない!社長のせいで俺達も『悪徳商人の手先』とまで言われた!なのに俺達は、礼儀正しく答えなければならない。君には分かるわけがない!」佳奈は彼を見つめ、大きな声で指摘した。「それくらいの屈辱も耐えられないのか?社長が毎日どれほどの罵声を浴びているか分かるの?」「知ったこっちゃねえ!俺は耐えられん!」男性社員は適当に髪の毛を整理してから言った。「社長は絶対に何かを隠している、このままだと、会社が潰れるのも時間の問題だろう!」「気に入らないなら出てってよ!」佳奈は本気で怒った。「社長が可哀想だわ。ここ数日、毎日あんた達に良い食事を食わせているのに、本当に恩知らずだわ!」「誰が恩知らずだと?!」「あんたよ!この恩知らずが!」佳奈は怒りを抑えきれず、男性社員の顔に平手打ちをした。「クソ、よくも俺の顔を打ったな?!」男性社員は佳奈に打ち返そうとしたが、他の社員達が慌てて彼を止めた。通りすがりの入江紀美子と露間朔也は、会議室の騒ぎを聞いて、急いで向かった。朔也がドアを押し開くと、中は激しく騒いでいた。彼は社員達を見回し、「昼休みの時間に休まずに喧嘩してどうする?!」と怒鳴った。社員の1人が朔也を見て、慌てて先ほどの状況を説明した。朔也は聞けば聞くほど顔色が曇った。彼は紀美子に、「この人達をどうするか、あなたが決めて!」と言った。紀美子は頷き、会議室に入った。彼女はゆっくりと皆の顔を見回して口を開いた。「私は、皆さんの気持ちがよく分かっている。皆さんから見れば、私はただ逃げ回っているだけ。会社も潰れそうになっているのに。ここでいくら説明しても意味がないので、辞めたい人がいれば、止めはしないわ」「俺は辞める!」男性社員が社員証を地面に叩きつけながら言った。「未来が見えないような会社には、残っても意味がない!」「わ、私も辞めるわ……」「社長、申し訳ありません、私も……」「……」社員達が次々と辞めていくのを
しかし、紀美子の子どもたちがなぜ晋太郎と一緒にいるのだろうか?もしかして、晋太郎の息子が紀美子の子どもたちと仲がいいから?紀美子は玄関に向かって歩き、紗子が龍介を見て言った。「お父さん、気分が悪いの?」龍介は笑いながら紗子の頭を撫でた。「そんなことないよ、父さんはちょっと考え事をしていただけだ。心配しなくていいよ」「分かった」玄関外。紀美子は子どもたちを連れて家に入ってくる晋太郎を見つめた。「ママ!」ゆみは速足で紀美子の元へ駆け寄り、その足にしっかりと抱きついた。「ママにべったりしないでよ」佑樹は前に出て言った。「佑樹、ゆみは女の子だから、そうやって怒っちゃだめ」念江が言った。ゆみは佑樹に向かってふん、と一声をあげた。「あなたはママに甘えられないから、嫉妬してるんでしょ!」「……」佑樹は言葉を失った。紀美子は子どもたちに微笑みかけてから、晋太郎を見て言った。「どうして急に彼らを連れてきたの?私は自分で迎えに行こうと思っていたのに」晋太郎は顔色が悪く、語気も鋭かった。「どうしてって、俺が来ちゃいけないのか?」「そんなつもりじゃないわよ、言い方がきつすぎるでしょ……」紀美子は呆れながら言った。「外は寒いから、先に中に入って!」晋太郎は三人の子どもたちに向かって言った。そして三人の子どもたちは紀美子を心配そうに見つめながら、家の中に入った。紀美子は疑問に思った。なぜ子どもたちは自分をそんなに不思議そうな目で見ているのだろう?「吉田龍介は中にいるのか?」晋太郎は紀美子を見て言った。「いるわ。どうしたの?」紀美子はうなずいた。「そんなに簡単にまだ知り合ったばかりの男を家に呼ぶのか?」晋太郎は眉をひそめた。「彼がどんな人物か知っているのか?」紀美子は晋太郎が顔色を悪くした理由がようやく分かった。「何を心配しているの?龍介が私に対して悪いことを考えているんじゃないかって心配してるの?」彼女は言った。「三日しか経ってないのに、家に招待するなんて」晋太郎の言葉には、やきもちが含まれていた。「龍介とすごく仲良いのか?」「違うわ、あなたは、私と彼に何かあるって疑っているの?晋太郎、私と彼はただのビジネスパートナーよ!」
