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第520話 イチャツキ

 入江紀美子は無力に笑って、「皆が皆でああいう恰好をしていないから!ほら、普通の恰好をしている客もいるでしょ」と言った。

入江佑樹は鼻を鳴らして、「佳世子さんはレーザーの眼球手術を受けたらどう」と言った。

それを聞いた杉浦佳世子は、佑樹を見て、「君、本当に口が厳しいわね!」

佑樹は眉を上げて、「なんならきれいな服を探してきてあげようか?」

「要らないわ。私、ここに立ってるだけで絵になるから、あんな見た目だけの飾りは必要ない」佳世子は自信満々に言った。

入江ゆみは佳世子に抱きつきながら、「佳世子さんは一番きれいだよ、お兄ちゃんは見る目のない男だから」と慰めた。

佳世子は喜んでゆみの小さな頬を撫でた。「やっぱりゆみが一番分かってるね!行こう!豪華に遊ぼう!」

4人がホテルのロビーに向って歩き出そうとした時、耳元に叫び声が響いた。

「晴兄!」

佳世子と紀美子は足を止め、声の方向へ振り返った。

優雅なドレスを身につけた加藤藍子が、上品そうにとある方向に手を振るのを見た。

少し離れた所に、正装姿の田中晴が車の横に立っていた。

黒色のピアスが日の光に輝いていた。

彼は藍子に笑みを浮かべ、「おや、デブ子じゃない、君も来たんだ」と声をかけた。

藍子は晴の腕を組み、「正装の晴兄はやっぱり世界一だわ!子供の頃とは全然違う」

晴はスムーズに腕を抜き、「それはそうさ、俺を誰だと思ってる!」

2人のやり取りを見て、紀美子の胸は引き締まった。

佳世子が不思議な目で晴を見つめているのを見て、紀美子は心配した。

今日の温泉旅行が台無しになる可能性がある。

ゆみは首を傾げて、「晴おじさんの隣の女性は……」

まだ言い終わっていないうちに、紀美子が慌てて娘の口を塞ぎながら、「しっ、言わないで!」と注意した。

ゆみが頷く前に、佳世子は既にゆみの手を放して、晴の方へ歩き出した。

しかし、少しだけ歩いたら、見慣れた車が目の前に止まった。

紀美子はその車のナンバーを見て、心臓がキュンと猛烈に鼓動した。

何で森川晋太郎も来たんだ?

運転手がドアを開けると、黒いスーツを纏い、凛冽なオーラを発する晋太郎が降りてきた。

佳世子は足を止めた。

「社長」

晋太郎は佳世子に、「今日は田中氏温泉ホテルの開店式だ、盗み撮りの奴らが周りにうろうろしている。軽率な挙動を取るな」
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