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第423話 試してもらいたい

 山川喬森は浮かんでいた笑顔を収め、視線を戻しながらコップを上げてお茶を一口飲んだ。

「森川さん、それは私に自分の弟子に刃を向けさせるということになるわ」

喬森は淡々と言ったが、些かな不満が混じっていた。

「そうとも言えるな」

森川晋太郎は細長い脚を組み、スラっとした背中をソファの背もたれに預けた。

「理由を教えてくれる?」

「あなた達デザイナーは名声を追いかけて、俺達商人は利益を追う、俺が企業の発展を図るのは、極当たり前のことではないか?」

「もしほかの誰かを相手にしろというのであれば、私は一切文句を言わないけど、自分の弟子を相手にってのが、少し酷すぎじゃない?」

「何故酷いと思っているんだ?」

晋太郎は聞き返した。

「そこまで自分の弟子に自信がないのか?」

喬森は笑って答えた。

「森川さん、ここ数年、私はあなたに関するニュースを沢山見てきた、交渉に関してはあなたに敵わないと分かっているわ。

あなたの会社の為に働くのは、別に何の問題もないけど、うちの弟子に手を出したくない、これは私のボトムラインよ」

晋太郎優雅にテーブルにおいてある水を飲んで、

「これを彼女への試練だと思ってもいいと思うが」

「それは要らないわ、Gの実力は既に証明されている」

「彼女に自分を超える実力があるかどうか、試したくないか?」

喬森は沈黙した。

晋太郎も何も言わなかった。

話がここまで進と、喬森が同意しなければ、晋太郎もこれ以上言っても無駄だった。

暫くしたら、喬森はテーブルの上に置いていたグラスを持ち上げて思い切り飲み干した。

そして「ドン」とグラスを置き、

「分かった、受けて立つわ!でも条件をつけさせてもらうね!」

晋太郎は口元に優雅な笑みを浮かべ、「言ってくれ」と言った。

「私にいつでもこの協力を中止させる権利をつけて。それと、勤務場所は私が決める」

「最短期限は一年」

と晋太郎は自分の条件を言い加えた。

彼は喬森の条件をそのまま飲み込むつもりは無く、でないと手間をかけて彼女を見つけ出した努力が無駄になる。

喬森は暫く考えてから、

「分かった、でもデザイン稿の催促だけは遠慮させてもらうわ」

「少なくとも2か月に1回は提出してもらう」

「それは問題ないわ」

午後。

入江紀美子は藤河別荘に戻って、少し片づけてから塚原悟と
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