「入江社長って本当に幸せ者だよね!羨ましい~!私はただの一般人だけど、この二人推したい!!」「吉田社長って絶対入江社長のために来たんでしょ。あんなに忙しいのに時間を作ってまで来るなんて、これって本物の愛じゃない!?」そんな無駄話で盛り上がるコメントの数々を見た晋太郎の顔色は、みるみるうちに暗くなった。「何バカなこと言ってるんだ!」晋太郎は怒りを露わにしてタブレットを放り出した。「この話題をすぐに消せ!誰かがまた報道しようとしたら、徹底的に潰す!」「晋様、入江さんの方は……」肇は焦りながら言った。晋太郎は目を細めて言った。「二人を見張らせろ!龍介が突然帝都に来たのは絶対に怪しい。会社のためじゃないなら、紀美子を狙って来たに決まってる!しかも、彼は離婚してるだろう。きっと子どものために後妻を探してるんだ!」「後妻を!?」肇は驚きの声を上げた。「入江さんの魅力ってそんなにすごいんですか……だって吉田社長ってあの地位の……」それ以上言う勇気がなくなり、肇は言葉を飲み込んだ。というのも、晋太郎の顔にはすでに冷たく怒りがはっきりと現れていたからだ。肇だけではない。晋太郎自身も、これ以上考えるのが怖くなっていた。龍介は有名な良い男で、礼儀正しくて、しかも温かみがある。こんな男が最も心を掴むのだ!彼は龍介の猛烈なアプローチを恐れているわけではない。ただ、紀美子がその優しさに押し負けてしまうのではないかと心配していた。しばらく考えた後、晋太郎は携帯を取り出し、朔也に電話をかけた。彼は龍介がなぜ帝都に来たのかを確かめたかったのだ。しばらくして、朔也が電話に出た。「また何か大事でもあるのか、森川社長?俺、今すごく忙しいんだけど」「龍介は帝都に何しに来たんだ?」晋太郎はストレートに言った。「何しに来たって、彼が帝都に来ちゃいけないっていうのか?」朔也は不満そうに言った。「もし何か理由があるとしたら、当然、Gに会いに来たんだよ!昼に俺たちと食事したんだ、いやあ、さすがに地位が高いだけあって、お前と同じくらい立派な人だったよ。性格に関してはお前よりずっといいけどな!そうそう、今夜はうちに来てくれることになったんだ!」朔也はこれを言うことで晋太郎を苛立たせ、紀美
「そんなに聞かなくていい!」紀美子は彼を遮って言った。「後でレストランのアドレスを送るから、直接きて」「分かった、分かった!」電話を切った後、紀美子は楠子のオフィスに行って、少し用事を頼んだ。その後、龍介と紗子をレストランへ誘った。帝都ホテル。最初に到着した朔也は、レストランで一番良い料理を全て注文した。紀美子と龍介はレストランに到着すると、すぐに個室に向かった。個室の中では、朔也がサービス員に酒を頼もうとしていたところ、紀美子と娘を連れた龍介が入ってきた。龍介を見た朔也は急いで立ち上がり、熱心に迎えた。「吉田社長、はじめまして!帝都へようこそ!」龍介は穏やかな笑顔を浮かべて言った。「こんにちは、朔也さん」「えっ、俺のこと知ってるんですか?」朔也は驚いて言った。「もちろん、Tycの副社長ですよね」「あんまり興奮しないでよ」紀美子は笑いながら朔也を見て言った。