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狂行-1

Author: よつば 綴
last update Last Updated: 2025-03-11 06:00:00

***

──バァァンッ

 2匹の吸血鬼を叩き出し、ヌェーヴェルは力一杯に扉を閉めた。

 しょぼくれた顔のヴァニルと、終始無表情のノーヴァ。2人が一体何を考えているのか、理解できないヌェーヴェルは苛立ちを抑えられなかった。

「ノーヴァ、何故あんな事を?」

「だって、ボク隠し事なんてできないし、事実に反する事は言えないもん。それにボクの感情なんて関係ないでしょ。それは非合理だよ」

「昔から貴方は、クソがつくほど真面目ですよね」

「真面目じゃないし。お前みたいに、器用になんてできないだけだよ。悪い?」

「いいえ、貴方の良い所です。ですが、本当に良いのですか? ノウェルとヌェーヴェルが交えても」

「············嫌だよ」

「そうですか。わかりました。では、どうにかしましょう」

「どうにかって、どうするの?」

「任せてください。ノーヴァ、貴方に悲しい思いはさせません」

 そう言ってヴァニルは屋敷を飛び出して行った。

──カタンッ、カタカタッ 、カチャッ

 今夜は風が強い。ノウェルは自室に篭もり、学院の課題を進めている。

 すると、突然窓が開き蝋燭の火が消えた。それと同時に、チクッとした痛みが首筋に走る。その途端、ノウェルはふわっと意識を飛ばしてしまった。

 次にノウェルが目を覚ました時、両の手脚が麻紐でベッドへ繋がれていた。藻掻けば藻掻くほどキツく絞まり、擦れて痛みが伴う。

「なんだ、これは····」

 警戒しながら辺りを見回すノウェル。すると、脚元に人影が見えた。

「だ、誰だ!」

「ふぅ····静かにしてください。あまり騒がれると都合が悪いので。言う事を聞いていただけないなら、力づくで黙
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     いやまぁ、そうかそうか。ノーヴァにも恋をする心があったんだな。少し安心した。 特殊な生い立ちの所為か、感情が少し欠落していると思っていたのだが、そうか、そうだったのか。良かったじゃないか。 ····いや、何も良くない。ノーヴァに感情が芽生えているのは喜ばしいが、俺の置かれた状況は変わらないのだから。なんなんだ、この無駄なモテ期は。 それにしても、誰より不憫なのはノウェルだ。こいつらの色恋沙汰に巻き込まれた挙句、ヴァニルに嬲られてるんだからな。どうにかしてやらないと。 そんな事を考えていると、ヴァニルがまたとんでもない事を暴露した。 喉を焼くほどの甘さへ到達するには、双方の想いがなければならないらしい。つまりは、両想いということだ。「ちょっと待て。じゃぁなんでヴァニルの喉が焼けるんだ」「おや。やっと気づきましたか」 俺がヴァニルへ想いを寄せていると言うのか。この俺が、こんな変態を? 好きかと問われようものなら、間違ってもイエスとは言わない。なのに、どうして両想いという事になっているのだ。「貴方が阿呆だからですよ、ヌェーヴェル。貴方、とっくに私のこと好きじゃないですか。主に身体が」「なっ!? 心の話じゃないのか」「そうなんですけどね。身体から引っ張られてくる心というものもあるんですよ」 身体を懐柔され、知らぬうちに心までヴァニルの良いようにされていたという事か。言われてみれば、口では拒絶するような事ばかり言っていたが、心から拒絶した事はなかった。 むしろ、コイツらを求めて身体が疼く事もあった。アレはただの性欲だと思っていたが、そこに想いが混じっていたという事だろうか。 いや、そんなはずはない。断じて有り得ない。そんな事があってはならないのだ。それでも、思い当たる節がないわけではないから反論もできない。 コイツの言い分を認めてしまえば、幾らか楽になるのだろう。しかし、俺は難儀な性格をしているらしく、心の整理ができるまでは認められそうにない。 だが──「も

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     甘い血を求めるのは吸血鬼の本能。ローズが言う恋の成分を含んだもの、それを探知する為の能力らしい。 けれど、ほんのりと甘く絶品なのは片想いの間だけ。両想いになると、喉が焼けるほど甘く感じるようになる。曰く、恋い慕う人間の愛を手に入れる代償なのだと言う。 それはおそらく、人間と吸血鬼が交わる禁忌への戒めでもあるのだろう。混血は禍いをもたらすという、古代人の意味不明な迷信に過ぎないが。現に、ノウェルは特段禍いの種になどなっていないのだから。 だが、より甘くなるなら代償とは言わないのではないだろうか。吸血鬼の感性はよく分からん。「なぁ、なんでもっと甘くなるのがいけないんだ? 吸血鬼って甘いの苦手なのか?」「いえ、本当に喉が焼けるんですよ」「はぁ!? いや、待て。ローズの喉は焼けてないぞ。そんな話、一度も····」 俺が取り乱すと、ヴァニルは不機嫌そうに顔を歪めた。「チッ··ローズって誰ですか? その方の事は知りませんが、きっと喉は焼け爛れている筈ですよ」「そんな事····」 愕然とした俺を見て、歪めていた表情を戻したヴァニル。今度はとても穏やかな表情で、そして、慈しむような声で囁くように言葉を置く。「それでも飲み続けるという事は、よほど番を愛しているのでしょうね」「番って····。つぅか、喉が爛れて飲めるものなのか?」 半信半疑な俺を見て、ヴァニルはフンッと鼻を鳴らした。「まぁ、吸血鬼ですし回復はお手の物ですから」「なるほどな」 納得している俺に、ヴァニルは注釈を添えるように言う。「····ただ、尋常ではない痛みに耐えている筈ですけどね。何度も自ら焼く覚悟、それはもう至極の愛ですよ」 うっとりとした表情を浮かべ、胸の前で指を絡めて語るヴァニル。

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