第277話

「真実かどうかは、後で支払えば分かるだろう」稲葉商治は振り返って南雲華恋に言った。「南雲華恋、選んでみて」

どうせ、最後は賀茂時也が支払うことになる。

南雲華恋は天才医師の稲葉商治がかなりの資産家であることを知っていたが、彼とはただの友人関係なので、こんなに彼に負担をかけるのは心苦しかった。しかし、彼女自身がそのお金を返すことはできない。

「商治、私たちは行こう。そろそろ仕事の時間だ」

南雲華恋が振り返ろうとした時、小清水夏美の冷ややかな嘲笑が聞こえた。「ほら、やっぱり偽物だって言ったでしょう。ふふ、お前たち夫婦はいいコンビだね」

南雲華恋はまだ怒っていなかったが、小林水子が我慢できず、南雲華恋の袖を引っ張り、歯を食いしばって二人に聞こえるように言った。「華恋、安心して買っていいよ。せいぜい私があなたに贈るものと思えばいい。お金は私が稲葉商治に渡すから、小清水家の奴らをぎゃふんと言わせてやる！」

南雲華恋は微笑んで言った。「他人の言葉のために無駄遣いする必要はないよ。そもそも、ウェディングドレスは必需品じゃないの」

南雲華恋の言葉を聞いた稲葉商治は鼻を触り、心の中で思った。君の夫の財力なら、ウェディングドレスは日用品にすることさえできるのに。

賀茂時也のためにお金を節約しようとする南雲華恋を見て、稲葉商治は少し心が痛んだが、兄弟の幸せのために真実を伝えたい衝動を抑え、南雲華恋の近くに寄り、声を低くした。「お金のことは気にしないで。このお金は俺にとっては何でもないんだ」

少し間を置いて、続けた。「俺はただ気を晴らしたいだけなんだ。君が買わないと、気が収まらない」

小林水子もそばで促した。「そうだよ、華恋。安心して選んで。彼のような人には、金があっても気分を買うことはできない。君のお金は彼にとって何でもない」

南雲華恋は二人に押されて店の中に入れられ、仕方なく店員に言った。「ウェディングドレスをまず見せてください」

店長は瀬川結愛と小清水夏美を見た。

一人は賀茂時也の謎の叔父さんの妻で、もう一人は小清水家の妻だ。

目の前の南雲華恋たちは名も知られていない。

考えた後、店長は言った。「申し訳ありませんが、今日はVIP顧客のみのご利用となります。次回またお越しください」

稲葉商治はこの言葉を聞いて口角を上げた。「VIP顧客のみ？ふふ.....