「興奮しないでいられるかよ!」朔也は顔に出てしまった表情を抑えきれず、「吉田社長はアジア石油界の大物だぞ!」と言った。「そんな大したことはないよ」龍介は言った。「そんな謙遜しないでくださいよ、吉田社長!お酒は飲まれますか?何を飲みます?」朔也は尋ねた。「申し訳ないけど、あまり強くないので普段からほとんど飲みません。今日は軽く食事だけでお願いします」「それならそれで!」朔也は納得し、そばでおとなしく立っている紗子に目を向けた。「こちらは吉田社長のお嬢さんですよね?本当に可愛いですね!」紗子は礼儀正しく頷き、「おじさん、こんにちは。私は吉田紗子です。紗子って呼んでください」と自己紹介した。「紗子ちゃん!」朔也は嬉しそうに笑顔で答えた。「俺は朔也だよ!よろしくね!」「立ち話はここまでにして、座って話しましょう」紀美子は言った。四人が席についた後、料理が運ばれてきた。食事中、誰も仕事の話は一切口にせず、和やかな雰囲気で過ごしていた。「吉田社長、午後はGに帝都の景色を案内してもらってください。退屈だなんて思わないでくださいね」朔也が言った。龍介は紀美子に目を向け、丁寧に「お手数をおかけします」と答えた。「そうだ、G。さっき舞桜から電話があって、今夜には帰るって。吉田
車の中で、晴は晋太郎に尋ねた。「一体、親父に何を言ったんだ?どうしてあんなにすぐに同意したんだ?」目を閉じて椅子の背に寄りかかり休んでいた晋太郎は一言だけ言い放った。「静かにしてろ」晴はそれ以上は深く追及せず、事がうまくいったことに感謝していた。家に帰ると、晴はこの朗報を佳世子に伝えた。佳世子はあまり感情を動かすことなく、だるそうに返事をした。「まあ、心配事が一つ解決したってことだね」晴は疑問を抱きながら眉をひそめた。「なんだか、あんまり嬉しそうじゃないね?」「歓声を上げろっていうの?」佳世子はため息をついた。「忘れないで、私の両親にはまだ説明してないよ」佳世子はしばらく沈んだ表情をしていた。両親がこのことを知ったらどう反応するのか、全く予測がつかないのだ。彼女の両親は性格は悪くないが、考え方は保守的だ。もし彼らが今、自分が未婚で妊娠していることを知ったら……佳世子はそのことを考えると、少し寒気がし、喜べなかった。「それは簡単だよ。時間を決めて、ちょっとギフトを買って、両親のところに行こう。俺が一緒にいるから、心配しなくていい」佳世子は適当に笑うと、ソファに縮こまり、何も言わなかった。午後。紀美子はオフィスで書類を見ていると、楠子がドアをノックして入ってきた。「社長、受付から電話があって、面会の申し出がありました」楠子が言った。「誰?」紀美子は顔を上げた。「吉田龍介様です」紀美子は一瞬驚いた。龍介?どうして、連絡もなしに来たの?紀美子は急いで立ち上がり、「すぐに上にお連れして!」と楠子に頼んだ。楠子はうなずき、振り向こうとしたが、紀美子に呼び止められた。「ちょっと待って!私が下に行く!」言うが早いか、紀美子はオフィスを出て、階下へ龍介を迎えに行った。階下では。龍介は紗子と一緒にロビーで待っていた。紀美子が出てくるのを見て、龍介と紗子は立ち上がり、紀美子に挨拶をした。「紀美子」龍介は笑顔で呼びかけた。紀美子は手を差し出しながら言った。「龍介君、紗子。事前に知らせてくれれば、迎えに行ったのに」「おばさん、お忙しいところお邪魔して申し訳ありません」紗子は微笑みながら言った。「気にしないで、忙しくないから
