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横取り-3

Author: よつば 綴
last update Last Updated: 2025-03-08 06:00:00

***

 外から覗くヴァニルに気づいていたノウェル。部屋を出ると、扉に張り付き聞き耳を立てていた。

 ヌェーヴェルの漏らす嬌声が、ノウェルを欲情させる。ノウェルは、腹の中がぐちゃぐちゃぐるぐるしているのを感じ、喉を己の手で締め上げ、込み上げる吐き気を抑える。

 愛しいヌェーヴェルの喘ぎ声は、聞くに絶えないほど厭らしい。可愛いヌェーヴェルが漏らす声を聞き逃すまいと、扉に強く耳を押し付ける。喘がせているのがあの吸血鬼というのは我慢ならないが、それよりも欲が先に立った。

 ノーヴァによる洗脳の甲斐あって、誰もヌェーヴェルの部屋へは近寄らない。それをいい事に、ノウェルは部屋の前で自慰を始めた。

「アンタさ、そんなとこでオナってんの変態過ぎない?」

「····なっ!!?」

「ははっ、節操なしの変態だ」

「おまっ、お前っ、いつからそこに!?」

 ノウェルは、突然現れたノーヴァに驚き、慌ててイチモツを仕舞う。

「えーっとぉ、アンタが部屋から出てきた時から、かな」

「····初めからじゃないか」

「ふふっ、いいじゃない。ボクは好きだよ、君みたいな欲望に忠実でおバカな子。そうだ変態さん、ボクがイかせてあげようか?」

「よ、余計なお世話だ!」

「どうして? ボク、手も口も上手いよ」

 元々赤らんでいたノウェルの顔が、さらに真っ赤に染まる。反論しようにも怒鳴りつけようにも、状況が状況なだけに何も言えない。

 ノウェルが言葉を詰まらせていると、部屋からヴァニルが出てきた。

「まったく、無粋ですねぇ」

「あれ? ヴァニル、ヴェルの部屋に居たんだ」

「····えぇ、まぁ」

「抜け駆け、してないよね?」

「してたぞ」

 視線を明後日の方へ逸らし、しれっと言うノウェル。

「ちょっ、アナタ何言ってるんですか!?」

「なるほどね、そうい
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     いやまぁ、そうかそうか。ノーヴァにも恋をする心があったんだな。少し安心した。 特殊な生い立ちの所為か、感情が少し欠落していると思っていたのだが、そうか、そうだったのか。良かったじゃないか。 ····いや、何も良くない。ノーヴァに感情が芽生えているのは喜ばしいが、俺の置かれた状況は変わらないのだから。なんなんだ、この無駄なモテ期は。 それにしても、誰より不憫なのはノウェルだ。こいつらの色恋沙汰に巻き込まれた挙句、ヴァニルに嬲られてるんだからな。どうにかしてやらないと。 そんな事を考えていると、ヴァニルがまたとんでもない事を暴露した。 喉を焼くほどの甘さへ到達するには、双方の想いがなければならないらしい。つまりは、両想いということだ。「ちょっと待て。じゃぁなんでヴァニルの喉が焼けるんだ」「おや。やっと気づきましたか」 俺がヴァニルへ想いを寄せていると言うのか。この俺が、こんな変態を? 好きかと問われようものなら、間違ってもイエスとは言わない。なのに、どうして両想いという事になっているのだ。「貴方が阿呆だからですよ、ヌェーヴェル。貴方、とっくに私のこと好きじゃないですか。主に身体が」「なっ!? 心の話じゃないのか」「そうなんですけどね。身体から引っ張られてくる心というものもあるんですよ」 身体を懐柔され、知らぬうちに心までヴァニルの良いようにされていたという事か。言われてみれば、口では拒絶するような事ばかり言っていたが、心から拒絶した事はなかった。 むしろ、コイツらを求めて身体が疼く事もあった。アレはただの性欲だと思っていたが、そこに想いが混じっていたという事だろうか。 いや、そんなはずはない。断じて有り得ない。そんな事があってはならないのだ。それでも、思い当たる節がないわけではないから反論もできない。 コイツの言い分を認めてしまえば、幾らか楽になるのだろう。しかし、俺は難儀な性格をしているらしく、心の整理ができるまでは認められそうにない。 だが──「も

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     甘い血を求めるのは吸血鬼の本能。ローズが言う恋の成分を含んだもの、それを探知する為の能力らしい。 けれど、ほんのりと甘く絶品なのは片想いの間だけ。両想いになると、喉が焼けるほど甘く感じるようになる。曰く、恋い慕う人間の愛を手に入れる代償なのだと言う。 それはおそらく、人間と吸血鬼が交わる禁忌への戒めでもあるのだろう。混血は禍いをもたらすという、古代人の意味不明な迷信に過ぎないが。現に、ノウェルは特段禍いの種になどなっていないのだから。 だが、より甘くなるなら代償とは言わないのではないだろうか。吸血鬼の感性はよく分からん。「なぁ、なんでもっと甘くなるのがいけないんだ? 吸血鬼って甘いの苦手なのか?」「いえ、本当に喉が焼けるんですよ」「はぁ!? いや、待て。ローズの喉は焼けてないぞ。そんな話、一度も····」 俺が取り乱すと、ヴァニルは不機嫌そうに顔を歪めた。「チッ··ローズって誰ですか? その方の事は知りませんが、きっと喉は焼け爛れている筈ですよ」「そんな事····」 愕然とした俺を見て、歪めていた表情を戻したヴァニル。今度はとても穏やかな表情で、そして、慈しむような声で囁くように言葉を置く。「それでも飲み続けるという事は、よほど番を愛しているのでしょうね」「番って····。つぅか、喉が爛れて飲めるものなのか?」 半信半疑な俺を見て、ヴァニルはフンッと鼻を鳴らした。「まぁ、吸血鬼ですし回復はお手の物ですから」「なるほどな」 納得している俺に、ヴァニルは注釈を添えるように言う。「····ただ、尋常ではない痛みに耐えている筈ですけどね。何度も自ら焼く覚悟、それはもう至極の愛ですよ」 うっとりとした表情を浮かべ、胸の前で指を絡めて語るヴァニル。

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