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第262話 まだ動きはない

 松沢楠子は顔色を変えずに、「はい」と返事した。

杉浦佳世子「……」

それ以外の返事はないの?「はい」一つで終わり?

もっと楠子の話を聞いて突破口を探そうとしたのに!

用心深くて、流石だ!

田中晴は絶句して、先ほど彼女に注意したばかりなのに、またその話を持ち出した!

どうなってんだ、この女の記憶力は?!

入江紀美子は佳世子の話に乗じ、楠子を見て、「朔也とは連絡が取れた?」と尋ねた。

楠子「いいえ、まだです」

佳世子は驚いて、「朔也がどうかしたの?」と聞いた。

紀美子は、「彼の携帯は事件の日からずっと携帯の電源が落ちて、未だに音信不通だわ」と説明した。

佳世子は目を大きくした!

なに?!まさか本当に露間朔也だった?!

でないと何であいつの電話が繋がらなかったのよ!

晴は嘲笑いながら佳世子を見て、目の中は皮肉で一杯だった。

この馬鹿女はまさかまた朔也のことを疑ってるのか?

紀美子は明らかにわざとそう聞いてるのに、彼女はなぜ分からないのだろう。

晴は紀美子の話に沿って言った。「往々にして一番身近な人の素性が最も推測しにくいものだ」

「確かに」紀美子はそう言いながら、契約書に自分の名前を書いて、晴に渡した。

「田中さん、一式二部よ。私はまだ仕事が残ってるので先に失礼するわ。これからは宜しくね!」

晴は頷き、佳世子は慌てて合わせた。「紀美子、時間があればまた会いにいくから!」

紀美子「うん、わかった」

二人が帰ったあと、佳世子は晴に睨んで文句を言った。「高いよ!もう少し負けてあげられなかったの?!」

晴「それはもう十分すぎるぐらい安かったんだぞ、信じられないならあの工場の敷地面積を見てくるか?」

佳世子は口をゆがめ、「もういいわ、私だって混乱してるし、これ以上細かく聞いてられないわ!」

「どうした?君はまた朔也を疑ってるのか?」晴は口元に笑みを浮かべて聞いた。

「そうだよ!」佳世子はため息をついて、「みんなが疑わしいのよ!わかんないよ!」と言った。

晴は笑って何も言わなかった。

午後、MK社にて。

晴は契約書を森川晋太郎に渡して、「ほら、契約を結んできたよ」

晋太郎は「ああ」と返事して、契約書をめくっていったが、読めば読むほど、彼の顔が曇ってきた。

「協力期間中、在職社員の給与は乙方が支払う、だと?半年の借用レンタ
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