晋太郎は晴の父親の近くに歩み寄り、真剣な眼差しで花瓶を見つめた。「以前あなたが収集した骨董品より質は少し劣りますが、全体的には悪くないですね」「そうだね……」晴の父親はため息をついた。「どれだけ質が良くても、目に入らなければ人を喜ばせることはないものだ」晋太郎は晴の父親を見つめ、「田中さん、それは何か含みのある言い方ですが?」と尋ねた。晴の父親は手に持っていたブラシを置き、晋太郎にソファに座るように促した。そして壺を手に取って、晋太郎にお茶を注ぎながら言った。「晋太郎、今日わざわざ訪ねてきたのは、あの女の子のことだろう?」「そうです」晋太郎は率直に答えた。「晴は彼女のことが本当に好きなんです」「好きだという感情だけで、一生を共にできると思うのか?今はただの一時的な熱に過ぎない」晴の父親は冷静に言った。「田中さんは相手の家柄が気に入らないのか、それとも佳世子という人間自体が気に入らないのか、どちらでしょうか?」晋太郎は直球で聞いた。「晋太郎、君も知っている通り、俺は息子が一人しかいない。いずれ会社を継ぐのは彼だ。今、帝都のどの家族も俺たち三大家族を狙っている。この立場を少しでも失えば、元の地位に戻るのは容易ではない。だからこそ、晴には釣り合いの取れた相手を望んでいるんだ。すべては家族のためだ」「田中さんは晴の力を信じていないのですか?それに、二人が一緒にいられるかどうか信じていないのなら、むしろ自由にさせて、どれだけ続くのか見守ってみたらどうでしょう?もしかすると、あなたの言う通り、新鮮味が薄れれば自然と別れるかもしれません。おそらく、今反対すればするほど、彼らは反抗するでしょう。この世に反発心のない人なんていませんからね……」階下。晴と母親が少し離れたところに座っていた。彼女はずっと晴をにらんでいた。「何か私に言いたいことはないの?」晴は無視して、答える気はなかった。だが晴の母親はしつこく言い続けた。「どうしたの?昨日、あの女狐を叩いたことで、私を責めるつもり?」その言葉に晴は反応し、突然振り向いて母親を見て言った。「佳世子は女狐じゃない。最後にもう一度言っておく!」「じゃあどんな女だって言うの?!」彼女は声を高くした。「見てご
電源を入れた瞬間、多くのメッセージが届いた。すべて、翔太からのメッセージだった。静恵は一つ一つ確認した。「お前を救うのは問題ない。しかし、三つのことを約束しろ」「一、貞則が俺を陥れようとしている証拠(録音など)を必ず手に入れろ」「二、君は必ず執事を自分の味方につけろ。執事を抑えたら、貞則を倒す最大のチャンスが得られる」「三、貞則の計画と俺を狙うタイミングや方法を、先に必ず俺に教えてくれ。対応策を準備するためだ」メッセージを読み終わった静恵は急いで返信をした。「助けが必要だ!この携帯は絶対にバレてはいけないの。もし可能なら、貞則の書斎に録音機を隠すように手配して」一方、瑠美に無理やりジュースを飲まされていた翔太は、メッセージを見るや否やすぐに返信した。「任せてくれ。成功したら、メッセージを送る」翔太の返信を見て、静恵はほっと息をついた。これから、彼女は一人ずつ、地獄に突き落としてやるつもりだった!!……朝早く。晴はMKに呼ばれて、ぼんやりとした顔で社長室に入った。晋太郎がスーツを着ているのを見て、彼は困惑しながら尋ねた。「晋太郎、こんなに早く呼び出して一体何をするつもりなんだ?」「俺を連れてお前の親を説得したくないなら、帰れ」晋太郎は彼をちらりと見て言った。その言葉を聞いた晴は、目を大きく見開いた。「本当?本気で俺の両親を説得しに行くつもりか?」「同じことは二度言いたくない」「行こう!!」晴は興奮して言った。「今すぐ行こう!」車で、晴と晋太郎は後部座席に座っていた。