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反省-1

Penulis: よつば 綴
last update Terakhir Diperbarui: 2025-03-03 06:00:00

***

 しょぼくれた顔で部屋に戻るノーヴァ。不貞腐れた美少年に、ヴァニルは自業自得と言わんばかりの顔を見せる。

 2人は、ヴァールス家のメイド達に身の回りの世話をさせている。ヌェーヴェルと同じ扱いを受け、名家にこうも容易く入り込めたのは、ノーヴァの精神を操る能力によるものだ。

 ノーヴァに一滴でも血を取り込まれた者は、普通の人間ならば意のままである。ヌェーヴェルの家族でさえも、2人を親族くらいに思っている。

 ヌェーヴェルはノーヴァの力を知り、企みがあるのではないかと疑っていて、それは未だ拭いきれない。だが、2人には特に企みなど無かった。ただ純粋に、衣食住の整った環境で快楽を貪りたいだけだったのだ。

 しかし、その操作も100%ではない。時々、殆ど洗脳が効かない相手がいるのだ。その理由を、ノーヴァ本人は知らない。

「お前達! ヴェルはどうした」

 長い廊下の果てから急ぎ早に歩いてくる青年。黒髪に琥珀色の瞳が映える、 ヌェーヴェルそっくりのこの男は、ヌェーヴェルの従兄弟であるノウェル。

 年は同じで幼い頃から兄弟の様に育ち、数ヶ月早く生まれたヌェーヴェルを慕っている。現在は別邸で母親と暮らしているが、数日に一度、ヌェーヴェルに会いに来るのだ。

 そして、ノウェルはヌェーヴェルに執心しており、2人を目の敵にしている。都合の悪い事に、ノウェルには洗脳が効かない。なので、ノーヴァとヴァニルの正体や、3人がただならぬ関係である事も知られている。

 嫉妬に塗《まみ》れたノウェルは、2人に対し喧嘩腰でしか話せない。本来なら温厚で、誰にでも優しい好青年なのだが。

「ヌェーヴェルならお部屋で寝ていますよ」

「ふんっ! また無理をさせたのだろう! まったく、貴様らなどさっさと追い出してしまえば良いものを」

 勢いを殺して立ち止まり、腕組みをして牽制するノウェル。荒らげた息をふんと鳴らす。

「ヴェルに相手にされないからって八つ当たりしないでよ」

「な、なんだと!?」

「ノーヴァ、煽るんじゃありません。ノウェル、すみません。どうにも我儘が
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    ──コンコンッ 静かなノックの音に驚く。俺は、ノーヴァにつられて扉の方を見た。「やめておきなさい、ノーヴァ」 いつの間に来たのか、開け放たれた扉へ寄り掛かったヴァニルがノーヴァを制止した。 卒業の機会《チャンス》と覚悟を奪いやがって、と言いたいが、声を荒らげるような雰囲気ではない。ヴァニルの深刻そうな様子に、心臓がドクンと嫌な跳ね方をする。「ヴァニル····どういうつもり? 何邪魔してくれてんの」 ノーヴァが睨みをきかせて言った。けれど、その鋭い視線にも怯む事なく、ヴァニルは意味のわからない事を言い出す。「今のまま彼と交われば、確実に血の味が変わりますよ」「······何それ。そんなわけないでしょ」「まったく、貴方は未だ自覚がないんですか?」 やれやれと溜め息を吐くヴァニル。ムッと頬を膨らませているノーヴァと交互に見て、俺はイラつきをぶつける。「お前ら、さっきから何の話してるんだよ。俺にはさっぱりなんだが」「お前は知らなくていいよ」「え····俺、当事者じゃないの?」「ははっ、しっかり当事者ですよ。それはもうガッツリと」「だよなぁ。そうだよなぁ。で、俺は知らなくていいと?」 ノーヴァは苛立ちながら、何故かまたモジモジし始めた。頬を赤らめて、どういう感情なんだよって表情《かお》をしている。 ヴァニルは、ノーヴァを揶揄うように薄ら笑み、呆れた目を俺たちに向ける。「ヌェーヴェル、貴方は我々の事をどう思っていますか?」「どうって、何だよ唐突に。漠然としてるな····」「ヴァニル、はっきり言いなよ。甘い血は、こ、恋の証なんでしょ」「ふふっ、そうですよ。ノーヴァ、貴方の初恋ですね」「ハツコイ·&mid

  • ヴァールス家 嫡男の憂鬱   血と想いの繋がり-3

     ノーヴァは俺に跨り、豊満な躯体をこれでもかと密着させてくる。動揺している俺の顎へ指を掛け、クイッと持ち上げた。「こっちのほうが喜ぶのかなって思ったんだよ。男に興味無いとか言ってたらしいし」「い、言ったけど、そういう事じゃ····」「あ。それとねぇ、昔の約束なんてボク知らなぁい」 普段と変わらない口調なのに、艶やかな微笑を浮かべてねっとりと話すだけで、随分と雰囲気が変わるものだ。 「知ってんじゃねぇか」 呆れて言葉遣いが荒れた。貴族らしい振る舞いを心掛けているのだが、コイツらと関わっていたらつい素が出てしまう。「はぁー··お前さ、何考えてんの? 何がしたいんだ? 俺の尊厳イジめんじゃねぇよ····」「尊厳··か。んー······ヴェルって童貞だよね?」 俺の顔をまじまじと見つめ、溜めに溜めて放った一言がコレ。何なんだコイツは。 何でどいつもこいつも、デリカシーの欠片も無いんだ。そもそも童貞の何が悪いってんだ。くだらない女にくれてやるくらいなら、一生童貞のままでいいじゃないか。「な、なんで知ってるんだよ」「わぁ、本当に童貞だったの? ウケる〜」「····出てけ」「はぁ?」「出てけよっ!! どうせ俺は童貞だよ! 顔が好きだの、中身とのギャップだの、金目当てだのってロクな女がいねーんだからしょうがねぇだろ! 俺だってさっさと卒業してぇよ! でもそんなの好きな女とヤリてぇだろ! 童貞が何だよ、悪いのかよ!?」 あぁ、盛大に心の内をぶち撒けてしまった。終わりだ。絶対に笑われる。もういっそ殺してくれ····「じゃあ、ボクで卒業していいよ」「&mid

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