「晋太郎、どうやって言うつもりだ?うちの母さんは話しにくいんだ」晴は落ち着かない様子で尋ねた。「なぜ君の母に言う必要がある?」晋太郎は冷たく言った。「君の父に頼むほうが容易いだろう」「君の言う通りだな……でも、父の方は希望がもっと少ない気がする」晴は少し考えてから答えた。「もしもう一言でも口答えするなら、今すぐ肇にUターンさせるぞ」晋太郎は袖口を直しながら言った。「わかった、わかった」晴はすぐに言った。「今は君がボスだ、君の言う通りにするよ!」「佳世子は今、何ヶ月目の妊娠だ?」晋太郎は尋ねた。「もうすぐ四ヶ月だ!」晴はこの話になると、顔に幸せ
「何で?バーとかで遊んでたから素行が悪いと決めつけるの?」「妊婦を殴るなんて、人間がやることか?」「自分の息子に聞かず、嫁に聞くのはどういうことだ?」「帝都の三大名門?笑わせんな!恥知らずにもほどがあるよ!」「Tycの女性社長っていい人だよね。きっと彼女の友達もあんな人間じゃないはず。私は彼女達を応援する!」「……」ネットユーザー達のコメントを読んで、入江紀美子はほっとした。そしてすぐ、田中晴が到着した。彼の他に、森川晋太郎と鈴木隆一も一緒に来た。紀美子達は現れた3人の男達を不思議な目で見た。5人はお互いを見つめるだけで、どこから話したらいいか分からなかった。晴は杉浦佳世子の前に来て、心配した様子で佳世子の顔を持ち上げ、泣きそうな声で尋ねた。「佳世子……まだ痛いのか?」佳世子は首を振って返事した。「ううん、もう大丈夫よ」「すまない」晴は悔しかった。「俺がちゃんと君を守れなかったから、母がちょっかいを出してきたんだ」佳世子は晴の手を握り、優しく微笑んだ。「分かってるよ、心配しないで、あんただって頑張ってるの分かってるから」2人の会話を聞き、不安を抱えていた紀美子はやっと安心できた。晋太郎は紀美子の傍に座り、口を開いた。「君は大丈夫だったか?」紀美子は首を振って答えた。「いいえ、ただ佳世子があんなことをされるのを見て、辛かった。しかし今の状況で、私はどうしようもないの」そう言って、紀美子は晋太郎達にお茶を注いだ。「君から見て、佳世子が田中家に嫁入りしたら、将来はどうなると思う?」晋太郎は紀美子を見て、いきなり聞いてきた。「将来がどうなろうと、佳世子がその子を産むと決めたなら私は親友として、無条件に彼女を支えるわ」紀美子の回答を聞いて、晋太郎は暫く躊躇った。そして、彼は頷いた。「分かった」その昼食の間、隆一はずっと複雑な気持ちだった。大親友の2人には自分の女がいるのに、自分だけ未だに一人だった。このままではいかん!自分の恋を探さなきゃ!金曜日。狛村静恵は退院して森川家旧宅に戻った。玄関に入ると、すぐボディーガード達に森川貞則の所に連れていかれた。書斎にて。貞則はお茶を飲んでいた。静恵が戻ってきたのを見て
「晴のせいじゃないわ!」杉浦佳世子は否定した。「もともと彼の母がそう言う人間なの。彼もきっと頑張ってくれてたはず!」そう言って、佳世子は入江紀美子の懐に飛び込み、力いっぱいに彼女を抱きしめた。彼女は紀美子の腹を擦って、悔しそうに言った。「紀美子、顔がめっちゃいたいんだけど、ちょっと腫れてないか見てくれる?」紀美子は笑いながら佳世子の顔を触った。「もうこんな時なのに、まだ顔のことを気にしてるの?本当に能天気だね」「だってきれいでいたいんだもん……それと、さっき私の肩を持ってくれてありがとう……」「何言ってるの?当たり前でしょ?親友だもの」家から出てきた田中晴は、憂鬱な気分で森川晋太郎の所を訪ねてきた。MK社・事務所にて。放心状態の晴がソファに横たわって、無力に天井を見つめていた。「またどうしたんだ?MKはお前のリハビリ施設か?」「母と喧嘩したんだ」晴は疲れた声で答えた。「佳世子のことでか、無理もない」晋太郎は淡々と言った。「無理もないだと?」晴は体を起こした。「そんな涼しい顔をしてないで、どうにかしてくれよ」「お前のプライドの問題を、何故俺が口を出さなきゃならないんだ?」晋太郎は手元の資料を読みながら、落ち着いた顔で言った。この時、事務所のドアが急に押し開かれ、鈴木隆一が焦った顔で入ってきた。「晋太郎!大変だ!佳世子が晴の母にぶん殴られたんだって!」「何だと?!」晴はすぐに立ち上がり、緊張して大きな声で聞いた。隆一は隣から聞こえてきた声に驚いた。「ちょっ、何でお前がここにいるんだ?」「俺がここにいちゃまずいのかよ?」晴は飛びついた。「一体どっからそんなことを聞いたんだ?」隆一は自分の携帯を晴に見せた。「ほら、ネットで話題になってるぞ!」晴は隆一から携帯を受け取り、動画を開き、自分の母が思い切り佳世子の顔にビンタを入れ、そして彼女を罵るのを見て、顔色が段々と悪くなってきた。彼は隆一の携帯を捨て、突風のように晋太郎の事務所を飛び出していった。晋太郎は絶句した。「お前ら、ここをどんな場所だとおもってやがる?井戸端か?!」しかし隆一は話を逸らした。「ところで、晴のやつはいつからいたんだ?あいつ、自分の母と喧嘩でもしにい
入江紀美子と杉浦佳世子はエレベーターに乗って1階に降りた。病院のビルから出る途端、急に現れた人影が彼女達の道を塞がった。2人が反応できていないうちに、その人が思い切り佳世子の顔を打った。驚いた紀美子は慌てて佳世子を自分の後ろに引き寄せた。そして、いきなり現れて佳世子を殴った晴の母を見て問い詰めた。「何をすんのよ?」「何してるのか、だと?」晴の母はあざ笑った。「君の友達がうちの息子に黙ってどんな破廉恥なことをやらかしたかを聞きたい?」晴の母は大きく尖り切った声で言った。彼女の声に惹きつけられ、周りの人達が皆面白そうに見学している。佳世子は妊娠しているため、ただでさえ情緒の制御が容易でなかった。そんな彼女が顔を打たれた挙句に酷い言葉で罵られたことにより、怒りが一瞬で爆発した。佳世子は紀美子を押しのけ、晴の母に向かって叫んだ。「あんたに私を殴る資格などあるの?」「あなたのような破廉恥な女、殴られて当然よ!他の人との子供を作って、その責任をうちの息子に擦り付けた!晴は、決してそんなことを甘んじて受けるようなことはしない!」「私が他の人と子供を作ったですって?」佳世子は彼女が何を言っているかさっぱり分からなかった。「何の証拠もなしに人を侮辱するんじゃないよ!」「よくバーとか行ってたじゃない?」晴の母が佳世子に問い詰めた。「そこで他の人としたんじゃないの?」佳世子が反論しようとすると、紀美子に再度横から打ち切られた。「佳世子、こんな判断力のない人と喧嘩しても無駄だよ、行こう!」紀美子は佳世子を引っ張って離れようとしたが、晴の母もついてきて、絶えず佳世子を罵り続けた。佳世子は晴の母を殴り返したくて仕方なかったが、紀美子にきつく腕を掴まれていた。駐車場に着くと、紀美子は佳世子を車に押し込み、振り向いて晴の母に向かって言った。「その話は誰から聞いたのか知らないけど、佳世子はそんな人間ではないとはっきり言っておくわ!」「フン、あなたはあのビッチの友達だから、彼女の肩を持つに決まってるじゃない!」「あんた『ビッチ』何て口にしてるけど、それでも名門のつもりなの?教養のかけらもないわ!」紀美子はそう言いながら、晴の母に一歩近づいた。「さっきの喧嘩は恐らく沢山